模型少年
お若い人には、Uコンと言ってもなんの事か解らないと思う。それは模型エンジンを乗せた模型飛行機を、スチールのワイヤーで引っ張って円形に飛ばす遊びだ。スチールは二本のワイヤーでできていて、それが飛ばす人に繋がっている。模型飛行機の片翼から操縦者の方に二本のワイヤーが20㍍ほど伸ばされていて、飛行機は円形の外側に向けて飛ぶようにあらかじめ垂直尾翼がきられている。模型飛行機はそれで、操縦者の20㍍ほど外側を周回することとなる。エンジンにコントロールはついていないで燃料が5分持つだけ積み込んである。飛行機にはアップ・ダウンの昇降舵がついていて、操縦者がワイヤーを通じて飛行機をコントロールする。
中学生になった、山本は公園でビービー音を立てて、ぐるぐる回っている模型飛行機を飛ばしている人を見た。それまではゴム動力のライトプレーンにかなり夢中になっていた山本は、まるで本物のようなその飛行姿を見て、一目で惹かれてしまった。
飛ばしている人は、高校二年生で浅野さんという人だった。その日から、山本は学校の授業中も模型飛行機の事を考えている不真面目な中学生になってしまった。
親にねだって、Uコンの操縦システム一式(おおげさな物ではない。ワイヤーと木でできた半円形のハンドルのセットだ)と排気量が0.9ccの模型マニアが「ゼロキュウ」と呼んでいるところの小さな模型エンジンとエンジン始動の為のバッテリーと充電器と初級者用の模型飛行機のキットを買って貰った。
山本は初級者用の棒のような胴体のキットをたちまち作り上げてしまった。虫ピンと木工用ボンドと輪ゴムとサンドペーパーとキリと糊とはさみとサンドペーパーとナイフと工作のいくらかの経験があれば、簡単に作れた。山本少年は月刊誌の「子供の科学」を毎月買って、その本に載っている箱形の銅をした模型グライダーの設計図で、それをを作った事もあったのだ。しかしそれは、なんだかふにゃふにゃした、今テレビでやっている鳥人間コンテストの下らない作品のようなできで、手を離すとポトと落っこちてしまうような失敗作であった。
飛行機をつくるだけではなく模型エンジンも飛ばす前に少し手を入れねばならないというのだ。自宅のある交差点のはす向かいに薬局と模型店をやっているおじさんがいた。その人がみんな教えてくれる。エンジンを、木のミカン箱に取り付けて、所定のプロペラよりも大きめのプロペラをつけて慣らし運転(ブレークインと言った)しななければならないというのだ。模型エンジンにはグロープラグという、バッテリイで赤熱させる発火装置がエンジン頭部についている。それにバッテリーのコードをつなげて、プロペラを時計回りにはじいて始動させるのだが、反動が来てしたたかに指を打つ。初心者にはそれが難しいのだ。
だから軍手も必需品だ。燃料はメチルアルコールにグリセリンを混ぜた物だ。そうした煩わしさの後、エンジンはやっとぱらぱらと回り出す。その回転をニードルという燃料調節のねじを廻して調節するのだ。慣らし運転はなるべく低回転が大切だ、それをひとけのない野原でやらねばならないのだ。




