第五話 嘗めていたpart3
まだまだ嘗めていた。
…うん、その振り上げた手を下ろして欲しい。
石なんて人に投げちゃ駄目だ。
勿論題目が浮かばなかったとかそんなんじゃない。手抜きでもない。断じてない。
…ゴホン。
まあ今度は何を嘗めていたかと言うと、自分の才能をだ。
いや、嫌味などではなく本当に自分の才能が恐ろしくなった。
神様、あなたは何をしたいんですか一体。
状況を説明すると、この世界に来ておよそ3週間。
向こうの暦とこちらの暦が大差無く、
(閏年の1日が年末に当てられているのと週が月曜にあたる曜日から始まるだけ)
時間単位も変わらず(24時間60分60秒刻み)、
一秒の長さも変わらない(らしい。来る前に神に聞いた)ので、
こちらでも向こうでも三週間経っているという事になる。
ここまで同じなのも管理者が数ある世界から探してくれたのだろうか。
で、何が言いたいかと言うと。
人がそうそう物事に慣れ、上達するほどの時間は経っていないという事だ。
だがしかし、俺の才能とやらはとんでもなかった様で。
俺の能力は3週間前と比べて異常なほどに上がっている。
…まずは読書。
1ページは5秒ほど一瞥すれば頭に入る。
昨日は分厚い辞典を簡単に読破してしまった。
その上凡その内容をほぼ記憶している。一言一句違わずは無理だが十分だろう。
これはもう絶対記憶と言っていい領域なんじゃないかと思うぐらい。
しかも以前は難しかった用語や知らない事でも直ぐに理解出来る。
読解力も相当上がっている。
とりあえず必要な知識はもう全て頭に入ってしまった。
次が魔法。
うん、魔力が異常なペースで増える増える。
魔力は使えば使うほど制御能力が上がるし、
魔力を限界まで込めて放てば瞬間魔力放出量もガンガン上がる。
限界まで魔力を酷使すれば一晩寝て朝起きれば異常なほど増えている。
難しい術式や理論も直ぐに覚え、
どんな魔法が使いたければどうすればいいのかが理解出来る。
どんどんと魔法が上達していくのが嬉しくて調子に乗って練習していたら、
下級魔術を収めた魔導書数冊の魔法を全てマスターしてしまった。
3週間では魔法を一つ二つ覚えるのが一般的な限界のはずなんだが…
錬金も学んだがこれは元素に対する理解があったため簡単に習得。
中級程度なら軽くこなせるようになった。
そして武術。
これは比較の対象が無いが、
一番錬度が低く、鍛錬に割く時間も少なかった鎌の扱いがかなり上達した。
そらもう踊れるくらいには。
そう考えると他もかなり上達したと思われる。
錬金の練習で作成した弓も練習を重ねたが、
一番後に始めたにも関わらず、木々の隙間から見えるカルーを狙い打ち出来るようになった。
飛び跳ねていると難しいが、開けた場所なら問題無いだろう。
最初は筋力が足らずにただ矢を射掛けるだけでも苦労したのに、である。
生活など言わずもがな。
軽くカルーを狩り、軽く魚を捕る。
たまに居るイノシシのような魔獣を戦闘の練習台にし、
適当な木の実をすり潰して香辛料にする。
手に入る材料が限られるのでシンプルな料理ばかりになるが、
余所見をしていても味付けや火の加減が分かる。
正直、地球に居た頃必死で料理を覚えたのが馬鹿らしくなるほどだ。
「げに恐ろしきは我が才能か」
などと自分に呆れながら呟きつつ。
神様がくれた恩恵に感謝し、自然の恵みをうまうまと頬張っていると、
外からカタン、という音が聞こえた。
外に出て見ても何も居ない。
誰も、じゃなくて何も、なあたりサバイバルに慣れてきている。
まあそれはいい。問題はどう考えても金属音だった事。
家の外から聞こえた(聴力も上がっている)し、家の外に金属なんて…
「…あった」
振り返ったそこにはポストが。
玄関の扉の横に備え付けられた、手紙などの配達物を入れるアレである。
まさかなと思いつつも、
家の中にあるポストの取り出し口を空けると、何かの封筒が入っていた。
怪訝な目で封筒を見るも、差出人の名前どころか宛名も無い。
「…神か?」
俺がココに居るのを知っているのは彼だけだし、
前の持ち主は数十年前には居なくなっている。
つまりこういった物を寄越すのは彼しか居ない。
殆ど確信を持って封を切ると、中には質素な皮の手帳が入っていた。
表紙にはこちらの文字で『ユウ』とだけ書いてあり、恐らく俺の物という事が理解出来た。
中を見ると何やら書き込まれているページが数ページ。
後は何も書かれておらず、最後の数ページまで行くとまた何か書いてあった。
やあ、君がコレを読んでいるという事はちゃんと気づいてもらえたようだね。
そちらの世界はどうかな?気に入って貰えたなら嬉しいな。
これは君にあげようと思って僕が作った物でね?
特殊な損傷防止術式と再生術式を完備しているから、
例え火の中だろうが水の中だろうがあの子のスカートの中だろうがモーマンタイだよ。
人間の力でも再現可能なようにしてあるから、魔法が上達したら解析してコピーも出来るよ。
思いつきで作った物だから不自由があったら勘弁して欲しい。
それじゃあ本題に入ろう。
君は才能を持っているが、今はまだ成長の途中だ。
どんな能力がどれぐらいあるのかも、
どんな技能を持っているのかもはっきりは分からないだろう。
まあ普通はそういうものなんだが、分かったほうが便利だろう?
ならばと思って作ったのがこれさ。
最初のページは君の名前、現在の凡その体力、魔力、
それから各種能力の大まかなランク。
次のページは君の主な所持品、装備。
その次が君の持っている能力、技能。
その次は才能。
その次からは君に仲間が出来た時、手帳に登録すれば同じように記載されるよ。
結構便利だろう?
自分や仲間の状態、長所短所、隠れた能力や才能まで完全網羅。
登録は簡単。君と相手が登録の意思を持って魔力を手帳に込めるだけ。
登録の指向性のある、君と相手の魔力を感知すれば、
感知した相手をスキャンして登録してくれるよ。
ランクとかについては最後のページに書いてあるからね。
ちなみにこの手帳のページを破けるのは君だけだし、
消滅しても君が念じれば再生する。
要らなければ捨ててくれても構わないし、ページが一杯になれば追加されるから、
100人だろうが1000人だろうがどんどん登録してくれて構わない。
ページが増えても手帳の厚さは変わらない素敵仕様だよ。
ああそれと、もう知っているかも知れないが今の君の状態を少し詳しく話しておこう。
君を送ったのはアルクという王国の王都アルケスのかなり南、
クレイアという都市の近くの森だ。
大きな都市の近くなので凶暴な野生動物は少ない。
君の家は気に入って貰えたかな?内装までは分からないから不安でね。
結構広い森だから出歩く時は迷わないよう気をつけて。
そうそう、君の家の北には聖域がある。
聖域の中心の泉の畔にはちゃんと精霊も居るよ。
近づくならそれなりの準備をして行った方がいいよ。
それじゃ、君が"此処"へと至れる事を祈っている。
PS:君の容姿はその世界では中の上〜上の下にあたるからね。
結構モテるかも知れないよ?
―ペラッ―
(能力、才能ランクはSSS〜S,AAA〜A,B〜Gまで。"+"・無印・"−"で強弱を表す。
一般的な冒険者を基準として、能力判定Gが事実上の0(才能云々以前の問題)、
Fで五流(才能がほぼ無い者の限界)、Eで四流(才能低の限界)、Dで三流(並みの限界)、
Cで二流(多少の才能がある者の限界)、Bで一流(一般から見た天才の限界)、
Aで超一流(その道の者から見ても十二分に天才な者の限界)、
AAで世界に100人以下、AAAで世界に50人以下、
Sで世界に10人以下、SS以上は一人居るか居ないか。SSSは歴史上に数人)
(ギルドでのランクはGが一般人レベルで、Gランクの依頼は危険無し。
F〜Eが下級。D〜Cが中級、B〜Aが一流。AA、AAAになると数は少なく超一流と呼ばれ、
S、SS、SSSに至っては普通に生きていたら知る機会すら無いだろう。
SSSを超えると☆(スター)ランクとなり、ランクが上がると個数が増える。
現在の歴史上最高は☆17(セブンティーンスター)で、
古に魔王を打ち倒した勇者がこれであったと言われている。
約数千年〜1万年以上前の話で、ほぼ神話化しており、その真偽は定かではない)
…俺のページを見てみよう。
ここはこの世界の言語で書いてあるんだな。
仲間も読めるようになってるのかな。
ユウ・シンドウ
年齢:27歳
ギルドランク:未登録
HP1370/1370
MP1892/1892
筋力E+
耐久力E+
知力B++
魔法力D+
機動力E+
運気F-
総合攻撃力D
総合防御力E
総合魔法攻撃力C
総合魔法防御力D++
総合回避力D+
―ペラッ―
携行所持品
・管理者手帳
装備品
武器類
・簡易魔法杖
・ダガーナイフA
・ダガーナイフB
頭
・無し
顔
・眼鏡
体
・地球の服
・地球の白衣
手
・無し
足
・地球のズボン
・地球の革靴
―ペラッ―
能力
・前世の記憶
・不老
・言語の加護
・才能者オーバーSSS
・高速思考B
・生活技能B--
・悪運A
・出会いS
・魔導知識D+
・魔導理解C+
・魔導書作成E+
・魔法薬精製D
・武術知識E
・武術理解D+
・武技作成E-
・戦術構築E-
・文章力D
など
―ペラッ―
才能
・全才能オーバーSSS
………。
「…神、あんた凄いよ…」
何この異常な能力。力とか魔法力は低いように思うが、
鍛え始めて三週間でこれなら相当だよな?
HPとMPは高いのか低いのか比較対象が無いから分からんが、恐らく高いんだろう。
筋力や耐久力は筋トレ以外で鍛えるような事してないからなあ。
戦闘もすぐ終わる程度だ。
総合防御力は防具を装備していないからな。今着てる服ただの布だし。
運気がやけに低いのが気になるが…悪運Aがあるし大丈夫だろう。
というか出会いSって。どんだけ出会いに恵まれてるんだ。
…神、あんた絶対面白がってこのスキル寄越しただろ…
簡易魔法杖はその名の通り俺が作った携行用の小さい魔法杖。
懐やスカートの下などに隠せる程度の大きさだから、
持ち運びに便利で見た目には非武装に見える。
ダガーナイフも同じ目的で作った。一応二刀流出来なくもないので二本。
三つ全部白衣の内側にポケット錬金して刺してある。
そして能力。なんか文章力とかまで載ってる。本読みまくったからかな?
というか高いよな。とても鍛え始めて3週間の冒険者未満のランクじゃないだろうこれ。
ここに来てすぐの俺の能力は知力とか才能とか以外オールFかGだったはずだ。
それが3週間でこれなんだから、冒険者の人達が知ったら涙目だな。
恐らく成長の才なんてのもあるんだろうが…才能なんて書ききれないから纏めてあるし。
…よし、まずは落ち着こう俺。
…いや、嘗めていた。正直嘗めていた。
神の加護とやらは俺の想像の遥か上でした。
…とりあえず長所と短所も分かったしバランスを意識して鍛えていこう。
神様、本当にありがとうございました。
そんなことを考えつつ、俺はしばし呆然としながら手帳を眺めていた。
探求者は、まだまだ嘗めていた。
すいません、遅くなりました。
今回の手帳やランクについてですが、
登場人物の能力をある程度分かり易くするためのものです。
ですので、余り深く考えずに、
「主人公すげー」ぐらいに思っていただければ。
さて、そろそろヒロインを出さないと。
それでは、次回もよろしくお願いします。