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真理の探求者  作者: 大神
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第二話 夢

夕side


一人の男性が量子パソコンに向かってキーを叩いている。

ディスプレイには様々なデータが羅列され、目まぐるしく変化している。

父の職業は科学者。

家でもこうしてキーを叩いている所をよく見かける。


「お父さん?」


俺が声を掛けると余程集中していたのか、少し驚いた様子だった。

しかしすぐに手を止めて振り返り、ニコリと微笑みながら返事を返してくる。

俺は父のこの笑顔が好きだった。


「今日もお仕事?」


俺が寂しげに聞くと、少し気だるげに、そして申し訳無さそうに肯定する。

どうやら研究が難航しているようだ。

家に帰ってもあまり相手出来ない事を気にしているのだろう。

愛妻家で、俺の事も可愛がってくれる自慢の父。

そんな父が申し訳無さそうにしているのが嫌で、子供ながらに気を使ってみた。


「大丈夫だよ。僕は寂しくないから。頑張ってるお父さんは、僕の自慢なんだ」


そう言うと父は一瞬驚いたような顔をして、

そしてすぐ嬉しそうに顔を緩めてありがとうと言って来た。

そして、子供が余計な気を使う事は無いんだよ、と頭を撫でて来る。

ひとしきり父との団欒を楽しんでいると、ふと父が話題を変えてきた。

曰く、自分の跡を継ぐ気は無いか、と。

正直な話年齢が一桁の子供に聞くか?と思わなくもないが、

素直に答えることにする。


「うん。お父さんと一緒の仕事したい!だって、凄いお仕事なんでしょう?」


子供ながらに父の偉大さは知っていた。

名の知れた科学者であり、家も大きく裕福である。

近所でも愛妻家として有名で、社会的な地位もある。

今回の仕事も、国から任された責任ある仕事だ、

と誇らしげに語っていたのを覚えている。


「僕も大きくなったら、お父さんみたいな立派な科学者になるんだ!」


そう言うと父は心底嬉しそうに、お前ならなれると言ってくれた。

昔から父の背中を見てきた。

よく机に向かうせいか少し猫背気味で、

ちょっとやせ気味のいかにも研究者といった感じの背中。

そんな背中をずっと見てきた俺は、昔から勉強には人一倍熱心な子供だった。

父のように立派になりたいと子供ながらに思い、

勉強、特に理数系は暇さえあれば勉強していた。

自慢では無いが、理数系だけなら既に小学校卒業間近の頭はあると思う。


「そうだ!お父さん、今度ぷろぐらみんぐ教えてよ!」


言い慣れない言葉を一生懸命使って嘆願する。

流石に驚いて、まだ早いよと言われたが、中学に入ったら教えてくれる約束を取り付けた。

その時の俺は、きっと父と共に研究出来る日が来る、そう信じていた。




………………


…………


……



夕side


俺の年齢がやっと二桁になった年の冬。


父と母が死んだ。

その知らせを聞いた時、俺の頭は真っ白になった。

学会の帰りに事故に遭ったのだそうだ。

それだけはかろうじて理解出来たが、それ以外の話は殆ど覚えていない。

かろうじて覚えていた部分も、

知らせを聞いてから丸一日は経った後にやっと思い出せただけだ。


大好きだった。いつも仕事で忙しそうで、でも母と自分を大切に想ってくれていた父。

大好きだった。いつも家事で忙しそうで、でも父と自分をとても愛してくれていた母。

その二人が、死んだ。

もう、二度と会う事も、愛してもらう事も出来ない。

父に教えを請う事も出来ない。母の手料理を食べる事も出来ない。

父と同じ科学者になって一緒に研究するという約束は?

母を自分で稼いだお金で食事に連れて行くという夢は?

いつか、必ずと決めていた。自分を産み、育て、愛してくれた二人への親孝行。

それが、もう一生出来ないと知った時、俺は頭が真っ白になった。


それから数日後、父の研究者仲間だと言う人が家に来た。

俺より五つほど年上の子供を連れて。

何でも、一人になった俺の後見人になる、という事らしい。

望むなら、今の家での生活も保証してくれるそうだ。

幼く、余裕なんて無かった俺は、長年住んだ家を出ずに済むという事で受け入れた。

後見人となった彼は本当によくしてくれた。

父の遺産を狙う親戚共を追い払い、俺の事を見守ってくれた。


後で聞いた話だが、彼は父と非常に仲がよく、

自分に何かあったら息子を頼む、と言われていたんだそうだ。

そこまで考えてくれていた父に、

そして父の頼みを受け入れて俺の面倒を見てくれたおじさんに、

俺は改めて、深く感謝した。


彼の息子もいい人だった。

気のいい彼は弟分が出来たのが嬉しかったのか、俺の相手をよくしてくれた。

彼も彼の父であるおじさんに教えを請い、プログラミングの勉強を始めたばかりらしく、

彼も俺と同じように科学者を志していたんだそうだ。

俺も父との約束を彼に話し、ならば共に科学者になろう、と約束した。


今にして思えば、両親を失った俺が壊れずにいられたのは、

彼らのおかげだったのだろう。

彼らが俺の面倒を見てくれ、立ち直るまで支えてくれたから、俺はこうしていられる。


それからの俺は他の一切をいとわず、

時間の全てを勉学へとつぎ込んだ。

きっと父と同じ舞台に立つ、それだけを目標に、俺は必死に勉強した。

父と同じ舞台に立ち、俺を助けてくれた二人に恩返しをするために。


そんなある日、父の遺産を整理していると父の研究資料の中に、

よく分からないデータが混ざっていた。

後見人となったおじさんに聞くと、父からパスワードを預かっていると言われた。

どうやら俺がそのデータを見つけたら、パスワードを教えるよう父に頼まれていたらしい。

そうして開いたデータの中には、父の"目標"が書かれていた。

曰く、"真理"を見つける、と。

真理。科学者が目指す最高の到達点であり、

未だ、その全貌すら掴めぬ境地。

世界の理の全てであり、真理を得た者は神へと至ると言われるもの。

真理へと至れば、神のごとき知恵を、技術を手に入れられると。

この世の理を紐解き、今の科学では成し得ないような事を成す。

それはかの大戦終結の功労者、俺の先祖にあたる、新藤しんどうあきらが目指したもの。

彼が目指し、そして至る事の出来なかった真理を目指す、それが父の夢だった。


それを知った俺は、父の跡を継ぐ、という意味を理解する。

父はおそらくこの事を聞いていたのだろうと。

そして決意した。父の跡を継ごうと。

父の跡を継ぎ、必ず真理を見つけると。

例え俺が無理でも俺の次の世代。俺の次の世代が無理でもそのまた次の世代。

かつて新藤明がそうしたように、父がそれを継いだように、俺も父の夢を継ごうと。

『真理を見、神へと至る』これが、俺の夢となった。


それから数年の月日が流れ、科学者となった俺は父が死の直前まで研究していた、

『多次元論』研究所、そこの研究主任に就任した。

それまで主任を務めていた後見人のおじさんが、俺に席を譲ってくれたのだ。

既に親友となっていた彼の息子はいいのか、と聞くと、

「その席は元々、君の父が君に託したものだ」と言ってくれた。

親友は俺の助手になり、父が、おじさんが、二人が共に目指したものを、

俺達二人で受け継ぎ、目指す。それを固く誓い合って、二人で研究に明け暮れた。


気が付けば俺と彼は若き科学者としてそれなりに名が知られるようになり、

政府から莫大な予算も降り、

多次元エネルギーの発生の理論も、机上ではあるが整った。

そしてそのまま二人で父達の跡を追い続けると思っていた。

しかし、俺は…俺は………「ちゅん、ちゅんちゅん」


…小鳥のさえずりが聞こえる。

次第に俺の意識にもやがかかり、薄れていく。




………………


…………


……




「………あ?」


気が付くと、俺は森の中で、樹の幹に背中を預けて眠っていた。

どうやら夢を見ていたようだ。

前世の記憶を追体験するような夢。

途中気が重くなる部分もあったが、改めて夢を追う決意が出来たのはいい事かも知れない。

神が前世での記憶を定着させると言っていたから、その影響かも知れないな。


「真理…か」


俺の目指す目標。

何かなど分からない。だが、俺は"神"と呼べる存在に出会った。

人に話せば黄色い救急車を呼ばれるかも知れないが、

俺は彼を神だと信じる。いや、信じたい。


別に俺は一般的に信仰の対象とされているような神を信じている訳ではない。

まあ、神頼みをした事が無いと言えば嘘になるが、

そんなもの切羽詰れば誰だってするだろう。

だが、俺は"神のような存在"は居ると思っている。

神のごとき全知全能。何でも知ることが出来、思った事を何でも実現出来る者。

そういった存在が今、居なくとも。

いずれ文明が発達し、文化の極みへと至れば、

神のごとく何でも知り、何でも出来るような力が手に入るのではないか。

それを見てみたい。そこへと至りたい。

そう願って、俺はここまで来た。


そしていつか必ず、真理を見、彼の居る場所へと辿り着く。


「そしていずれは、"果て"を」


いつか必ず"果て"を見る。

研究者が。探求者が。追い求める者が目指し、いつか辿り着く"果て"を、俺は見たい。

俺一人の命では辿り着けないと思っていた。

だが、俺には無限の命がある。それを成すだけの才もある。神と呼べる存在がくれた。

ならば目指すのは。同じ場所ではなく、更なる高み。

『真理を見、神へと至る』のではなく、『真理を産み、神を創る』。

それこそが、俺の目指すべき、あらゆるものの到達点。

"果て"へと。それが俺の、新たな夢だ。

果て。あるはずの無い、きっと…いや、絶対に至る事の出来ない、神をも超える"何か"。

『絶対に至る事の出来ない場所』だからこそ、目指す価値がある。夢とする価値がある。

そのためならば。どんな努力も惜しみはしない。


あるいは、俺は狂っているのかもしれない。

変人。狂った研究者。真理にとり憑かれた者。上等じゃないか。

それでも俺は、だからこそ俺は、真理を目指す。


「そのためには、まずは落ち着いて研究出来る拠点を手に入れないとな」


幸い用意はして貰っている。

どうやら俺の左手の方は少し行けば森が開けているようだ。

木々の隙間から建物のような物も見える。

恐らくあれが神の言っていた家だろう。


「…よし、まずは歩くか」


決意を新たに、歩き出す。

目指すべき場所は、未だ影も見えない。




探求者は、夢を見る。








いかがだったでしょうか?

とりあえず、ここまでを序章とさせて頂きます。

意見等の反映は次回から。

それでは、またお会いしましょう。

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