「あなた誰?」と言うだけで相手は勝手に自滅する。
今日も短くなっちゃいました……!すみません!
明日は頑張りたい……!
「私はセシリー様に虐められています!」
あるパーティーで子爵令嬢デイナはそう言った。
彼女は告げる。
自分は人目がない場所で暴言を吐かれ、暴力さえも振るわれたのだと。
そう騒ぐ彼女の声に、パーティーの参加者達はどよめいた。
しかし、多くの視線を受ける中で、セシリーは涼しい顔をしている。
彼女はデイナに興味がなかったのだ。
「私がルーファス様とお近づきになるのが気に入らなかったんだわ! 私はただお友達が欲しかっただけなのに!」
ルーファスというのはセシリーの婚約者だ。
彼は美しい容姿から異性に好意を抱かれやすかった。
だがセシリーは怒りも悲しみもしない。
セシリーは欠伸を一つして言う。
「帰ろうかしら」
「な……っ!」
決死の訴えが、一切相手にされない。
デイナの顔は真っ赤になった。
「に、逃げるのですか!」
「心当たりもない事をつらつらと並べるだけの相手を真面目に相手にして、一体私に何の利があると? それとそもそも――」
セシリーはこてんと首を傾けた。
「あなた、だあれ?」
「な……っ」
セシリーは心の底からの疑問を投げる。
デイナの顔が醜く歪んだ。
「ひ、ひどい……! 挨拶だってしたのに!」
「残念ながら私、侯爵家の女なの。数え切れない程の挨拶を聞いているのだから、何の印象も残らない方の顔までは覚えられないわ」
勿論、覚えていない相手に嫌がらせなど出来る訳もない。
セシリーの落ち着きようと、社交界でセシリーに挨拶する貴族の多さを理解しているその場の大勢は妙に納得したような空気だ。
誰がどう見ても、立場が悪いのはデイナだった。
「それではごきげんよう。……ルーファス」
セシリーは優雅なカーテシーを見せつけてから婚約者の名を呼ぶ。
「はいはい。全く、君が飲み物が欲しいと言ったのに。相変わらずだな」
飲み物を求められ、取りに行っていたルーファスはセシリーに呼ばれて姿を見せる。
そんな彼の姿を見たデイナは今だと目を光らせ。
「ルーファス様! どうかセシリー様に過ちを認めていただくよう言ってください! 私……っ」
目を潤ませるデイナ。
それを見たルーファスはきょとんとし、目を瞬かせてこう言った。
「君、誰だっけ?」
***
セシリーにもルーファスにも認知されていない、笑い者の子爵令嬢。
そう嘲笑を浴びるようになり、泣き崩れたデイナに背を向け、セシリーとルーファスは帰りの馬車へ乗った。
「何だか、大変だったみたいだね」
「よく言うわ」
セシリーは深く息を吐く。
「彼女の事、知っていた癖に」
セシリーはルーファスの性格を知っている。
だからこそ、デイナが彼に気を許した理由の中には彼自身の関与があると考えた。
そんな彼女の指摘を聞いたルーファスは笑みを深める。
先程までの温厚で誠実そうな笑みとは相反した、どこか邪悪な顔だ。
「君を陥れようとしている奴が、簡単に許されていい訳がないだろう?」
彼は近づいてくるデイナに心を許しているフリをし、彼女が強気に動く瞬間を待っていた。
……全てはセシリーに悪意を向けるデイナが一人で自滅するように。
ルーファスは元来、セシリーへの愛情が重い男だ。
本人以上に、彼女への悪意を許さない。
「悪い人」
くすり、とセシリーが笑う。
正面に座っていたルーファスはそれにつられるように笑い、それからセシリーの隣へ座り直す。
「悪い男は嫌い?」
わかり切った質問だ、とセシリーは思う。
それから彼女はルーファスの頬に手を添え、唇を奪う。
「――そんな訳ないでしょう?」
嬉しそうに細められる目を見ながら、セシリーの心は満たされていくのだった。
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