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奈落の底で拾った【略奪】スキルが、絶滅寸前の人類を救う切り札だった件  作者: 水原伊織


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6.氷雷の嵐(ブリザード・ノヴァ)――絶望を打つ鍛冶師と魔剣の共鳴

「……これが、全部救援要請か」


ユーシスは、メルカの総督府に残された古びた机の上に広げられた、数十枚に及ぶ羊皮紙を見つめていた。

泥に汚れ、血の跡がこびりついたそれらの書状は、決死の覚悟で包囲網を潜り抜けてきた伝令たちが届けたものだ。


『東の炭鉱村、暴食の眷属に喰らい尽くされる寸前です。どうかお助けを』

『北の農村、徴収という名の虐殺が始まっています。救世主様、どうか……』


震える文字で綴られた悲鳴。

アビスガルドの各地で、人々は「黒剣の英雄」という微かな光に、最後の望みを託していた。


「ユーシス、どうする? 全てを助けるのは、今の私たちだけでは物理的に不可能よ」


レイリアが、昨夜の情事でどこか艶を帯びた瞳でユーシスを見つめる。

彼女の魔力はユーシスとの【魂の誓約】を経て、以前よりも深く、鋭く研ぎ澄まされていた。


「ああ、わかっている。だが、狼煙のろしは上がったんだ。俺たちが動かなければ、この火はすぐに消える」


ユーシスは地図の一点、複数の村を結ぶ街道の要所を指差した。

「まずはここだ。ここを解放すれば、周辺の村々が連携できる。俺たちが直接行けない場所には、メルカで解放した義勇兵を送る」

「……『救世主』らしくなってきたわね、ユーシス」

「行くぞ、レイリア。地獄の住人どもに、アビスガルドの支配者が変わったことを教えてやる」


ユーシスが窓の外、救援を求める村々の空を見上げると、そこには絶望を切り裂くような紫黒色の雷光が、一瞬だけ鋭く走った。


----


「……ここが、地図にあった『鉄の墓場』か」


ユーシスは、積み上げられた武具の山を見上げた。

そこは、かつて王国の兵器廠へいきしょうだった場所。

今や、悪魔に敗れた騎士たちの鎧や、へし折れた剣が、不気味な塚となってどこまでも続いている。


立ち込めるのは、鉄錆の臭いと、強力な結界が発する魔力の火花。


「グルル……ッ!」


物陰から、腐敗した肉体を持つ『死霊犬コープス・ハウンド』の群れが、数百単位で溢れ出してきた。

地平線を埋め尽くすような、どす黒い波。


「ユーシス、来るわよ」

「ああ。一掃するぞ」


ユーシスは【魔導武装:零式改・氷雷】を抜き放つ。

レイリアが彼の背中にそっと触れると、二人の間に紫黒色の雷光がスパークした。


『──【深淵共鳴】:出力200%開放。

 範囲殲滅モード:【氷雷のブリザード・ノヴァ】を選択します』


「行け……ッ!」


ユーシスが剣を地面に突き立てた瞬間、彼を中心に直径数百メートルに及ぶ「絶対零度の雷撃」が円状に炸裂した。

押し寄せていた数百の魔物たちは、悲鳴を上げる暇もなく、その場で氷の彫像となり、続く紫の雷によって粉微塵に粉砕された。


一瞬。

たった一撃で、周囲の視界を遮っていた敵の群れが「経験値」と「魔素」に変わり、ユーシスの剣へと吸い込まれていく。


『魔力を大量吸収……。レベルアップ、および新形態の構築を開始します』


静寂が戻った墓場の奥から、重厚な金属音が響いた。


──カン、カン、カン。


規則正しく、しかし地響きのような重みを持った槌の音。

山積みの武具が左右に割れ、道ができる。その先にあったのは、溶岩が流れる巨大な炉と、上半身裸で巨大な槌を振るう、岩のように頑強な老人だった。


「……また、死に損ないが来たか。それとも、その『喰らう剣』が、俺を殺しに来たのか?」


老人は手を止めず、真っ赤に焼けた「何か」を叩き続けている。

その「何か」は、ユーシスの腰の魔剣に呼応するように、不気味に共鳴していた。


「あんたが、伝説の鍛冶師か」


「名は捨てた。今はただ、この世で最も鋭い『絶望』を打っているだけの男だ。……小僧。その剣を、俺の炉に放り込む度胸はあるか?」


老人が鋭い眼光を向ける。

それは、魔将スペルビアの魔眼ですら持ち得なかった、真理に到達した者だけが持つ威圧感だった。

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