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奈落の底で拾った【略奪】スキルが、絶滅寸前の人類を救う切り札だった件  作者: 水原伊織


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5.魂の誓約(エンゲージ)――闇を溶かす体温

石像から人へと戻り、歓喜に沸く都市メルカ。

しかし、その喧騒から逃れるように、ユーシスはレイリアを連れて大聖堂の奥深く、人目のつかない地下聖域へと駆け込んだ。


「がっ……、は……っ!!」


ユーシスが膝をつき、激しく地面を叩く。

その右目は、不気味な紫色に爛々と輝き、周囲の石床を無意識のうちに灰色へと変色させていた。


「ユーシス! しっかりして!」


レイリアが駆け寄るが、ユーシスの体からは禍々しい「傲慢」の瘴気が溢れ出し、彼女の手を弾き飛ばす。

喰らった魔将スペルビアの思念――他者を見下し、すべてを静止させようとする呪いが、ユーシスの精神を内側から塗り潰そうとしていた。


『――個体名:ユーシス。精神汚染度、上昇。

 『傲慢』の核による、人格の石化を開始します。』


システムメッセージが非情に響く。

ユーシスの意識が遠のき、世界が白黒の静寂に染まりかける。


「だめ……、行かせない……!」


レイリアは弾かれた手を再び伸ばし、背後からユーシスを強く抱きしめた。

彼女は知っていた。この暴走を止めるには、魔力同調シンクロを極限まで高め、彼女自身の「人間としての温かさ」で彼の魂を繋ぎ止めるしかないことを。


二人は、誰にも邪魔されない暗がりのなかで、互いの衣を脱ぎ捨てた。

冷たい石の床の上で、重なり合う肌。

ユーシスの荒い呼吸が、レイリアの鎖骨を熱く撫でる。


「私の……熱を感じて、ユーシス。あなたは石なんかじゃない。血の通った、私の……大切な人よ」


レイリアが耳元で囁き、指先を絡める。

その瞬間、二人の魔力が激しく火花を散らし、一本の太い奔流となって混ざり合った。

レイリアの澄んだ「氷」の魔力が、ユーシスの内側で暴れる「紫黒の炎」を優しく包み込み、ゆっくりと鎮めていく。


深く、深く溶け合うなかで、ユーシスの右目に宿っていた不気味な光が、穏やかな色へと戻っていく。

呪いによって凍りつきかけていた彼の心が、彼女の体温と、注ぎ込まれる献身的な愛によって解かされていった。


アビスガルドの闇に包まれた聖堂のなかで、聞こえるのは二人の重なる鼓動と、静かな吐息だけ。

外で吹き荒れる絶望の風も、この瞬間だけは二人を分かつことはできなかった。


----


翌朝。

差し込む柔らかな光のなかで、ユーシスは意識を取り戻した。

腕の中には、疲れ果てて眠るレイリアの姿がある。


『――精神汚染の浄化を確認。

 個体名:レイリアとの【魂の誓約】が完了しました。

 スキル:【魔眼】の完全制御に成功。』


視界に浮かぶ文字を、ユーシスは静かに見つめた。

今や、彼の右目は自らの意志で制御可能となり、その奥にはレイリアを護り抜くという強固な決意が宿っていた。


「……すまない、レイリア。助かった」


彼女の額にそっと唇を寄せると、ユーシスは再び「魔導武装」を呼び出した。

以前よりもさらに研ぎ澄まされたその刃は、もう持ち主を蝕むことはない。


二人の絆は、絶望の世界を生き抜くための、何よりも鋭い武器となった。

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