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奈落の底で拾った【略奪】スキルが、絶滅寸前の人類を救う切り札だった件  作者: 水原伊織


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25.伝説の調停者、王都の家事代行に落ちる。

「……何ですの、あの無機質な軍勢は。まさか、あの伝承が現実だというのですか……」


空を埋め尽くす機神兵団の冷徹な進軍を仰ぎ、マリアが顔を蒼白にして震えていた。


その様子は、先ほどの墜落の恐怖や嫉妬への怯えとは明らかに一線を画している。


「マリア、心当たりがあるのか。非効率な震えは後にしろ。……状況を言語化アウトプットしろ」


ユーシスが【零式・極】で機神兵の装甲を紙のように切り裂きながら、背後のマリアを促す。


「天界の最深部、禁忌の記録庫ログにのみ伝わる古い伝承がありますの。かつて、この世界の因果律が完成するより前……増えすぎたバグを『種ごと間引く』ために現れた、外宇宙の執行者。その名は――【理の調停者テオス・ギア】」


マリアは震える手で、空の裂け目から現れた巨大な機神母艦を指差した。


「彼らは世界そのものを救うためではなく、宇宙全体の『計算効率』を維持するために、基準値を超えたノイズを物理的に初期化フォーマットする存在。……太古の神々が総出で立ち向かい、ようやく次元の彼方へ追放したとされていますけれど……」


「……ハッ。つまり、今の俺たちが『基準値を超えたノイズ』だと判定されたわけか。皮肉なもんだな。効率を求めた結果、効率の化身に排除されるとは」


ユーシスは鼻で笑った。

彼らが現れた理由は明白だ。

地獄をレベリング会場に変え、王都を全自動化し、人類を爆発的に増やし……ついにはバグそのものを戦場にしたユーシスの「過剰な最適化」が、世界の枠組みを歪ませ、外の管理者のセンサーに引っかかったのだ。


「……気に食わないわね。私たちの愛や生活が、ただの『計算ミス』だなんて」


レイリアが杖を掲げ、機神母艦の演算回路を直接焼き切るほどの高密度魔力を収束させる。


「ねえ、ユーシス。あんな鉄クズの神様に、私たちの未来を『再定義』させる必要なんてないわよね?」


「当然だ。……外のシステムが俺を消そうとするなら、そのシステムごと乗っ取るまでだ。マリア、その伝承には『調停者』の弱点は載っていないのか?」


「……唯一の記述は、『彼らは予測不可能なイレギュラーに弱い』ということだけですわ。……でも、今のこの状況こそが、世界始まって以来の最大級のイレギュラー(バグ)ではありませんこと!?」


マリアの叫びに応えるように、機神母艦の主砲がチャージを開始し、王都の空が真っ白な光に包まれる。


「イレギュラー、か。……なら、計算式をさらにぶち壊してやる。レイリア、マリア、付いてこい。……外から来た『効率の神』に、本物の『蹂躙』ってやつを教えてやる」


ユーシスは跳躍し、重力を無視した軌道で、空に浮かぶ機神の心臓部へと突き進んでいった。


「……フン、他人のリソースを初期化フォーマットしに来たのなら、自分の管理権限(アクセス権)を奪われる覚悟もできているはずだ」


ユーシスは機神母艦の外殻を一瞬で切り裂き、その中枢――膨大なデータが流動する光り輝くコアへと到達した。


『――警告:異常個体ユーシスの侵入を確認。

 セキュリティ・プロトコル発動。全演算能力を排除に投入……』


「遅いな。お前の演算処理が俺の思考速度スペックを上回ったことは、一度もないぞ」


ユーシスが【零式・極】の切っ先をコアに突き立てる。

それは物理的な破壊ではない。彼の魔眼を通じて、母艦のシステム・ルートへと直接、ユーシス独自の「蹂躙プログラム」を流し込む作業だった。


『――再定義リライト開始:

 管理者権限:【理の調停者】から【ユーシス】へ譲渡。

 基本プロトコル:【世界の初期化】を破棄。

 新プロトコル:【王都アビスガルドの雑用および全自動奉仕】を適用。』


ピ、ピガガガガ……ッ!!


空を埋め尽くしていた数万の機神兵たちが、一斉に硬直した。

次の瞬間、赤く輝いていた彼らのモノアイが、従順な「ユーシス・ブルー」へと染まっていく。


「……書き換え完了だ。これでお前たちは『神の兵隊』から、俺の『全自動使用人オート・サーバント』にダウングレードされた」


ユーシスが母艦のデッキに降り立つと、先ほどまで街を焼き払おうとしていた機神兵たちが、一斉に跪いた。


『――マスター・ユーシス。

 現在のタスク:王都の瓦礫撤去、および損傷した家庭の復旧。

 予定:全住民への温かい食事(最高効率メニュー)の配布。直ちに取り掛かります。』


「……えっ、嘘でしょ!? あの伝説の調停者が、エプロンをして掃除を始めたんですの……!?」


地上から上がってきたマリアが、壊れた街灯を精密に修理する機神兵を見て、あんぐりと口を開けている。


「ふふ、さすがユーシス。……ねえ、ユーシス。あそこの一番大きな機体、私たちの新しい『全自動マッサージチェア』に書き換えておいてくれたかしら?」


レイリアが満足げにユーシスの肩に寄り添う。

効率厨の王は、世界を滅ぼしに来た神の軍勢さえも、自分の「快適なニート生活」を維持するためのインフラとして一括でリサイクルしてしまった。


「……ああ、もちろんだ。……さあ、マリア。ぼうっとしていないで、この『新入り』たちの指揮を執れ。……物流の効率がさらに上がるぞ」


「……わたくし、もう驚くのも疲れましたわ……」


空には、整然と隊列を組み、王都をピカピカに磨き上げる機神兵の姿。

アビスガルドは今、神の技術を「家事代行」に全振りした、宇宙で最も過剰なサービスを誇る要塞都市へと進化したのだ。

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