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奈落の底で拾った【略奪】スキルが、絶滅寸前の人類を救う切り札だった件  作者: 水原伊織


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23.管理権限(アクセス権)は唯一人――嫉妬する女神と『外注業者』のデバッグ作業

アビスガルドの空が、不吉な紫黒色のバグノイズに埋め尽くされようとしたその時。

天頂から、それらを強引に押し通るような「純白の閃光」が幾筋も降り注いだ。


「――もう、見ていられませんわ! このままアビスガルドがクラッシュしたら、天界の物流(在庫処分)まで止まってしまいます!」


空を割り、降臨したのは最高位天使マリア。

背後の十二枚の翼をかつてないほど激しく羽ばたかせ、その手には天界の至宝【聖裁の極光杖】が握られている。彼女の周囲には、武装した数千の天使兵団が、規律正しく、しかし必死の面持ちで展開していた。


「マリア……。天界の維持はどうした? 持ち場を離れるのは非効率だろう」


ユーシスが冷淡に問いかけるが、マリアは額の汗を拭うこともせず叫び返す。


「効率以前の問題ですわ、ユーシス様! 天界の重力制御が限界なんです! 地上の『バグ』を掃除しないと、私たちは物理的に墜落して全滅します! ……それなら、ここで戦って死ぬ方がまだマシですわ!」


なりふり構わぬ最高位天使の参戦。

マリアが杖を掲げると、天界から転送された聖なる光の雨が、実体を持たない【未定義の亡者グリッチ・アンデッド】たちのノイズを一時的に「固定」した。


「今です、天使兵団! 倫理規定は一時解除! 効率的に、一匹残らずデバッグ(消去)なさい!」


「「「御意!!」」」


白銀の鎧に身を包んだ天使たちが、バグの奔流へと突撃する。

一方で、全自動の恩恵を奪われ、絶望の淵にいた王都の民たちも、マリアの必死すぎる姿に気圧されるようにして、街灯や排水溝の部品アーティファクトを必死に引き抜き始めた。


「……ハッ。天使の親玉が、あんなに必死に泥を被っているんだ。……俺たち人間が、寝転がったまま死ぬわけにはいかないだろう!」


一人の男が、排水溝の蓋に使われていた【伝説の聖盾】を構え、襲い来る亡者に体当たりをかます。

全自動を止めたことで眠っていた「生存本能」が、マリアという外部刺激によって、一気にシステムを再起動させたのだ。


「……ふむ。天界のリソース投入と、民の『自己防衛プロセスの起動』。……ようやく、まともな戦場システムになったな」


ユーシスは満足げに頷くと、隣で不機嫌そうに頬を膨らませているレイリアの頭を軽く撫でた。


「レイリア、援護しろ。……マリアたちが稼いだ『秒』を無駄にするな。一括で、深淵の底まで『クリーンアップ』するぞ」


「……わかったわ。でもユーシス、あの鳥の親玉がカッコいいところを見せたからって、見惚れたりしたら承知しないからね?」


銀の翼を広げた女神と、漆黒の魔剣を構えた執行者。

そして、墜落の恐怖でヤケクソになった天使軍団と、セックス三昧から覚醒した人間たち。

アビスガルド史上、最も「非効率で熱い」大掃除が始まった。


----


「チッ、再構成リポーンの座標が重なっている……非効率な多重起動だ」


ユーシスが【零式・極】を振るい、亡者の群れを一括デバッグし続けていたその時。

背後の空間が「ノイズ」と共に歪み、実体を持たない巨大な【虚無の顎】が、彼の死角から音もなく迫ってくる。


それは、世界のシステムそのものを食い破る「削除命令」の具現。

さしものユーシスも、正面の数万の敵を処理するコンマ数秒、その回避が遅れ――。


「―危ないですわ、ユーシス様!!」


刹那、白銀の閃光がユーシスの視界を横切った。

降臨したのは、ボロボロの法衣を翻したマリア。

彼女は自らの十二枚の翼を盾にするように広げ、その「顎」を真正面から受け止めた。


ガギィィィィィィンッッ!!


「くっ……あああああぁぁぁっ!」


聖なる翼がノイズに削られ、純白の羽が舞い散る。

マリアは苦痛に顔を歪めながらも、必死に杖を突き立て、ユーシスを背後から守り抜いた。


「……マリア。なぜだ。お前がここで損傷するのは、天界のリソース運用において最大級の損失エラーだろう」


「……計算、なんて……していませんわ! 貴方が消えたら、誰がこの……壊れかけの世界を……『再定義』するというのですか!」


吐き捨てるように言い、マリアは膝をつきながらもユーシスを見上げ、儚げに微笑んだ。


しかし。

その感動的な「救出劇」を、背後から絶対零度の瞳で見つめている存在が。


「あら。あはは、やってくれたわね、鳥の親玉マリア


ズゥゥゥゥゥン……ッ!!


戦場全体の温度が、一瞬でマイナス数百度まで急降下しました。

レイリアの背後から溢れ出すのは、もはや「神気」ですらなく、すべてを無に帰す漆黒の「絶望」。


『警告:個体名「レイリア」。

 嫉妬ゲージ:【ERROR(計測不能)】。

 精神状態:【全領域強制排除モード】へ移行。

 対象:敵軍、および「ユーシスに触れたすべての不純物」。』


「レイリア、待て。マリアは今、戦略的に俺を──」

「うるさいわ、ユーシス。…あなたが死ぬなら、私がこの手で『消去』して、私の魂の一部として再構成してあげる。…他人の助けなんて、一ピクセルも必要ないのよッ!!」


レイリアが杖を地面に叩きつけた瞬間、王都全域が「銀色の檻」に包まれた。

それは敵を守るためではなく、敵と「余計なことをした天使」をまとめて一括で粉砕するための、死の領域。


「ひ、ひぃぃっ!? レイリア様、わたくしはただ、純粋に……っ!」

「純粋? ……その言葉、二度と吐けないようにしてあげるわ」


嫉妬で神格が暴走したレイリアは、もはや亡者たちを無視し、マリアを「物理的なノイズ」として処理せんばかりの勢いで魔力を練り始めた。


「……ったく、敵のオーバーフローより、レイリアの感情バーストの方がよっぽど質が悪いな」


ユーシスは呆れたように吐き捨てると、手元の【零式・極】を無造作に鞘へ収めた。

目の前では、バグの亡者どもがレイリアの放つ凍てつく殺気に当てられ、戦う前に物理的に砕け散っている。


だが、問題はその先だ。

マリアを睨みつけるレイリアの背後からは、もはや世界を数回はリセットできそうなほどドロドロの魔力が溢れ出していた。


「……レイリア。そこまでにしろ。マリアの行動は、天界のリソースを維持するための、彼女なりの『合理的判断』だ。……お前がここで彼女を消せば、物流ラインが完全に死ぬぞ」

「……うるさい。合理性なんて、私の知ったことじゃないわ。……ねえ、ユーシス。あの女、あなたの背中に触れたわよね? その瞬間のデータを、今すぐ私の前で『根源抹消』して。……できないなら、私がその腕ごと、彼女を消し去ってあげる」


レイリアの瞳は、もはや光を失った深い紫の深淵と化している。

一歩歩くたびに、足元の石畳が絶望の霜で凍りつき、周囲の天使たちが恐怖でバタバタと失神していく。


「……っ、ユーシス様! 助けてくださいまし! わたくしはただ、貴方が欠ければ天界が墜落するという…その、事務的な危惧で……っ!」


マリアがボロボロの翼を震わせながら、必死にユーシスの背後に隠れようとする。

だが、それが火に油を注いだ。


「……隠れる? 私のユーシスの後ろに? ……いいわ、マリア。その十二枚の汚い羽根、全部まとめて『不燃ゴミ』にしてあげるッ!!」

「……やれやれ。これ以上は時間の無駄だな」


ユーシスは溜息をつくと、光速を超える踏み込みで、暴走寸前のレイリアの懐に飛び込んだ。

そして、荒れ狂う魔力の渦を無視して、その細い腰を強引に引き寄せ、正面から抱きしめた。


「ッ……!? ユーシス、離しなさい! 今、この女をデバッグして……!」

「いいから聞け。……俺の管理権限(アクセス権)を預けていいのは、世界中で……いや、全宇宙で、お前だけだ。

マリアはただの『外注業者』に過ぎない。……業者の不手際で、お前が熱くなる必要はないだろう?」


ユーシスがレイリアの耳元で、低く、断定的な声で囁く。

その瞬間、戦場を支配していた絶対零度の殺気が、ピタリと止まった。


『──警告:個体名「レイリア」。

 嫉妬ゲージ:【急速低下中】。

 精神状態:【独占欲・充足モード】へ移行。

 対象「ユーシス」からの直接認証を確認しました。』


「……本当? ……私だけが、あなたの唯一の『管理者』?」

「ああ。……だから、その余った魔力は、目の前のゴミ(バグ)どもに向けろ。一括で片付けるぞ、レイリア」

「……ふふ。……ええ、わかったわ。ユーシスの言う通りにする」


レイリアの表情が、一瞬でとろけるような「恋する乙女」へと戻る。

だが、その手に握られた杖から放たれる魔力は、先ほどよりも密度を増していた。


「……よし。マリア、お前は下がっていろ。……ここからは、俺たちの『共同作業デバッグ』だ」

「……助かりましたわ……。でも、今の『外注業者』という扱いも、それはそれで傷つきますわね……」


マリアが地面にへたり込むのを横目に、ユーシスとレイリアは再びアビスの深淵へと向き直った。

最強の効率厨と、愛を取り戻した女神。

二人の一撃が、絶望に染まった戦場を、一瞬で「更地」へと書き換えていく。

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