21.全自動化の罠――伝説を『街の部品』に変えた王と、過激すぎる女神の献身(オーバーキル)
「捨てるのは非効率だ。……ならば、この『ゴミ』に新たな定義を与え、街の基盤として再利用する」
積み上がったアーティファクトの山を前に、ユーシスが冷徹に告げた。
王都の民たちが宝石の重みで圧死しかけ、マリアが天界の倉庫パンクで悲鳴を上げている現状を、彼は「システム上の無駄」と断じたのだ。
ユーシスが【零式・極】を地面に突き立て、右腕を空へとかざす。
『──神権発動:【構造再定義】。
対象:王都アビスガルド全域、および堆積した全アーティファクト。
目的:都市機能の完全自律化、および絶対防衛要塞への一括換装。』
ゴゴゴゴゴ……ッ!!
王都全体が、黄金の回路に包まれ激しく震動を始めた。
路地裏に転がっていた【竜神の心核】が街の動力源へと吸い込まれ、噴水に詰まっていた【冥府の魔導書】が街を覆う全自動結界の演算ユニットへと姿を変える。
「……すごいわ、ユーシス。伝説の武具たちが、石畳や街灯の部品に組み込まれていく……」
レイリアが感嘆の声を漏らす。
かつて英雄たちが一生をかけて追い求めた「究極の剣」が、今はただの「自動清掃機能付きの排水溝」のパーツとして組み込まれ、神話級の「盾」が民家の「耐震補強材」へとダウングレード(ユーシス視点では最適化)されていく。
『──換装完了。
王都:【全自動魔導要塞アビスガルド】へと昇格。
防衛レベル:測定不能(天界の総攻撃を1,000年耐えうる数値)。
利便性スコア:最大。住民の全労働を自動化しました。』
「……よし。これでゴミも片付き、防衛効率も最大化した」
ユーシスが剣を収めると、街の景色は一変していた。
道行く民たちは、自動で動く「神話級の絨毯」に運ばれ、腹が減れば「無限に食糧を生み出す聖杯」のレプリカから食事が提供される。
もはや、この街で「努力」や「苦労」という概念は、ユーシスの効率によって完全に抹消されたのだ。
「これなら、誰にも邪魔されずに、ずっと二人でいられるわね」
レイリアが満足げにユーシスの腕を取り、新しく「全自動マッサージ機能」が追加された玉座へと彼を導く。
だがその時、天界のマリアから、今にも泣き出しそうな通信が入った。
「ユーシス様! 貴方が『いらない』と言って送ってきた【虚空の魔石】のせいで、天界の重力バランスが狂い、島が一つ墜落しかけています! すぐに回収に来てください……!!」
「……チッ。天界のシステムは、相変わらず脆弱(低効率)だな」
効率を極めすぎた結果、世界そのものが「ユーシスというバグ」の重みに耐えきれなくなっていた。
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『──警告:個体名「レイリア」。
対象「ユーシス」の全自動化に伴い、余剰演算領域が限界を突破。
すべてのリソースを「献身」および「過剰介護」へと一括転換しました。』
王都アビスガルドが「全自動魔導要塞」へと昇格し、一分の隙もない効率的楽園となった結果、皮肉にも一人の女神の「役割」が消失した。
民の食事も、街の防衛も、掃除も、すべてがアーティファクトの自律回路で完結する。
結果として、神となったレイリアの全意識は、唯一「自動化されていない対象」──ユーシスへと、100%の純度で注がれることとなった。
「……ねえ、ユーシス。あっちの椅子に座るのも、一歩歩くのも、筋肉のリソースがもったいないわ」
玉座に座るユーシスの膝の上に、レイリアが当然のように滑り込む。
彼女の銀色の翼がカーテンのように周囲を遮断し、二人だけの「密室」を物理的に定義した。
「……レイリア。俺の身体機能は正常だ。歩行のオートメーション化は、まだ必要ない」
「ダメよ。あなたは世界を効率化した英雄(王様)なんだから。……ほら、あーんして? 天界から取り寄せた最高級の聖果を、私の魔力でさらに『幸福度最大』に調整しておいたわ」
レイリアの手が、ユーシスの唇に触れる。
単なる食事ではない。彼女の指先からは、触れるだけで精神を陶酔させる「神の熱」が、微弱なパルスとなってユーシスの脳を直接ノックしていた。
『──個体名「ユーシス」。
レイリアによる「24時間連続接触」を検知。
あなたのプライバシー領域は、現在0.00%です。』
「……非効率だな。俺の思考リソースまで、お前の『お世話』に対する応答で占有され始めている」
「いいのよ。思考なんてしなくていいわ。……ユーシスの脳内の全プロセスを、私の『愛』を処理するためだけに回してほしいの。……ねえ、心拍数、もう少し上げてもいいかしら?」
レイリアの瞳が紫色に発火し、彼女の影がユーシスの影を物理的に「捕食」して同化していく。
それはもはや介護ではなく、魂の吸収に近い。
「……くっ、魔力が……。レイリア、お前の献身は、出力が過剰すぎる……!」
「あら、ごめんなさい。でも、あなたが私の『お世話』なしでは指一本動かせなくなるまで、絶対に離してあげないから」
全自動都市アビスガルド。
民が何もしなくても生きていける楽園で、唯一、最強の王だけが、一人の女神の「重すぎる愛」という名の、最も非効率で最も濃密な労働(お相手)に忙殺されていた。




