20.レアドロップの津波――効率的に乱獲しすぎて王都が物理エラー(パンク)を起こしました
王都の平穏な日常の最中、突如として庭園の中央に漆黒の「穴」が空いた。
それは地獄の門とも、天界の裂け目とも違う。光すらも吸い込む、純粋な「未定義領域」の闇。
「……ふむ。地獄も天界も掌握したが、まだこの世界には『理の外側』が残っていたか」
ユーシスは腰の完治を確かめるように軽く回すと、不敵な笑みを浮かべてその穴を覗き込んだ。彼の魔眼には、その底にうごめく「膨大な経験値」と「未知のレアドロップ」の反応が、洪水のように映り込んでいる。
「ユーシス、どこへだって付いていくわ。……この穴の底が、二人きりの『無』であってもね」
レイリアが彼の腕を抱きしめ、神格化した銀の翼を広げる。二人は躊躇なく、その垂直に切り立った闇の中へと飛び込んだ。
着地した場所は、空も大地も「階層」として区切られ、数千数万の『バグの残骸』が蠢く無限の牢獄──【万象剥離の獄底】。
そこは、世界の理からあぶれた「異常個体」と「過剰強化された怨念」がひしめき合う、ハクスラ勢にとっての聖域。
『──エリア確定:【万象剥離の獄底】。
この領域の魔物は「存在理由」を剥離されており、倒すたびに即座に再構成されます。
ドロップ率:通常の500倍。効率の限界に挑んでください。』
「……再構成が即座、だと? 狩り場を移動する手間が省けるわけか。最高に効率的だな」
ユーシスが【零式・極】を抜くと同時に、周囲から数万の異形の影が殺到する。一体一柱がかつての地獄の将軍クラスの質量を持っているが、今のユーシスには「ただの歩く素材箱」にしか見えない。
「レイリア、バフを最大化しろ。……ここは、俺たちのための『最終処分場』だ」
「ええ……! 【深淵凍結】――まとめて、私のコレクションになりなさい!」
レイリアが杖を突き立てると、階層全体が紫黒色の氷に包まれ、敵の動きがコンマ一秒で停止する。
そこを、ユーシスの【根源抹消】が薙ぎ払う。
『──10,000コンボ達成。
一括回収:【虚空の魔石】を99,999個取得。
レベルアップのログが止まりません。表示を省略しますか?』
「……省略しろ。邪魔だ。……さあ、次の階層へ行くぞ。この獄底を、俺たちの色で塗りつぶすまでな」
二人の蹂躙は、世界の底に眠っていた「真の地獄」さえも、効率的なレベリング会場へと変えようとしていた。
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『──警告:個体名「ユーシス」。
インベントリの空き容量が、負の数に突入しました。
オート・ルーターによる「一括回収」が強制解除され、超過分が現実空間へ排出されます。』
アビスの深層で無機質なシステムメッセージが響いた瞬間、王都の空が黄金色と漆黒の光に染まった。
庭園に空いた「穴」から、噴水のように、いや、火山の噴火のごとき勢いで「モノ」が溢れ出したのだ。
「……ッ、なんだ!? 宝石の雨か!?」
王都の民たちが空を見上げる。
降ってきたのは、地獄の将軍クラスが一生に一度拝めるかどうかの【魔神の涙】や、天界の秘宝に匹敵する純度の【深淵金剛石】。さらには、一振りで国が買えるレベルのアーティファクトが、文字通り「ゴミ」のような密度で降り注いでいる。
ドォォォォォォンッ!!
「……ふぅ。一万階層までは一瞬だったな。だが、さすがにドロップ品の処理が追いつかないか」
穴の中から、涼しい顔をしたユーシスがレイリアと共に帰還する。
だが、彼らが目にしたのは、優雅な庭園ではなく、高さ数十メートルにまで積み上がった「お宝の山」だった。
「ユーシス様! お戻り……ぐはぁっ!?」
迎えに来た兵士が、転がってきた【竜王の逆鱗(盾)】の下敷きになりかける。
王城の廊下は【冥府の絹織物】で埋め尽くされ、噴水からは水ではなく【最高級ポーション】が溢れ出していた。
「……ユーシス、これじゃ歩けないわ。私たちの寝室まで、レアドロップの防壁ができちゃってる」
レイリアが困ったように、だがどこか誇らしげに微笑む。
神となった彼女の魔力と、ユーシスの【根源抹消】による効率的な「解体」が合わさった結果、アビスの資産が王都の物理的限界を超えてしまったのだ。
『──現在、王都の住居可能面積の85%が「レアドロップ品」により占有されています。
このままでは、民が宝石に押し潰されて全滅する「贅沢な滅亡」が発生します。』
「……非効率だな。素材は集めるものであって、生活を圧迫するものではない」
ユーシスは呆れたように溜息をつくと、山積みの神話級アイテムを無造作に踏み越え、天界への通信回路を開いた。
「マリア、聞こえるか。……『在庫処分』の規模を拡大する。今すぐ天界の輸送部隊をフル稼働させろ。……ああ、代金(等価交換)は後回しでいい。とにかく、この『ゴミ』を片付けろ」
「……ゴミ!? 今、地獄の神核をゴミと仰いましたか……!?」
水晶越しに聞こえるマリアの悲鳴。
最強の効率厨がもたらした「平和」は、今や「資源過多」という名の新たなパニックを世界に引き起こしていた。




