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奈落の底で拾った【略奪】スキルが、絶滅寸前の人類を救う切り札だった件  作者: 水原伊織


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19.浮気厳禁の物流リスト。天界の門を凍らせる女神の微笑

翌朝。

地獄を数日でデバッグし、天界の管理者さえも震え上がらせた最強の執行者、ユーシスの姿は……王城の中庭で、無残にも「くの字」に折れ曲がっていた。


「……ぐっ、腰が。システムに……致命的な、物理的損傷エラーが……」


ユーシスは手すりにしがみつき、一歩歩くたびに顔を歪めている。魔力は無限。因果も抹消できる。

だが、神格化し、独占欲がカンストした女神による「一晩中の濃密な魔力同期(お仕置き)」という名の物理的攻勢には、彼の腰の骨(L5仙椎あたり)は耐えきれなかった。


「ふふ、おはようユーシス。まだ顔色が悪いわね? もう一度、寝室で『再起動』してあげましょうか?」


その傍らで、透き通るような肌をさらに輝かせ、鼻歌交じりに彼を支えるレイリア。彼女の背中の銀翼は、まるで極上の素材を仕留めた後のように、満足げにパタパタと小刻みに揺れている。


そんな二人の様子を、城門の向こうから見守る王都の民たちは、感動に震えながらひそひそと語り合っていた。


「おい、見ろよ……ユーシス様を。あんなに足元がフラフラになるまで、我々のために戦ってくださったんだな」

「ああ、昨夜の王城から溢れ出していた、あの凄まじい神気(※痴話喧嘩の余波)……。きっと、地獄の残党か、天界の刺客と人知れず死闘を演じていたに違いない」

「見てみろ、レイリア様のあのお顔を。あんなに慈愛に満ちた表情で王を支えていらっしゃる……。きっと、命を賭して世界を守り抜いたユーシス様を、心から労っていらっしゃるんだ」


民たちの間では、すでに「昨夜、王都を襲おうとした目に見えない巨悪を、ユーシス様が腰を痛めるほどの超絶技巧で粉砕した」という伝説が爆速で構築ビルドされていた。


「……違う。これは、ただの……身から出た錆(効率の代償)だ……」


ユーシスが力なく呟くが、その声は民たちの歓声にかき消される。


「ユーシス様! 万歳! 世界を救ってくださり、ありがとうございます!」

「腰をお大事に! 次の戦いに向けて、ゆっくり休んでください!」


民たちの純粋な感謝の眼差しが、ユーシスの良心(デバッグ済み)をチクチクと刺す。

効率を求めすぎて天界の女神を抱こうとし、結果として自分の腰を「抹消」しかけた男は、隣で勝ち誇ったように微笑む「真の勝者レイリア」に支えられながら、一歩一歩、非効率な足取りで玉座へと向かうのだった。


----


「……ったく、効率厨の俺が、自分の腰の修復にこれほどのリソースを割く羽目になるとはな」


豪華なカウチにうつ伏せになったユーシスが、苦々しく吐き捨てる。その腰元では、レイリアが慈愛(と、ほんの少しの独占欲)に満ちた笑みを浮かべ、透き通るような紫の魔力を流し込んでいた。


「いいじゃない、ユーシス。私の魔法なら、細胞の一つ一つまで『私好みの状態』に固定してあげられるわ。……ほら、もう痛みは消えたでしょう?」


レイリアの治癒魔法──それはもはや「修復」ではなく、ユーシスの肉体を彼女の魔力特性で上書きする「調教チューニング」に近いものだったが、背に腹は代えられない。バキボキと嫌な音を立てていた腰椎が、因果律を無視した速度で完治していく。


「……ふぅ。ようやく、まともに立てるな」


ユーシスが立ち上がり、衣服を整えたタイミングで、昨日の「被害者」である天界の最高位天使マリアが、恐る恐る謁見の間に姿を現した。


「……ご、ご機嫌麗しゅう、アビスガルドの王。……昨夜は、その、激しい『聖戦』があったと民たちの間で噂になっておりましたが……ご無事で何よりです」


マリアは赤面しながら、ユーシスの腰をチラチラと盗み見る。彼女の脳内では、昨日の「プロポーズ未遂」と今日の「腰痛」が、とんでもないアダルトな因果関係で結ばれようとしていた。


「……変な勘違いはよせ。本題に入ろう、マリア」


ユーシスは咳払いを一つして、事務的なトーンで告げた。


「昨日の提案だが……条件付きで同盟を結ぶ。天界が俺たちの領域に、一ピクセルたりとも干渉しないことが絶対条件だ。こちらから攻め込むのも、時間の無駄だからな」

「……っ! 承知いたしました! 我ら天界も、貴方の『根源抹消』をこれ以上刺激するつもりはございません」


マリアは安堵の溜息をつく。これで天界のデバッグ(全滅)は免れた。


「それと、素材の件だ。地獄を全滅させて以来、使えもしない『負のエネルギー』や『呪われた魔石』がインベントリを圧迫していてな。これらを天界の清浄な素材と交換する。俺にとってはゴミだが、お前たちにとっては研究材料にでもなるだろう?」

「ええ、喜んで! 天界には有り余るほどの『聖光石』や『天使の涙』がございます。地獄のレアドロップ品との交換なら、互いに採取効率を最大化できますわ!」


こうして、かつては世界の終わりを予感させた一触即発の危機は、**「在庫処分の物々交換」**という、極めて現実的で非情なビジネス同盟へと着地した。


「……ふふ、いいわね。素材の交換なら、ユーシスがわざわざ天界まで『狩り』に行く必要もなくなるものね?」


レイリアがマリアの隣に立ち、その肩にそっと手を置く。笑顔だが、マリアの翼が恐怖で一瞬にして逆立った。


「わかっているわよね、マリア? もし交換品のリストに、あなた自身の『アプローチ』なんて項目が含まれていたら……その時は、天界の門ごと、凍らせてあげるから」

「ひ、ひぃっ……! も、もちろんですわ! リストにあるのは、純粋な鉱石と薬草のみです!」


地獄の王を消し去った男と、その男を独占する女神。

二人の「平和」は、天界をも巻き込んだ巨大な物流システム(物流ハクスラ)へと形を変え、アビスガルドに奇妙な静寂をもたらした。

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