18.効率的システム統合(プロポーズ未遂)――最強の男が溺れる『非効率な愛』のお仕置き
王都の謁見の間。
そこには、背中に十二枚の純白の翼を輝かせた、天界の最高権威・マリアが降臨していた。
彼女の周囲には、天界が誇る至高の聖遺物が山のように積まれている。
「アビスガルドの王、ユーシス。……そして、深淵の女神レイリア。我ら天界は、貴方方の圧倒的な『効率』に敬意を表し、これらレアドロップ品を献上いたします」
マリアは優雅に一礼し、透き通るような声で続けた。
「……これらは天界の最深部で数万年かけて精製された聖遺物です。
これを攻め落として奪う労力を考えれば、我々と『共存』し、定期的に供給を受ける方が、貴方にとっても圧倒的に効率的かと思われますが……いかがでしょう?」
マリアの瞳には、冷や汗を隠した必死の「外交工作」が宿っていた。
戦えば消される。ならば、自分たちを「便利な素材供給源」として定義させるのが最善の策だ。
ユーシスは玉座に深く腰掛け、積まれた聖遺物を鑑定の魔眼で一瞥した。
「……なるほど。確かに、この純度の素材を一から集めるのは非効率だな」
「(……勝った!)」
マリアが内心で安堵した、その瞬間だった。
ユーシスはふっと立ち上がり、あろうことか天界の象徴であるマリアのすぐ目の前まで歩み寄ると、彼女の顎を指先でクイッと持ち上げた。
「だが、もっと手っ取り早い方法がある。
……天界の管理権限を持つお前自身を、俺の『所有物』にしてしまえば、
これらの素材も、天界のシステムも、丸ごと一括で俺の管理下に入る。……これが最大効率だ」
「えっ…? あ、あの……所有物、とは…?」
赤面し、硬直するマリア。ユーシスの顔が至近距離まで迫り、その漆黒の瞳が彼女を「攻略対象」としてロックオンする。
「言葉通りだ。……お前を、抱く」
「っ…!?!?!?!?」
最高位天使、全宇宙の前でフリーズ。
しかし、その刹那――。
パァァァァァァァンッッッ!!!
謁見の間に、乾いた、そして凄まじい衝撃音が響き渡った。
ユーシスの頬が、光速を超えたレイリアの平手打ちによって激しく弾かれる。
「……何。を。言ってるの。ユーシス?」
そこには、笑顔ながらも背後からドロリとした漆黒の神気を溢れさせた、女神レイリアが立っていた。
彼女の手は、怒りで微かに震えている。
「あ、レイリア。いや、これはあくまでシステム統合の効率化として──」
「効率化!? 別の女を抱くことが効率化!? 私という女神がいながら、その…そんな『鳥の親玉』みたいな女に手を出すなんて……ッ!」
「と、鳥の親玉……っ!?」
マリアがショックでよろめく。
レイリアはユーシスの胸ぐらを掴み、その顔を自分の方へ無理やり引き寄せた。
「いい? ユーシス。あなたの魔力を、存在を、一滴残らず受け止めていいのは私だけ。…もし次、そんな『浮気な一括処理』を口にしたら、天界ごと……いえ、あなたの『その部分』ごと、根源から抹消してあげるわ」
「……あ、ああ。すまん、少し効率を求めすぎた」
地獄の王を屠った最強の執行者も、愛に狂った女神の平手打ちには抗えない。
頬を赤く腫らしたユーシスは、珍しくバツが悪そうに視線を逸らした。
それを見つめるマリアは、恐怖と恥じらいで翼をバタつかせながら、「交渉以前の問題ですわ……!」と心の中で絶叫するのだった。
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謁見の間での「効率的システム統合(プロポーズ未遂)」から数時間。
王都の寝室は、レイリアが展開した【銀翼の結界】によって、外界から完全に遮断された密室と化していた。
そこには、戦場での冷徹な軍師の顔をかなぐり捨て、一人の「独占欲の塊」となった女神の姿があった。
「……ねえ、ユーシス。さっきの『効率化』、もう一度詳しく説明してくれないかしら?」
レイリアが、ベッドに横たわるユーシスの腕を、自らの羽でがんじがらめに拘束しながら耳元で囁く。その声は甘いが、瞳の奥には漆黒の嫉妬の炎が揺らめいている。
「……いや、あれは単に、天界の全リソースを最短ルートで掌握するためのロジックであって……」
「ロジックなんていらないわ。必要なのは、あなたの心と身体が『誰のものか』という、たった一つの、書き換え不可能な事実だけ」
レイリアはユーシスの胸元に指を這わせ、神格化した熱い魔力を、容赦なく彼の血管へと流し込んだ。
『──警告:個体名「レイリア」。
お仕置きモード:【強制魔力同期】を実行中。
ユーシスの意識を、快楽と愛のデータだけで満たす「フォーマット」を開始します。』
「……っ、レイリア! この密度は、さすがに……脳が焼ける……!」
「いいのよ。他の女(鳥の親玉)のことなんて、一文字も思い出せなくなるまで、私の魔力で上書きしてあげる。……ほら、私だけを見て?」
レイリアの背中の翼が激しく脈打ち、寝室全体の温度が跳ね上がる。
地獄を数日で全滅させたユーシスも、この「愛の暴力」には抗う術がない。彼の【根源抹消】ですら、目の前の女性への愛しさまでは消し去ることができなかった。
「……ああ、わかった。俺が悪かったよ、レイリア。……天界のシステムなんて、どうでもいい」
「……ふふ、やっと素直になったわね。でも、お仕置きはまだ始まったばかりよ? あなたが『もう効率なんて考えられません』って泣いて縋るまで、たっぷり供給してあげる……っ」
神となった彼女の唇が、ユーシスの呼吸を奪う。
最強の効率厨が、人生で初めて「最も非効率で、最も濃密な時間」に溺れていく。
外では、天界の女神マリアが「私は一体、何を献上しに来たのかしら……」と虚空を見つめて立ち尽くしていたが、この結界の中の二人には、もはやその存在すら「消去済み」のデータに過ぎなかった。




