14.地獄への逆侵攻――【オート・ルーター】で使徒を素材に変える『掃除』の始まり
「……待ちの戦術は性に合わん。消されるのを待つより、消しに行く方が効率的だ」
ユーシスは空に穿たれた黒い亀裂――地獄の使徒クルールが残した「世界の綻び」を見上げた。修復されようと蠢く空間の傷跡に向け、彼は進化したばかりの右腕を突き出す。
『──神権発動:【根源抹消】。
対象:世界境界の「拒絶」および「隔壁」の概念。
出力最大、因果の遡及破壊を開始します。』
「ユーシス、まさか……あの中に乗り込むつもり!?」
レイリアが驚きに目を見開くが、その手は既にユーシスの腰を強く抱き寄せ、魔力を全開放していた。彼女の瞳には、恐怖ではなく「彼と一緒ならどこへでも行く」という狂気にも似た信頼が宿っている。
「門が閉じるという『結果』を消す。……開け」
パリンッ! ギギギィッ……!!
空間が悲鳴を上げた。
本来なら一方向からしか開かないはずの次元の門が、ユーシスの【根源抹消】によって「閉じているという過去」を剥ぎ取られ、無理やり逆方向へとこじ開けられる。
漆黒の亀裂が黄金の雷光を浴びて膨張し、そこから地獄の深淵――アビスガルドすら生ぬるく感じるほどの、濃密な死と虚無の風が吹き荒れた。
「……行くぞ、レイリア。地獄の連中に、本当の『無』を教えてやる」
二人は躊躇なく、空に開いた「虚無の穴」へと飛び込んだ。
視界が反転し、重力が消失する。
辿り着いた場所は、空も大地も存在しない、ただ幾千もの「消えかけた世界」が残骸となって漂う、灰色の虚空だった。
そこには、クルールと同じ姿をした『使徒』たちが数万、数十万という軍勢を成して、次の蹂躙の機会を待っていた。
「……何だと? アビスガルドの羽虫が、自ら死地に飛び込んできたというのか」
最前列にいた巨体の使徒が、嘲笑と共に巨大な鎌を振り下ろす。その一撃は、触れたものの「未来」を刈り取る絶望の刃。
だが、ユーシスは避けない。
【零式・極】の切っ先が鎌に触れた瞬間、鎌を振るった使徒の巨躯が、頭の先から足の裏まで一瞬で「透明」になった。
『──対象:地獄の千人長。
【根源抹消】により、存在の「起点」から消滅。
ドロップアイテム:【地獄の虚核】を100個一括取得。』
「……遅い。お前たちが『動く』という概念そのものを、今この瞬間に歴史から消した」
ユーシスの一振りが、虚空に黒い波紋を広げる。
その波紋に触れた使徒たちは、叫び声を上げる暇もなく、最初からこの世に存在しなかったかのように、文字通り「消えて」いく。
「すごい……! ここは地獄の魔力が濃すぎて、私の魔法が無限に増幅されるわ! 【深淵凍結】――因果ごと、凍りつきなさい!」
レイリアが放つ紫黒色の氷が、虚空を走り、逃げ惑う使徒たちの「逃走経路」を過去に遡って凍らせていく。
逃げたはずの先ですでに凍りついているという、時間の因果を無視した広域殲滅。
「な……馬鹿なッ!? 我ら地獄の軍勢が、たった二人の人間に蹂躙されているだと!?」
後方に控えていた使徒たちが、初めて「恐怖」という概念を理解した。
彼らは「無」を届ける使徒だったはずだ。だが今、目の前にいる男と女は、その「無」さえも喰らい尽くし、自分たちを「存在の定義」から消し去ろうとしている。
「効率を上げよう、レイリア。……ここにある全ての『悪意』を、俺たちの成長にする」
ユーシスが空中に手をかざすと、システムメッセージが狂ったように更新され始めた。
『──【万象捕食】と【根源抹消】の複合発動。
広域自動レベリングを開始。
地獄の軍勢を「素材」として再定義し、自動回収を有効化します。』
二人の周囲で、数万の使徒たちが次々と「素材の光」に変わり、ユーシスの魔剣へと吸い込まれていく。
それはもはや戦いではない。
地獄を舞台にした、史上最大の「掃除」の始まりだった。




