三人で迎える、少しだけ騒がしい朝
三人初の朝です。
まだ距離はあります。
朝。
目を開けると、天井ではなく――
獣耳が見えた。
「……?」
視界の端に、銀灰色の耳がぴくりと動く。
レイナが、小屋の入口近くで座ったまま寝ていた。
丸い精霊が、その膝の上で丸くなっている。
……懐いてるじゃないか。
梁の上から、声が落ちる。
「うるさい」
ルナだ。
朝日が差し込み始めている。
彼女は眩しそうに目を細めている。
「まだ何も言ってないぞ」
「考えてる音がする」
「しない」
レイナが目を開けた。
金色の瞳が、まっすぐこちらを見る。
「……朝か」
低い声。
寝起きでも警戒は消えない。
俺は体を起こす。
「とりあえず、水汲むか」
外へ出る。
朝の空気は冷たい。
川の水を汲んで戻ると、レイナが小屋の周りを歩いていた。
足音がほとんどしない。
見回りだろう。
ルナは入口に座り、腕を組んでいる。
「あなた、夜に外へ出た」
ルナがレイナに言う。
「走った」
「うるさくはなかった」
「……そう」
会話が硬い。
でも、敵意はない。
丸い精霊が二人の間をぴょんぴょん跳ねる。
空気を和らげているつもりらしい。
可愛い。
⸻
「朝飯はないぞ」
俺が言う。
「トマト、まだ青い」
ルナが畑を見る。
レイナも見る。
二人の視線が、同じ方向を向く。
「狩る」
レイナが言う。
「やめろ」
即答だ。
「畑があるなら、畑を増やす」
レイナは少し考える。
「……群れは、分ける」
「分ける?」
「見張りと、狩りと、守り」
彼女は自然に役割を口にする。
「ここは、小さい」
「うん」
「でも、守れる」
ルナがふっと笑う。
「まだ豆腐よ?」
レイナは真顔で小屋を見る。
「弱い」
「知ってる」
俺は肩をすくめた。
「だから、強くする」
その言葉に、二人がこちらを見る。
「強くする?」
「畑広げる。水路整える。家もそのうち増やす」
レイナの耳がぴくりと動く。
ルナの瞳が少し細くなる。
「……村みたい」
ルナが呟く。
俺は少し考える。
村。
まだ小さい。
でも。
「まあ、そんな感じだ」
丸い精霊が、ぽこん、と跳ねた。
光がふわっと広がる。
朝日が、小屋と畑を照らす。
三人の影が、地面に並ぶ。
ぎこちない。
でも、悪くない。
レイナが小さく言う。
「……しばらく、いる」
ルナが答える。
「静かならね」
俺は水を飲む。
「うるさくする気はない」
三人で迎える朝は、少しだけ騒がしかった。
でも、不思議と落ち着いていた。
豆腐ハウスは、もう“俺の家”ではない。
少しだけ――
“群れの家”になり始めていた。
三人の朝でした。
次回は、畑拡張回か、レイナの群れ話に入ります。




