夜の匂いをまとった獣人
三人目の登場です。
その夜、最初に気づいたのはルナだった。
「……来る」
梁の上に座っていた彼女が、ふっと視線を森へ向ける。
丸い精霊が、ぴたりと動きを止めた。
光の粒も、わずかに揺れる。
俺は外へ出た。
森の奥。
暗がりの中に、金色の光が二つ。
目だ。
ゆっくりと、影が姿を現す。
月明かりに照らされて見えたのは――
獣耳。
長い銀灰色の髪。
しなやかな体。
そして、鋭い瞳。
「……人間」
低い声。
警戒している。
「まあ、そうだな」
俺は両手を軽く上げる。
敵意はないアピール。
ルナが小屋の入口に立つ。
赤い瞳が、細くなる。
「ここは、あなたの縄張りじゃない」
獣耳の少女は鼻をひくつかせた。
「精霊が多い」
丸い精霊が俺の足元から顔を出す。
ぴょこん。
獣人の少女の耳がぴくりと動く。
「……変な場所」
「住んでるだけだ」
俺は正直に言う。
彼女は一歩近づく。
軽い。
音がしない。
「群れの匂いがしない」
ぽつり。
その言葉は、少しだけ寂しそうだった。
「一人か?」
少女の目が細くなる。
警戒。
「関係ない」
「関係ある」
俺は肩をすくめた。
「俺も一人だった」
森に来たとき。
丸い精霊がぴょこんと跳ねる。
「今は二人だが」
ルナが小さく鼻を鳴らす。
「勝手に数えないで」
獣人の少女は、しばらく俺たちを見ていた。
ルナ。
精霊。
小屋。
畑。
川。
全部を見ている。
「……静か」
ぽつり。
そして、言った。
「少しだけ、ここにいる」
ルナの瞳が揺れる。
「勝手に?」
「追い出す?」
空気が張る。
俺は間に入った。
「静かなら、いい」
ルナが俺を見る。
獣人が俺を見る。
沈黙。
そして――
獣人の少女は、ふっと森の端に座った。
完全には近づかない。
でも、去らない。
「名前は?」
俺が聞く。
少し間があって。
「……レイナ」
夜風が吹く。
彼女の髪が揺れる。
丸い精霊が、そっと近づく。
レイナは一瞬だけ手を出しかけて、やめた。
でも、追い払わなかった。
森の夜は、少しだけ深くなる。
豆腐ハウスに、もうひとつの気配が増えた。
俺は思う。
どうやらこの村は――
勝手に住人が増えるらしい。
レイナ登場です。
次回は三人の距離感回になります。




