月光の少女は、トマトが好きらしい
ヒロイン登場回です。
戦闘はありません。
小屋の入り口の向こう。
木陰に立っていたのは――
少女だった。
月明かりに照らされている。
白い肌。
長い銀髪。
そして、赤い瞳。
「……」
目が合う。
俺が動く前に、少女が先に口を開いた。
「うるさい」
「は?」
「精霊。多すぎ」
そう言って、ついっと視線を上げる。
俺の小屋の上を、光の粒がふわふわ漂っている。
丸い精霊は俺の後ろに隠れた。
「見えるのか?」
少女は鼻を鳴らす。
「見えるに決まってるでしょ」
声は澄んでいる。
けれど少し不機嫌そうだ。
俺は改めて少女を見る。
どう見ても、普通じゃない。
「……吸血鬼?」
少女の眉がぴくりと動いた。
「ヴァンパイアよ」
「同じじゃないのか?」
「違うわ」
きっぱり。
月明かりが強くなる。
その瞬間、彼女の存在感が少しだけ濃くなった。
「ここ、静かだったのに」
少女は周囲を見渡す。
「最近、うるさい」
光の粒がふわっと彼女の周りに寄る。
一瞬だけ、彼女の赤い瞳が柔らかくなる。
でもすぐにそっぽを向いた。
「……嫌いじゃないけど」
小声。
聞こえてる。
⸻
「俺はハル」
「聞いてない」
「言っただけだ」
少女は少し考え、そして言った。
「ルナ」
名前らしい。
「ルナか」
「呼び捨てでいい」
なんだその許可。
⸻
丸い精霊がぴょこんと飛び出す。
ルナの足元へ。
ぴょん、ぴょん。
ルナはしゃがみ込む。
指先で、そっとつつく。
丸い精霊は、ぷるんと震えた。
「……柔らかい」
少し、笑った。
ほんの少し。
その表情は、さっきよりずっと幼い。
「ここ、甘い匂いがする」
ルナが顔を上げる。
畑のほうを見る。
「トマトだ」
「赤い実?」
「まだ小さいけどな」
ルナはすっと立ち上がる。
俺の横を通り、小屋の中へ。
勝手に入るな。
中を見回す。
豆腐ハウス。
四角い。
簡素。
「……貧相」
「うるさいな」
「でも」
彼女は天井を見上げる。
光の粒がふわふわ漂う。
月明かりが窓から差し込む。
「落ち着く」
ぽつりと呟く。
その声は、少し本音だった。
⸻
「住むのか?」
俺は何気なく聞いた。
ルナは即答しない。
外を見る。
森を見る。
月を見る。
そして俺を見る。
「……考える」
「考えるのか」
「静かなら、いる」
条件付き。
なんだそれ。
でも――
悪くない。
丸い精霊が俺の足をぺちぺち叩く。
まるで、
「いいじゃん」
と言っているみたいに。
ルナは小屋の入口に座る。
月光が彼女を照らす。
赤い瞳が、柔らかく揺れる。
「ハル」
「なんだ」
「あなた、変」
「知ってる」
少しだけ、彼女が笑った。
森の夜は静かだ。
でも今は、少しだけにぎやかだった。
俺は思う。
どうやらこの村は――
俺ひとりでは、終わらないらしい。
ヒロイン・ルナ登場です。
次回は、ルナが“住むかどうか”の話になります。
豆腐ハウス、早くも試練。
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