月の下で、名前のない未来を話す
静かな夜回です。
大人形態ルナの本音を少しだけ。
夜は、思ったより静かだった。
外周の防護層が整ってから、風の流れがやわらいでいる。
森が、呼吸を整えたみたいだった。
俺は家の屋根に腰を下ろしている。
隣に、ルナ。
今日は大人形態だった。
満月ではないが、少し丸い月が空に浮かんでいる。
「強くなったわね」
ルナが言う。
「村が?」
「あなたが」
俺は小さく笑う。
「何も変わってない」
「変わってる」
彼女の赤い瞳は、からかっていない。
真剣だ。
「最初は、守ろうとする人だった」
「今もそうだ」
「今は、守れる人」
言葉が、少し重い。
でも、嫌じゃない。
丸い土精霊が屋根をぴょんと跳ねる。
芽吹き精霊がころころ転がる。
ルナはそれを見て、やわらかく微笑む。
「この村、どこまで大きくするつもり?」
「分からない」
正直に言う。
「増えるなら増える」
「王になる気は?」
「ない」
即答。
ルナが小さく笑う。
「でしょうね」
少し間が空く。
月が、彼女の横顔を照らす。
「でも」
ルナが続ける。
「あなたは中心であり続ける」
「柱だろ」
「ええ」
彼女は静かに頷く。
「柱は、倒れないで」
その言葉には、ほんの少しだけ本音が混ざっている。
長命種の孤独。
見送る側の恐れ。
俺は空を見上げる。
「簡単には倒れないらしい」
「そうね」
ルナは安心したように息を吐く。
夜は穏やかだ。
遠くでレイナが巡回している気配がある。
家の中ではエルフたちが静かに眠っている。
「名前はまだ決めないの?」
ルナが聞く。
「もう少し増えてからだ」
「欲張り」
「育ってから決めたい」
彼女は少し考え、微笑んだ。
「らしいわ」
月の下。
未来の話は、具体的じゃない。
でも、明るい。
この村は――
まだ、名前のないままでいい。
次回、新たな来訪者が現れます。
今度は災厄ではありません。




