大地が応えた理由
能力の正体に少し触れました。
まだ全部は明かしません。
ワイバーン襲来の翌日。
村はいつも通り、静かだった。
壊れた畑は半分。
焦げた草の匂いがまだ残っている。
でも誰も沈んでいなかった。
「直す」
レイナが即座に言い、鍬を持つ。
エルフたちは焦げた土を整え、森とつなぎ直していく。
ルナは少女形態のまま、水路を調整している。
俺は中央に立つ。
昨日と同じ場所。
何も感じない。
特別な力が流れている感覚もない。
「昨日の、あれ」
ルナが言う。
赤い瞳がまっすぐ俺を見る。
「覚えてる?」
「守ろうとは思った」
「それだけ?」
「それだけだ」
エリシアが静かに近づく。
「あなたは、何かを唱えたのか?」
「何も」
本当に何もしていない。
ただ、渡さないと思った。
それだけだ。
エリシアは地面に手を置く。
目を閉じる。
少しして、ゆっくり息を吐いた。
「大地の流れが、あなたを中心に回っている」
「回ってる?」
レイナが近づく。
「匂いが違う」
「どんな」
「森の主の匂い」
それは大げさだ。
俺はただの元会社員だ。
テレビで農業を見ていただけの男だ。
でも。
ルナがぽつりと言う。
「揺れない命は、土地を安定させる」
昨日の言葉と同じだ。
「あなたは奪わない」
エリシアが続ける。
「支配もしない」
レイナが頷く。
「でも中心に立つ」
丸い土精霊が俺の肩に乗る。
芽吹き精霊が足元で転がる。
大地が、ほんのわずかに温かい。
「……特典か」
俺が小さく呟く。
転生の時。
確かに“何か”をもらった気がする。
説明は曖昧だった。
“安定の加護”。
そんな言葉だったかもしれない。
ルナが一歩近づく。
少女の姿だが、目は真剣だ。
「あなたは守ると決めたら、世界が従う」
大げさだ。
でも昨日、火は通らなかった。
爪も通らなかった。
偶然ではない。
エリシアが静かに言う。
「王ではない」
レイナが続ける。
「でも、柱」
柱。
それなら、しっくりくる。
俺は畑を見る。
壊れた場所。
直せばいい。
「大地は借りるものだろ」
俺は言う。
エリシアが少し驚いた顔をする。
「昨日、言ってただろ」
森は借りるもの。
なら俺も借りているだけだ。
支配しているわけじゃない。
ただ、守ると決めた時だけ。
大地が応える。
ルナが小さく笑う。
「だから好きなのよ、この村」
レイナが言う。
「だから、守る」
エルフたちが土を整える。
丸い土精霊が跳ねる。
芽吹き精霊がころころ転がる。
壊れた畑は、もう半分戻っている。
村は揺れなかった。
中心が、揺れなかったから。
俺は空を見上げる。
青い。
ワイバーンの影はない。
でも、昨日の出来事は確かだ。
この村は――
ただの偶然ではない。
少しだけ、選ばれている。
でも。
特別だから偉いわけじゃない。
守るだけだ。
それで十分だ。
次回は戦後の団結回へ入れます。
村はさらに強くなります。




