森が曲がって、家になった日
建築回です。
悲壮感はありません。引っ越し成功です。
「壊さないで、直す」
エリシアが豆腐ハウスを見上げながら言った。
その言い方があまりにも自然で、俺は思わず聞き返す。
「直す?」
「ええ。核は良い」
核。
なんだか格好いい言い方だが、どう見ても四角い箱だ。
レイナが腕を組む。
「弱い」
「知ってる」
ルナは少女形態のまま、小屋の柱を撫でる。
「でも、落ち着く」
エルフの一人がくすりと笑う。
「森と仲がいい形をしている」
褒められているのか分からない。
エリシアは森の若木に触れる。
指先から、淡い緑の光が広がる。
すると、木がゆっくりとしなり始めた。
軋まない。
無理に曲げていない。
ただ、導かれるように。
「……すご」
俺の声が漏れる。
若木は弧を描き、豆腐ハウスの屋根を包み込むように広がった。
枝が編み込まれ、自然に屋根の補強になる。
葉が重なり、日除けになる。
レイナの耳がぴくぴく動く。
「切ってない」
「切らない」
エリシアは微笑む。
「森は借りるもの」
丸い土精霊が楽しそうに跳ねる。
芽吹き精霊も転がる。
土が自然に締まり、基礎が安定していく。
エルフの別の一人が壁に触れる。
木と土の隙間が、すっと滑らかに整う。
「……俺、何もしてないな」
「中心に立ってる」
ルナがさらっと言う。
「それで十分」
なんだそれ。
昼過ぎ。
豆腐ハウスは“包まれた”。
壊していない。
でも、別物だ。
高い天井。
中央に太い柱。
その柱に、小さな丸い穴。
「精霊の小窓」
エルフが言う。
丸い土精霊がぴょこんと入り、すぐ出てくる。
気に入ったらしい。
芽吹き精霊もころころ転がって覗き込む。
「広い」
レイナが中を見回す。
「守りやすい」
そこか。
ルナは満足そうに頷く。
「月光がきれいに入る」
確かに、天井の隙間から柔らかい光が落ちている。
俺は中央に立つ。
以前の箱とは違う。
でも、確かに“あの家”だ。
核は残っている。
「悪くないな」
エリシアが言う。
「これが中心」
「中心?」
「村の」
その言葉に、少しだけ胸が熱くなる。
丸い土精霊が俺の肩に乗る。
芽吹き精霊が足元で転がる。
レイナが外周を確認する。
ルナが天井を見上げる。
エルフたちが自然に周囲へ散っていく。
森と一体化した建物。
豆腐ハウスは、豆腐ではなくなった。
でも、消えてはいない。
「なんて呼ぶ?」
ルナが聞く。
「家だろ」
「それでいい」
エリシアが微笑む。
森が風に揺れる。
重苦しさはない。
奪われた悲しみもない。
ただ、新しい形。
この村は――
静かに、でも確実に、広がっている。
建築回です。
悲壮感はありません。引っ越し成功です。




