森の民は、境界線に立つ
正式接触回です。
ここから村は次の段階へ入ります。
その日の昼下がり、森の空気は不思議なほど澄んでいて、まるで何かを待っているかのように静まり返っていた。
レイナが最初に耳を動かし、次いでルナがゆっくりと顔を上げ、最後に俺が森の奥のわずかな気配に気づいた。
「……来る」
レイナの声は低く、しかし確信に満ちていた。
木々の隙間から、白い影がひとつ、またひとつと姿を現す。
人型。
長い耳。
淡い銀色の髪が風に揺れ、木漏れ日を反射してきらりと光る。
全部で六人。
全員が女性で、静かな緊張をまとっていた。
敵意はない。
だが、覚悟はある。
先頭に立つ、年長と思しきエルフが一歩前に出る。
「この地の主は誰だ」
落ち着いた声だった。
高圧的ではない。
けれど、試すような響きがある。
俺は畑の前に立ったまま答える。
「主ってほどじゃないが、住んでるのは俺たちだ」
ルナが少女形態のまま横に立つ。
レイナは少し前に出て、森と俺たちの間に位置する。
守る姿勢だ。
エルフたちは畑を見る。
水路を見る。
小屋を見る。
そして、精霊を見る。
丸い土精霊がぴょこんと跳ねる。
芽吹き精霊がころんと転がる。
その瞬間、エルフたちの表情がわずかに変わった。
「……多い」
一人が小さく呟く。
年長のエルフが頷く。
「この森は均衡を失った」
「だから来たのか」
俺が聞くと、彼女は正面から答える。
「古木が枯れ、魔力の流れが変わった。私たちは住処を探している」
静かな言葉。
奪うとは言わない。
追い出すとも言わない。
ただ、探している。
ルナが一歩前に出る。
「ここは小さい」
「承知している」
年長エルフは即答した。
「だが、この地は安定している。精霊が選んでいる」
その視線が、俺に向く。
妙に、まっすぐだった。
レイナの耳が動く。
「争うなら帰れ」
短く、鋭い言葉。
空気が一瞬だけ張り詰める。
しかし、年長エルフは首を横に振った。
「争いに来たのではない」
そして、はっきりと言った。
「村に住まわせてほしい」
沈黙が落ちる。
風が通り、畑の葉が揺れる。
俺は小屋を見る。
まだ豆腐みたいな家だ。
でも、ここは俺たちの場所だ。
「条件がある」
俺は言う。
エルフたちの視線が集まる。
「畑は荒らさない。水路は守る。森を傷つけない。争わない」
年長エルフは、ゆっくりと頷いた。
「森を守るのは、私たちの誇りだ」
ルナが小さく息を吐く。
レイナはまだ警戒を解いていない。
でも、敵意は感じない。
丸い土精霊が、エルフの足元へぴょんと跳ねる。
芽吹き精霊も転がる。
エルフの一人が、そっとしゃがみ込む。
「……温かい」
その声は、驚きと安堵が混ざっていた。
俺は言う。
「広げればいい。無理にじゃなく、少しずつ」
年長エルフは静かに微笑んだ。
「では、共に生きよう」
その瞬間、森の風がやわらかくなった。
境界線は、消えたわけではない。
でも、踏み越えられた。
この村は――
もう、三人だけの場所ではなくなった。
次回はエルフ側視点です。
なぜこの地を選んだのかが明かされます。




