森の縁で、白い影を見た
外の存在を、少しだけ近づけました。
まだ正体は出しません。
いた」
レイナの声は低かった。
夜明け前。
空がまだ薄青い時間。
俺とルナは小屋の外に出る。
レイナは森の縁に立っていた。
耳が真っ直ぐ前を向いている。
「どこだ」
俺が聞く。
レイナは指ささない。
ただ、顎をわずかに動かす。
「あの奥」
森のさらに奥。
木々の隙間。
霧がうっすらかかっている。
その向こう。
一瞬だけ――
白い何かが動いた。
「……鹿か?」
「違う」
即答。
ルナが少女形態のまま目を細める。
赤い瞳が、わずかに光る。
「人型」
その言葉で空気が変わる。
丸い土精霊が、俺の足にくっつく。
芽吹き精霊も転がるのをやめる。
静かだ。
敵意はない。
でも、確実に“こちらを見ていた”。
白い影は、木の陰に消えた。
追わない。
レイナも動かない。
「距離は?」
俺が聞く。
「遠い。でも迷ってない」
「迷ってない?」
「目的がある動き」
ルナがゆっくり息を吐く。
「森の均衡が変わった理由」
風が吹く。
葉が揺れる。
いつもの森。
でも、ほんの少しだけ張り詰めている。
「来ると思う?」
俺の問いに、レイナは短く答える。
「来る」
「戦うか?」
沈黙。
レイナの金色の瞳が揺れる。
「わからない」
ルナが静かに言う。
「敵意は感じない」
「じゃあ?」
「住処を探している気配」
住処。
その言葉に、胸が少しざわつく。
俺は畑を見る。
小屋を見る。
ここは俺たちの場所だ。
でも森は広い。
誰かが住みたいと思っても、不思議じゃない。
「閉じるか?」
俺は二人を見る。
ルナは首を振る。
「閉じない」
レイナも頷く。
「まず見る」
三人で森を見つめる。
白い影はもう見えない。
でも、確実に近づいている。
丸い土精霊が、ぴょんと跳ねた。
芽吹き精霊もころんと転がる。
不安より、好奇心が少しだけ勝つ。
俺は呟く。
「来るなら、話す」
森は答えない。
でも、風向きは変わった。
この村は、小さい。
でも。
もう、誰かが気づくくらいには――
育っているらしい。
次回、白い影がもう少しはっきりします。
村は閉じるのか、開くのか。
第1章、終盤へ入ります。




