森を描く少年
王都の少年リオンが森を訪れる回です。
自由研究期の最初の来訪者。
森は急がせません。
王都教育院、自由研究期。
少年の名はリオン。
十二歳。
成績は中の上。
だが、焦りやすい性格だった。
常に順位を気にし、常に評価を求めてきた。
自由研究期が始まり、彼は迷った。
何を選べば評価されるか。
だが今回は、評価がない。
それが逆に怖い。
掲示板の端に貼られた地図。
余白区域――精霊の森。
噂だけは知っている。
急がない森。
広げない森。
囲われない森。
彼はその紙を見つめた。
「行ってみたい」
理由は、分からない。
数週間後。
王都の正式許可を得て、少人数の視察枠が設けられた。
その第一号がリオンだった。
王女の意向も、少しだけ働いている。
森の入口。
精霊が穏やかに揺れる。
リオンは息を呑む。
思っていたより、静かだ。
思っていたより、普通だ。
「誰だ?」
レイナが腕を組む。
「王都の子どもです」
エリシアが答える。
ハルが一歩前に出る。
「急がないなら、いい」
それが条件。
リオンは頷く。
だが心臓は速い。
何かを学ばなければ。
成果を出さなければ。
その癖が抜けない。
ミナが近づく。
「焦ってる」
小さな声。
リオンは顔を赤らめる。
「そんなこと」
否定しかけて、止まる。
否定しなくていい場所。
それが森。
「何を描きたいの?」
カイが訊く。
リオンはスケッチ帳を取り出す。
まだ白紙。
「森の形を」
ハルが笑う。
「形は決まってない」
そのとき。
ソラが近づく。
「あー」
小さな声。
リオンは思わず笑う。
評価も順位もない笑い。
ただ自然に出た笑い。
精霊が、ふわりと揺れる。
「急がなくていい」
ハルが言う。
「完成させなくていい」
リオンは戸惑う。
「でも、提出は……」
「あるのか?」
「ない」
それが自由研究期。
夕方。
リオンは丘の上に座る。
森を描こうとする。
だが線が決まらない。
直線が引けない。
やがて彼は気づく。
「直線じゃない」
曲線。
揺れ。
重なり。
消えそうな光。
一枚目は失敗。
二枚目も途中。
だが三枚目で、初めて焦らなかった。
完成しなくていい。
評価されなくていい。
ただ描く。
夜。
リオンは空を見る。
王都とは違う星。
胸が軽い。
急がない一日が、こんなに長いとは知らなかった。
森は変わらない。
だが少年が、少し変わった。
それが森の影響。
広げない。
だが届く。
急がない時間は、心の速度を変えます。
森は広がりません。
ですが、届きます。
―― 月灯り庵




