制度の刃
強硬派の最後の一手。
制度を数字で攻める回です。
止めさせようとする力に、王女は三年で応じます。
王都、議政院。
緊急議題として提出された文書が、一気に広がった。
『急がせない制度は、国家財政に悪影響を及ぼす可能性がある』
提出者は商業院副長。
名目は“国益保護”。
反逆ではない。
正論の顔をした反撃。
「自由研究期により生産効率が低下」
「調整月により交易機会を逸失」
「余白区域への干渉凍結は、税制の不均衡を生む」
数字が並ぶ。
仮定。
予測。
だが説得力はある。
王都は数字で動く。
王女リシェリアは静かに文書を読む。
予想していた。
感情的な反発ではない。
理詰め。
だからこそ厄介。
「制度の一時停止を求めます」
副長が言う。
「検証期間を設けるべきだ」
凍結の凍結。
つまり後退。
王都の空気が揺れる。
王が王女を見る。
答えるのは、娘。
「検証は行います」
王女は言う。
ざわめき。
だが続ける。
「ただし、停止はしません」
「結果が出ていない」
副長が食い下がる。
「急がせない制度は、まだ証明されていない」
王女は視線を逸らさない。
「急がせ続けた結果も、壊れかけています」
一瞬、空気が止まる。
「王都は強い」
「ですが疲れています」
教育院の離脱率。
商人の過労。
若手貴族の退任。
数字は副長だけのものではない。
王女も持っている。
「急がせない制度は、攻めではありません」
「維持です」
強くなるためではない。
壊れないため。
王都の形を保つため。
副長は沈黙する。
王女は続ける。
「三年」
検証期間を提示。
「三年で成果がなければ、見直します」
逃げない。
だが止めない。
王が立つ。
「三年とする」
決定。
副長は表情を変えない。
だが完全な勝利ではない。
制度は止まらなかった。
森。
丘の上でハルが空を見る。
精霊が、やや強く揺れる。
レイナが笑う。
「揺れてるな」
「向こうが焦ってる」
森は急がない。
王都も、完全には急がなくなった。
だが波はまだある。
王城。
副長が一人、窓辺に立つ。
「三年か」
終わっていない。
次の手はある。
だが王女は止まらなかった。
制度は守られた。
森と王都。
対立ではない。
だが均衡は保たれた。
刃は抜かれた。
だが鞘に収まっただけ。
急がせない時間は、簡単には認められません。
ですが止まりませんでした。
森は揺れません。
王都は、試され続けます。
―― 月灯り庵




