森の奥で、風向きが変わった
少しだけ、外の気配を入れました。
まだ大きな事件にはなりません。
最初に気づいたのは、レイナだった。
夕方。
いつもの見回りから戻った彼女の足取りが、少しだけ重い。
「どうした」
俺が聞くと、レイナは森の奥を見る。
「風が違う」
「風?」
ルナが少女形態のまま、顔を上げる。
精霊たちも、少しだけ静かだ。
丸い土精霊が跳ねない。
芽吹き精霊も、ころがらない。
「匂いが混ざってる」
レイナが言う。
「群れじゃない」
「敵?」
「わからない」
それが一番厄介だ。
森は静かだ。
鳥も鳴いている。
風もある。
でも、何かが“少し”違う。
俺は森の縁まで歩く。
いつもの木々。
いつもの影。
でも、空気がわずかに張っている。
「外から?」
ルナが小さく呟く。
赤い瞳が細くなる。
「この森、均衡が取れてた」
「今は?」
「揺れてる」
その言葉に、少しだけ背筋が冷える。
丸い土精霊が、俺の足にくっつく。
不安そうだ。
「大きな揺れじゃない」
ルナは続ける。
「でも、誰かが森を歩いてる」
レイナの耳がぴくりと動く。
「遠い。けど近づく」
三人で森を見つめる。
沈黙。
風が吹く。
その中に、わずかに違う匂い。
知らない気配。
だが敵意はない。
まだ。
「……しばらく様子を見る」
レイナが言う。
「見つけたら?」
「話す」
即答ではない。
戦うとも言わない。
逃げるとも言わない。
ルナがゆっくりと立ち上がる。
「この土地は守る」
静かな宣言。
俺は頷く。
「守る。でも、閉じない」
森は広い。
この村は小さい。
いつか、外と触れる。
その日は来る。
火を囲む。
いつも通りの夜。
でも少しだけ、空気が違う。
丸い土精霊が、俺の膝に乗る。
芽吹き精霊がルナの肩に転がる。
レイナは森の縁を見る。
月が昇る。
静かだ。
けれど確実に――
森の奥で、何かが動き始めていた。
次回、森の違和感がもう一段階はっきりします。
村は守るべき場所になりました。
だからこそ、外とどう向き合うかがテーマになります。




