父であるということ
父としての迷い回です。
強さの裏にある不安を、静かに描きました。
夜の森は、静かだった。
精霊の光が、淡く揺れる。
丘の上で、ハルはひとり座っていた。
下では教室の灯りが消え、子どもたちは眠っている。
揺り籠の中で、ソラも。
「……守れるのか」
小さく呟く。
誰に聞かせるでもない。
昼間の光景がよみがえる。
ソラの共鳴。
ミナの凪。
ふたりの間で整う空気。
確かに、未来だ。
だが同時に――
「強すぎる」
ソラの力は、確実に広がっている。
森は受け入れている。
だが外はどうだ。
王都はどうだ。
足音が近づく。
ルナが隣に座った。
「珍しいわね」
「何が?」
「あなたが一人で考え込むなんて」
月明かりが、彼女の横顔を照らす。
「森は守れる」
ハルは静かに言う。
「でも、ソラは?」
「何が不安なの?」
「強すぎる力は、目立つ」
「目立てば、狙われる」
短い言葉。
だが重い。
ルナはしばらく黙る。
そして、静かに言う。
「あなたは、守ると決めたでしょう?」
「ああ」
「なら、守るのよ」
「簡単に言うな」
少しだけ苦笑が混じる。
「簡単じゃないわ」
ルナは空を見上げる。
「でも、力を隠しても、消えはしない」
「なら、整えるしかない」
整える。
その言葉に、ミナの姿が浮かぶ。
「俺は、父だ」
ハルがぽつりと言う。
「森の統率者じゃなくて」
「ただの父」
その自覚が、胸を締めつける。
森は広い。
だが腕の中の命は、小さい。
「あなたはひとりじゃない」
ルナが静かに続ける。
「森がいる」
「私たちがいる」
「ミナもいる」
「そして――」
精霊が、やわらかく光る。
「この森そのものが、ソラを選んだ」
拒まず。
受け入れた。
それが答え。
ハルは目を閉じる。
風が頬を撫でる。
恐れは消えない。
だが、覚悟が形になる。
「守る」
今度は、父として。
森の未来として。
そのとき。
小さな足音。
ミナが丘の下に立っている。
「……眠れなくて」
ハルは手を振る。
「来い」
ミナが近づく。
しばらく三人で空を見る。
「ソラの力、怖いですか?」
ミナが聞く。
ハルは少し考える。
「少しな」
「でも誇らしい」
ミナは小さく笑う。
「私、凪になります」
揺れない声。
「暴れないように」
ハルは驚き、そして笑う。
「頼もしいな」
夜は深い。
だが不安は、孤独ではなくなった。
森は静か。
だが確かに、次の世代が支え合い始めている。
父であるということは、強くなることではない。
支え合うと知ること。
精霊の森は、また一段、深くなった。
守るとは、ひとりで背負うことではありません。
支え合うと決めること。
森は甘いまま、少しずつ強くなっています。
―― 月灯り庵




