森の外から来た子
森の外からの入学希望者登場回です。
広げない森が、“選ばれる”形で外と繋がります。
その子は、ひとりで立っていた。
精霊の森の入口。
大きな荷物を背負い、小さな体で。
「ここが……精霊の森」
年は、十ほど。
人間の少女。
灰色の外套は擦り切れている。
だが目だけは、まっすぐだった。
最初に気づいたのはレイナだった。
「……子ども?」
警戒はする。
だが敵意は感じない。
ハルがゆっくり近づく。
「どうした?」
少女は深く頭を下げた。
「学びたいんです」
真っ直ぐな声。
「森の学校で」
ルナが静かに問う。
「どうして?」
少女は拳を握る。
「王都で、精霊の森の話を聞きました」
「力を誇らないって」
「争わないって」
「だから」
言葉が少し震える。
「ここなら、変われる気がして」
リリアが一歩前へ出る。
「王都から?」
「はい」
「家族は?」
沈黙。
「いません」
その一言で、空気が変わる。
精霊が、ふわりと寄る。
拒まない。
エリシアがそっと少女の前に立つ。
「目を閉じてみてください」
少女は従う。
しばらくして、目を開ける。
「……あたたかい」
小さな光が、指先に触れている。
強くはない。
だが拒絶もない。
エリシアが微笑む。
「森は拒んでいません」
レイナが腕を組む。
「問題は別だ」
「森は広げないって決めてる」
静かな現実。
ルナがハルを見る。
判断を委ねる目。
ハルは少女の目を見る。
怯えはある。
だが、逃げない。
「学ぶって何を?」
「力を、うまく使いたい」
「誰かを傷つけないように」
森が静かになる。
その答えは、この森の理念そのものだった。
「名前は?」
「ミナ」
小さく答える。
ハルは少し考える。
そして言う。
「体験入学な」
全員が見る。
「森は急がない」
「ミナが本気なら、森も本気で向き合う」
ルナが静かに頷く。
レイナが肩をすくめる。
「甘いなあ」
「森だからな」
その日、教室にひとつ椅子が増えた。
子どもたちは少しざわつく。
だがすぐに混ざる。
精霊も、自然に漂う。
ミナは驚いた顔で周囲を見る。
「……優しい」
ぽつりと呟く。
ソラが揺り籠から小さく笑う。
精霊がふわりと舞う。
歓迎のように。
森は広がらない。
だが、選ぶ。
選ばれた者とだけ、繋がる。
精霊の森に、外からの芽がひとつ加わった。
森は閉じません。
でも誰でも受け入れるわけでもありません。
甘さは、選び、選ばれることで続いていきます。
これからミナがどんな成長を見せるのか。
引き続き見守っていただけたら嬉しいです。
―― 月灯り庵




