社畜、森のど真ん中に転生する
はじめまして。
スローライフ寄りの異世界転生ものです。
戦闘よりも「育てる」物語になります。
ゆっくりお付き合いいただければ嬉しいです。
ブラック企業で働いていた俺は、三十歳手前で死んだ。
過労だ。
「あと少しで落ち着く」なんて言葉を信じ続けて、
落ち着く前に心臓が落ち着いた。
視界が暗転して――
次に目を開けたとき、俺は森のど真ん中に立っていた。
「……は?」
青空。
木漏れ日。
鳥の声。
スーツ姿の俺。
どう考えても、日本ではない。
その瞬間、頭の奥に声が響く。
――転生が完了しました。
――特典を付与します。
――生命共鳴。
――精霊との親和性が上昇します。
――戦闘補正はありません。
「いやそこだろ!?」
森にツッコミが吸い込まれる。
……ハズレか?
声は消えた。
俺は深呼吸する。
空気がうまい。
コンビニ弁当の匂いがしない。
少し歩くと、小さな川と開けた土地があった。
土は黒く、柔らかい。
そのとき。
ふわり。
視界の端に、小さな光。
ひとつ。
くるん、と回る。
もうひとつ。
俺の肩にちょこんと止まる。
「……?」
光の粒が、ぽよん、と弾む。
さらに三つ、四つ。
気づけば俺の周りを、光がふわふわ浮いている。
くすぐったい。
悪意はない。
むしろ、楽しそうだ。
「精霊、か?」
ぽこん。
足元の土が、まるでくしゃみをしたみたいに盛り上がった。
そこから出てきたのは――
丸い。
手のひらサイズ。
茶色い。
頭にちょこんと双葉。
つぶらな黒目。
俺を見上げている。
「……」
見つめ合う。
丸いそれは、ぷるん、と震えた。
ぴょこん。
跳ねた。
そして、俺の靴をぺちぺち叩く。
ぺち、ぺち。
「……なに?」
さらにぺちぺち。
土を叩いて、俺を見て、土を叩いて、俺を見る。
「ここ、掘れって?」
丸い精霊は、ぴょこん!と大きく跳ねた。
光の粒たちが、きらきらと騒ぐ。
まるで拍手。
「……そうか」
俺は近くの枝を拾った。
地面に突き刺す。
柔らかい。
丸い精霊が嬉しそうに跳ね回る。
ぽよん、ぽよん。
土を撫でると、精霊は両手で俺の指をちょんと触った。
ひんやり。
でも、温かい。
光の粒が俺の周りをくるくる回る。
一匹がスーツの袖に潜り込む。
「おい、くすぐったい」
光がぱちぱち弾ける。
笑っているみたいだ。
森が、少しだけざわめく。
歓迎されている。
そんな気がした。
腹が鳴る。
俺は川の水を飲む。
冷たい。
生きている実感がある。
戦えないなら、どうする?
魔法がないなら、どうする?
目の前には土がある。
川がある。
森がある。
そして――
やたら懐いてくる精霊がいる。
「……畑、作るか」
丸い精霊が、勢いよく跳ねた。
ぽこん。
その頭の双葉が、ぴこぴこと揺れる。
「お前、可愛いな」
丸い精霊は、なぜか胸を張った。
小さいのに、誇らしげだ。
光がさらに増える。
森が優しく揺れる。
俺はスーツの袖をまくり、土を掘り始めた。
そのとき俺はまだ知らない。
この丸い精霊が、
村の“始まり”の象徴になることを。
そして俺が――
精霊に、愛されすぎているということを。
第一話、ここまで読んでいただきありがとうございます。
ここから少しずつ、
ヴァンパイアの少女、狼獣人、エルフたちが登場していきます。
戦わない異世界村づくり、
ゆっくり発展させていきます。
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次回もよろしくお願いします。




