表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

欲望の果て

作者: Zin君
掲載日:2025/12/06

 この世は不平等だ。成功を収めた者はさらなる栄光に向け飛躍し、美しき者はその存在を遍く人々に知らしめるように名を広めている。一方、一度でも失敗をした人は人生という坂をどん底まで転げ落ちていく。また、最初から上を目指すことすら許されない人もいる。生まれが卑しかったり親族や自身が社会不適合者であったり。そのような人物たちは、生きることに圧力が掛けられている。このような人々が存在する中で、成功者共は落ちぶれていく人々を嘲笑い、弄び、欲望の発散先としてしか見ていない。

 あるとき、突如として世界中に”能力者”という存在が発生した。そして、彼らは能力を遺憾なく発揮し、その存在を示した。彼らの能力は各々の最も強い欲望を実現するものと一様であったが、その内訳は多種多様であった。ある者は金銀財宝をその身に纏い、ある者は意のままに他者を操った。身体能力を格段に上昇させたものや、法の支配を受けないとする能力を持つ者もいた。そのような彼らの活動の影響を受け、世界は変革を余儀なくされた。国家指導者の地位が能力者に継承されたり、流通経済の支配者として能力者が君臨したりもした。そこからは既定路線の事柄だったのだろう。能力者による非能力者の迫害が世界各地で頻発した。能力者の力にはその者の欲望の質により強弱が存在した。よって、国家の支配者まで上り詰めた者がいれば、片田舎の悪徳貴族的存在で留まる存在もいた。能力者である自分に明確な上位存在が存在する、そんな状況に鬱屈とした感情を抱いていたものは少なくない。また、欲望の具現化といっても、他者を傷つける能力者だけが発生したわけではない。それまでの国家運営よりも健全で、国民にとって好影響を与えた能力持ちの指導者も存在した。彼らはこぞってヴィラン的能力者に大きな行動を起こさせないように抑圧した。そのため、ストレスの発散を目的として、弱者市民を甚振る者もいた。

 

 

 「おうい、酒だ、酒を持ってこい!!とびっきり度数の高い奴だ!!」

 某中心街の高層マンションにて男の怒号が響いた。彼は能力の開花に伴い、巨万の富を得た。いくら使おうとも何処からともなく溢れてくる金銀財宝。室内は悪趣味にも金や宝石で装飾されており、彼の周囲にはおこぼれにあずかろうとする者や、彼の借金支援という名の支配契約によって彼の所有物となった人々で固められていた。

 「ご主人様、申し訳ございません。ただいまご希望のお酒を切らしておりまして……」

 「んだとっ、この俺にそんな言い訳が通じると思ってんのかっ!!」

 「も、申し訳ございません、申し訳ございません……」

 そこには借金返済を代行する見返りとして、家族一同の人権を譲渡した男がいた。男は使用人として役目が与えられており、その使用人に酒瓶を投げつけられた。彼は主人の理不尽な命令に耐え、妻は尊厳を踏みにじられ、娘は人として扱われることを奪われていた。このような家庭は、彼らと同じように支配下におかれ生活している。過去には今以上の数存在し、消えていった。強欲の彼は、正しくこの能力者社会に適合し、振る舞い、多くの憎悪と敵意を集めていた。


 その街では夜な夜な美しい青年や、あどけない少年少女たちが行方不明になるという事件が起こっていた。しかし、行方不明者たちは、その日のお昼頃には何事も無かったかのように自宅へ戻っていた。それからというものの、彼らの勉強や仕事に対する態度が真摯なものへと変わり、また、たびたび何処かへ外出をしては一層意識を高くして戻ってくる。そのような様子を家族や周囲の者は不気味に思っているという。ただ、特に実害が無かったため大事にはなっていなかった。

「あらぁ、いらっしゃいぼうや。またお姉さんと一緒に勉強しようねぇ」

 ある日の夜、街外れにひっそりと建っている教会に少年が訪れていた。彼は数日前に行方不明となってから何回かこの場を訪れていた。

 「じゃあ今日もお姉さんと一緒に、秘密のお勉強、しよっか」

 この晩には、これからの社会で生きていく上で必須な価値観や学問の教育、技術の伝授が行われた。ヴィラン側能力者に目をつけられた際の誤魔化し方や、能力が無くとも自立した生活を送れるだけの一般的な能力を伸ばすための勉強など多岐にわたった。

 明け方、少年が帰った後女性の姿は二人の男性と共に寝室にあった。彼女は満足気に呟いた。

 「うふふ、元気に暮らすのよ。皆には私の持つこの社会で生きる術をすべて注ぎ込んだのだから、私が居なくとも大丈夫よ。さあ、二人も行ってらっしゃい」

 その言葉を聞いた二人の男性は速やかに服を着て各々の帰路についた。その後教会は警察による突入が行われ、彼女は逮捕、処刑された。容疑は能力による思考・認識の操作。青少年に対し催眠を行い支配下に置き、意のままに操っていたという。彼女はおとなしく連行され、処刑のその瞬間まで彼女の顔には穏やかな笑顔が浮かんでいた。


 その国は争いの渦中に存在した。能力者は法の下に規制され一般人と何ら変わりない生活を強制されていた。そのような状況は能力者たちにとって面白くなかった。そのため各地ではデモやテロ行為が頻発し、毎日のように能力者による犯罪が発生していた。

「……今日はどうなった」

「本日の能力者による犯罪件数は、前日比1.4倍。被害総額は2倍を超えるでしょう。……既に能力者騒動以前の状況に戻すことは不可能であると考えます」

「……分かっている。だが、我々がそれを目指さずどうするというのだ」

 大統領と副大統領は祖国のその日の人々の生活と未来を憂いていた。

 「大統領。やはり、今こそあなたの能力を使う時では……」

 「ならん!!如何なる理由があろうとも、能力を使うことは認められん。そのようなことをすればあの犯罪者共の同類に成り下がってしまう」

 「しかしっ」

 「くどいっ。何度言ったら分かるのだ。この世に能力などという不平等の象徴は存在してはならんのだ」

 そう大統領は言ったきり黙ってしまった。

 「……失礼いたしました」

 翌日、大統領は死体となって発見された。死因はアルコールの多量摂取による急性アルコール中毒と判断された。その後の対応として副大統領が大統領代理として公務を行った。また、副大統領の能力『対象に役割(ロール)を付与し、行動を制限する』を用いて犯罪者の規制、一般市民の労働への従順化などを適用し、国家の平定や効率化を図った。


 

 「ふくくっ、今日も酒はうまいなぁ。こんな手から金だか銀だかを出すだけで大金持ちだぜ。おい、酒の追加を持ってこいっ」

 「は、はいっ、ただいまっ」

 「くくっ、こんな生活は能力が芽生える前は考えられなかったなぁ、おい。……ん?……ちょっと待てよ、なんで金が出ねぇ。……銀も出ねぇ。……何も出ねぇじゃねえか!!どうなってやがる!!」

 その日、世界はまたも変革を迫られた。世の中で圧倒的な存在感を示していた能力者たちの力が一切使用できなくなったのだ。ある場所では人々を苦しめていた、支配者の象徴である金銀財宝が一斉に腐った。またある場所では、過去にかけられた精神支配が解かれ本当の思考を取り戻し、ある場所では人々に本来の自由が再び与えられた。


 

 ――キーンコーンカーンコーン――

 世界に唐突な鐘の音が響く。

 「やあ、初めまして。僕は研究者。簡単に言えば、君たちの上位にあたる存在、かな」

 突如として現れた声はそう名乗った。

 「いやぁ、見てたけどさ、能力者による世界統一とか、非能力者による下剋上とか面白いことが何も起こらないじゃないか。やっても国家平定くらいだし、規模か小さいよ規模が。これじゃあ『非能力者が普通である世界に突然能力者が発生したら社会はどのように変化するか』っていう僕の研究に面白味がないみたいじゃないか。」

 謎の声は息継ぎの間もなく、苛立ちながらそう吐き捨てた。

「と、言うことで、君たちには滅んでもらいまーす。元々僕が実験のために構築した世界だし、良いよね。まぁまた新しく世界は作るから、奇跡が起こればそこで暮らせるんじゃないかな。研究においては試行回数が多いことはいい事だもんね。それでは、愚かな下等生物共よ、さよーならー。また逢う日までー」







「はぁ、新しい研究テーマ考えなくちゃなぁ。どうしよっかな、面白いテーマとか無いか――」

 





 

 ――キーンコーンカーンコーン――




 



 「え?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ