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いずれ銀河は俺のもの  作者: 白田 まろん
別れの章〜仲間だと思っていたのに〜
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第7話

「レーダーにだ、大質量の感! 全長に……2万5千メートル!?」

「2万5千メートル!?」


 アロイシウス大公領軍第三艦隊司令のヴァル・フェルトンは、レーダー員の狼狽えた声に思わず聞き返していた。帝国最大の旗艦インペリアル級をはるかに上回る大質量は、戦艦と見てまず間違いないだろう。


 いかに銀河アースガルド帝国といえども、そのような巨艦を建造する技術はない。むろん宙賊も同じはずである。だとするとまさか他国が攻めてきたのだろうか。さらに――


「超々高出力シールド検知! 本艦の火力では飽和は不可能です!」


 ただでさえ宙賊の大艦隊に劣勢を強いられているというのに、この期に及んで未確認勢力が出現するとはなんと運のないことか。


 ただあの勢力が宙賊の仲間でないことは、先の戦宙機撃墜から想像はできる。かといって味方と考えるのも楽観的過ぎるだろう。傍らで息を呑む戦友ロスウェル・ニコライも、考えていることは同じのようだ。


「通信士、大公殿下に打電を」

「はっ! 内容はどのように?」


「我、未確認勢力と遭遇。全長2万5千メートルの超()級戦艦。打つ手なし」

「司令……」

「皆、すまんがここまでと思ってくれ」


 その後彼らが目にしたのは、宙賊戦宙機が次々と未確認艦に引き寄せられていく光景だった。



◆◇◆◇



 帝国第三艦隊が宙賊と交戦状態に入る少し前。ストロウベイリー号を格納庫に収容したアリスイリスは、予定通り海王星軌道の一光年手前にワープアウトしていた。そこで宙賊の動きを察知したというわけだ。


『宙賊は間もなく帝国の輸送船団付近に現れます。撃退しますか?』


「もちろん! と言いたいところだけど捕らえるのは無理?」

『いえ、可能です。ただ戦宙機は数が多いのと捕らえても生かすために資源が必要となります』

「出来るんだ……資源って食料とか水とか?」

『はい』


「うーん、じゃそっちはいいや。(ふね)は?」

『艦であれば資源を積んでいますのでこちらからの提供は不要です』


「なら捕らえよう」

「賞金が目当てなのね」


 宙賊の戦宙機は撃墜しようが生け捕りにしようが、パイロットがよほどの賞金首でもない限り賞金の額は変わらない。だが軍用艦は売れるのだ。


「なんたって将来の賞金稼ぎだからね。レイアとユリウスもいいか?」

「ええ」

「構わん」


「それにしてもワープしてくる宙賊を事前に捉えるとは……」

「ワープ中継機の動きで分かるらしい」


 アリスイリスは約300光年離れたムルデン惑星系から宙賊の艦隊が押し寄せてくると言った。ダイヤモンドの大量輸送船団を襲うつもりとのことだ。よくそこまで分かるものだと感心しはしたが、本当にそんなことが起こるのだろうかと最初は半信半疑だった。


 だが事態は急変した。宙賊が第三艦隊の駆逐艦を爆沈させたと言うのである。


「すぐに救援に向かってくれ」


艦長(キャプテン)ハルト・シガラキの命令を確認。戦闘型ドローン10機を先行させます』

「戦闘型ドローン?」


『無人の戦宙機とお考えください』

「いや、それは分かるけど」


 たった10機でどうするのかと思ったら、宙賊が展開している多数の戦宙機の何機かを撃墜して膠着状態に陥れるのだという。ますます訳が分からなかったが、飛び込んできた第三艦隊司令の声でようやく俺は意図を呑み込んだ。


「全艦シールド最大出力! 攻撃に備えよ!」


 直前の輸送船に対する退船命令は遂行される前に掻き消された。緊急時の退船は(デリ)(ート)可能なすべてのデータを消去してから行われる。時間は必要としない。船長と二人以上の権限のある者が消去を意味する文言とパスコードを口にするだけである。復元には相当の施設と時間を要するのだ。


 だから宙賊を討伐できるなら、退船命令が遂行されずにいた方が後の処理がスムーズに進む。輸送船団を立て直すだけで済むのだから。


 とは言えやられているのは宙賊の戦宙機だが、第三艦隊にしてみれば味方の攻撃によるものなのかは分からないはずである。警戒するのは当然だ。そしてそれは宙賊も同様だった。


 宙賊艦隊もシールドを強化し、戦宙機は正体不明の何者かに撃墜された仲間を見て各自がジグザグに動き始める。中には操縦を誤って衝突する機体まであったが、宙賊が何人死のうと俺はなんとも思わなかった。


『質量隠蔽解除。現場宙域にワープします』


 今さらだけど質量隠蔽なんて技術は聞いたことがないぞ。決して俺が授業をサボっていたわけではないはずだ。と思いたい。


「あそこに突っ込む? 戦闘型ドローンとかをもっと送り出せばいいんじゃないのか?」

『我々の存在を知らしめるために必要です。キャプテンの望みのためでもあります』

「俺の望み?」


 宇宙冒険者になることか? しかしこの問いに対するアリスイリスからの回答はなかった。


『これより戦艦アリスイリスは艦長(キャプテン)ハルト・シガラキの命により、戦宙機殲滅、宙賊艦隊捕獲作戦に移行します。シールド全開! 目標座標、宙賊戦宙機群。ワープ!』

『目標座標、宙賊戦宙機群。ワープします!』


 それにしても驚いたよ。ワープに入る挙動が速すぎるのだ。本来なら中継機を介さないような比較的近距離のワープでも、座標計算やらワープアウト先に障害物がないか調査するなど綿密な準備が必要となる。


 つまり十分に計画されていなければならないということだ。俺たちだって廃棄コロニー探索のために航路は十分に吟味した。一千光年の彼方に飛んでしまったのはアリスイリスに呼ばれたからだ。


 それがメドギドがあったあの空間から太陽系海王星軌道の一光年手前まで、およそ一千光年の距離をたった一度のワープである。そうかと思えば艦体に異常がないかどうかの確認もせずに、今度はその一光年を飛び越えるワープだ。どうでもいいがシールドを全開で張ったのはなぜだろう。


 現場宙域に一切の隠蔽なく突如として現れた超()級戦艦に、第三艦隊も宙賊も完全に虚を突かれた様子だった。ただし彼らはアリスイリスが戦艦だとは認識していないだろう。


『こちらは戦艦アリスイリス。銀河アースガルド帝国アロイシウス大公領軍第三艦隊に加勢いたします』


 ()()の美しく透き通る声に、第三艦隊も宙賊もさらに混乱していた。特に得体の知れない攻撃に晒されていた戦宙機隊は、蜘蛛の子を散らすかのようにアリスイリスから離れていく。だが、無情にも彼らが逃げ切ることは許されなかった。


『宙賊戦宙機の制御系統の解析が終了しました。これよりコントロールビームでシールドに誘導します』


 声の直後、宙賊の戦宙機が次々とこちらに引き寄せられてきた。まるで羽虫が光に群がっていくかのようにである。なるほど、シールドを全開にしたのは戦宙機を消滅させるためだったのか。


 次々とシールドに溶かされていく仲間を見てパニックに陥り、まともなスペーススーツもなしに機外に脱出して凍りついてしまった者もいる。それからものの数分で宙賊戦宙機隊200機あまりは塵も残さず、冷たい宇宙空間の闇に消えたのだった。

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