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いずれ銀河は俺のもの  作者: 白田 まろん
別れの章〜仲間だと思っていたのに〜
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第3話

 世紀のお宝を発見した俺たちは、ひとまずストロウベイリー号に戻ることにした。


「ハルト、他には何が聞こえたんだ?」

「まず救難信号だけど、残念ながらワープ中継機まで届いてないらしい」


「なんでそんなことが分かるのよ?」

「知らないけどそう言ってたんだよ」

「あの船に食糧は?」

「聞いたけど返事がなかった」


「何でもかんでも答えてくれるわけではないんだな」

「それで向こうからの提案があって」

「「提案!?」」


 ユリウスとレイアがハモった。


「あの船は太陽系圏内までワープ中継機なしで飛べるらしい。一千光年も一瞬だそうだ」

「それじゃあ!」


「この船を格納して海王星軌道付近まで行ってくれると言っている」

「その話が本当なら私たちは遭難せずに済むということか」


「本当に救難信号が届いてないとすれば、現時点で俺たちが生還できる望みは薄い。あの船に賭けるしかないんじゃないかな」

「そうだな。私は賛成しよう。レイアは?」

「他に選択肢がないなら仕方がないんじゃない?」


 俺を含めた三人に焦った雰囲気がないのは、遭難した実感が薄いからだろう。加えてお宝の発見によって生還する望みが生まれたのだ。楽観的になっても咎められるいわれはない。


 しかしそこで再び船からの声が俺にだけ聞こえてきた。


「な、なあ、二人とも……特にユリウス……」

「なんだ?」

「どうしたの?」


「また声が聞こえたんだが……」

「うん?」

「なになに?」


「あの船の所有者として俺が選ばれたらしい」

「なに!?」

「えっ!?」


「このパーティーのリーダーは私だぞ!」

「そう言われてもなあ……」


「仕方ないわよ、ユリウス。宇宙船()()が言ってるんだから」

「くっ……」


「どうしたんだよ。いつものお前なら笑って流してるところだろ?」

「い、いや、すまん……」


「ハルト、分からないの? あの船は見た限りだと帝国最大の旗艦、インペリアル級戦艦よりも大きかったじゃない?」


「アリスイリスは全長約2万5千メートル、最大幅約4千メートルだそうだ」

「2万5千メートルぅ!? インペリアル級ですら全長は約2千5百メートルよ! 十倍じゃない!」


「だとすると……」

「ユリウス?」

「皇帝陛下に召し上げられるわね」

「そうだな」


「ま、待て待て! 探索で見つけたお宝は個人かパーティーの物だろ!」

「バカね。それはお宝が帝国にとっては大したことないと思われているからよ。あんなとんでもないもの持ち帰って、何事も一番じゃないと気が済まない陛下が黙って見過ごしてくれるとでも思ってるの?」


 ローガリク・シオドア・ウエブスター、銀河アースガルド帝国の若き皇帝は現在37歳だ。ナチュラルなアップバングのショートスタイルの金髪で、口髭と顎髭がきっちりと整えられている。身長は170cmほどと平均的ではあるが眼光は鋭く、映像で見るだけでもオーラがハンパなかった。


 紋章が金で刺繍された濃い緑色のマントを常に身に着け、護衛のドローンを複数頭上に浮かべながら帝国最強と言われる武装集団を近衛に置く。また西暦2017年に確認されたケプラー1652bと呼ばれる惑星に棲息する、銀河で最も美しいとされる種族の女性を何十人も侍らせていた。


 皇帝はこの惑星ケプラー1652bを女神の住む星、Planet where the Goddess Livesと呼び住民の種族名をPGoLi、プゴリと定めた。女性の容姿から名付けられたが男性もプゴリ星人と呼ばれている。当然のことながら男性も美しい。


 プゴリ星人の肌は地球人とは比べものにならないくらいきめ細やかで透き通るように白い。顔つきは地球人に近いが、まさに完璧な美男美女と形容する他がないほどだ。


 皇帝本人は地球人であるため同じ地球人の妻が複数いる。これは皇族に地球人類以外の血を入れないためだそうだ。従って皇帝と他種族との間に子が産まれても、皇族として認められることはない。ただし身分がやんどころないことに変わりはなく、一般的には準皇族と言われていた。


 ちなみにケプラー1652bは通称KOI-2626(ケプラー・オブジェクト・オブ・インタレスト、ケプラー宇宙望遠鏡が観測した候補天体の番号)など、他にもいくつかの呼ばれ方がある。主星はケプラー1652で半径、質量とも太陽の0.4倍しかない。


 太陽系からは約822光年の距離にある。むろんこの惑星系を発見した千年以上前の望遠鏡はすでに役目を終え、現在は博物館に鎮座していた。


「まあ、あれだけの船を献上するんだもの。褒美がコロニー一つのコロニー爵への叙爵だけってことはないと思うわよ」

「そうだな。うまくすれば伯爵位も夢じゃない。あるいはプゴリ星人を嫁にもらえるかもな」

「それで準皇族の仲間入りってか。性じゃないよ」


 皇帝陛下から叙爵される伯爵位は、太陽系を除く惑星系一つ以上を領地とする上級貴族位だ。地球を除く太陽系惑星の全ては皇兄である大公が治め、陛下が地球を治めている。


 つまり銀河アースガルド帝国の中心は地球。当然のことながら地球にはその他の皇族や準皇族と呼ばれる人たちが住み、上級の中でも特に位の高い貴族の地球邸がいくつも建てられていた。


 参考までに下級貴族の男爵位はコロニー二つ以上、子爵位になるとコロニー10以上を領地として下賜される。ただし与えられる場所は運次第と言う他はないだろう。


 なおコロニー爵というのは一代限りの準貴族位であり、何かの功績でコロニー一つの統治を許された存在でしかない。つまり世襲が認められる男爵位以上が治めるコロニーとは貧富の差が出やすいというわけだ。それをものともせずコロニーを一定以上発展させると男爵位を叙される可能性が高まるのである。


「仮にプゴリ星人と結婚したからといって準皇族はないにしても、伯爵位なんてもらったって統治は面倒そうだし、人を雇ったりとか大変なんじゃないか?」

「ハルトは宇宙船の方がいいって言うの?」


「そりゃあさ、全長約2万5千メートルの超()級宇宙船なんだぜ。そっちの方が絶対楽しそうじゃん」

「呆れた! あの船はどう見たっておもちゃじゃないわよ!」


「分かってるって。だけどあれだけのデカい船なんだから兵装がないなんてことは考えられないし、(ちゅう)(ぞく)退治にはもってこいだと思わないか?」


「ハルトよく考えろ。兵装があれば帝国最大の軍艦となる。反逆を疑われかねないぞ」

「ユリウスの言う通りね。ハルト、諦めて献上するしかなさそうよ」


 しかし直前に聞こえていた声のせいで、俺は二人の意見に同意出来ずにいるのだった。

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