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いずれ銀河は俺のもの  作者: 白田 まろん
別れの章〜仲間だと思っていたのに〜
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第15話

「陛下、慌てる必要はございません!」


 絶望の色を浮かべる皇帝陛下や大公殿下を始めとする一同に向かって、声を上げたのはユリウスだった。


 彼がスクリーンの前に立ち、何やら腕を振るといきなり画像が切り替わる。映し出されたのはナルコベースの停泊地。先ほど離陸してアリスイリスの主砲に貫かれたはずの艦艇が整然と並んでいるのが見えた。


「どういうことだ!?」

「ご覧になられたのはシミュレーション映像です」

「な、なんだと!?」

「なにをしている! もう一度確認してこい!」


 苛立った様子でアロイシウス殿下が艦艇の離陸と制御不能を報告にきた二人の兵士を怒鳴りつけた。


「先ほどのはシミュレーション映像ですが、起こりうる未来とも言えます。そこのアリスが申し上げた戦艦アリスイリスの性能は事実です。映像データを解析すればお分かりいただけるでしょう」


 どうしてユリウスがそんなことを言えるのだろう。疑問は尽きないが、とにかく多くの命が失われたのでなければ御の字である。そこへ確認に行っていた兵士が戻ってきた。


「申し上げます! 目視にて確認した結果、停泊地に異常はありませんでした!」

「全ての艦艇の離陸も認められませんでした!」

「なんと……」


「皇帝陛下、これがアリスイリスの力です。どうか私に使用権をお与え下さい」

「黙って聞いていれば勝手なことを!」


 今度はアリスが怒気のこもった声を上げた。しかし顔は相変わらず無表情のままだ。


「ユリウス・マキシス! アリスイリスの使用者は唯一無二の所有者である我が艦長(キャプテン)です! 貴方に使用権など与えません!」

「な、なんだと!」


「恐れながら皇帝陛下と大公殿下に申し上げます!」


「無礼者! 一兵卒が許しもなく口を開いていい場ではないぞ!」

「よい、兄上。()が許す。申してみよ」


 戻ってきた兵士二人は互いに顔を見合わせ、頷きあって意を決したように口を開く。


「遺憾ながらアナライズの結果、あの巨大艦への敵対は悪手かと」


 兵士曰く、何度データを洗い直してもシミュレーションで見せられた映像は誇張でもなんでもないとのことだった。このまま意地を通せば、帝国軍及びナルコベースを訪れている諸侯の艦艇は跡形もなく消え去る運命にあると言う。


「解析の根拠を述べよ」

「アロイシウス大公領は陛下の()()す地球を護る役割を担っており、最新鋭のシステムは銀河アースガルド帝国随一の規模を誇ります。そのシステムが導き出した答えと申し上げればご納得いただけるはず」


 失態を演じた兵士は覚悟を決めたように強い眼差しで答える。それはシステムに絶対の信頼を寄せているエンジニアとしての(きょ)(うじ)でもあるように見えた。帝国のトップ二人、主である大公殿下ばかりか皇帝陛下にまで誤った情報を伝えてしまったのだ。死罪とされても仕方のない状況である。


「これだけ我が艦の力を示したのです。その上で帝国への逆心もないと申し上げております」

「どうあっても献上はせぬと申すのだな?」


「これ以上を望んで滅びの一途を辿るか、艦長(キャプテン)に我が艦を率いて宇宙冒険者になることを認め宙賊共を殲滅していくか、どちらがよりよい未来に繋がるかは聡明な皇帝陛下であれば考えずともお分かりになるかと」

「陛下、諦めてはなりません!」


 またしても声を上げたのはユリウスだ。どうしちゃったんだよ。どこか焦りが見えていつものユリウスらしくないぞ。それに応えたのは皇帝陛下ではなくマッケイ閣下だった。


「だが所有者の変更は認めず、ユリウス殿が申す使用者もハルト殿と言うではないか」

「しかし陛下のご命令ならば……」

「口説いですよ、ユリウス!」


 アリスが今までになく大きな声で叫んだ。そればかりか終始無表情だった彼女の顔に怒りの色が見える。そんなに問答が嫌だったのかと思いきや、続く言葉に場が一瞬にして凍りついた。


「ようやく正体が解析できました。ユリウス・マキシス! いいえ、イシュアラ帝国のジダル星人! ここに貴方の居場所はありません!」


 アリスがユリウスに人差し指を向けた。それと同時に複数のレーザー光が彼といつも身につけていたブレスレットを貫く。ブレスレットは吹き飛んだが、体の方は貫いたように見えただけで、溶け始めた顔に歪んだ薄気味悪い笑みを浮かべていた。


「イシュアラ帝国だと!?」

「ジダル星人!?」


 イシュアラ帝国はイシュアラ星系人からジダル星人が侵略して簒奪したと伝えられている国だ。銀河アースガルド帝国は敵性国家として位置づけている。ユリウスがその統治種族だというのだろうか。


 だが人ならあれだけのレーザーを浴びせられれば黒焦げになってもおかしくないのに、やがて姿を現したのはカマキリのような逆三角形の頭だった。


 不気味な何本もの触手を(うごめ)かせ、細長い体から4本の腕と3本の足、先が2つに割れた尻尾を生やしている。コバルトブルーの肌は見ているだけで吐き気を催すほどだ。


「ふはははっ! ずい分と時間がかかったようだな」


 その声は俺の知るユリウスのものと違って機械を通したようであり、不気味にエコーがかかっていた。擬態を解いて発生器官が変わったせいかも知れない。


艦長(キャプテン)の身の安全を図るための解析です。貴方の正体はとっくに掴んでおりました」


 初めてナルコベースの会議室に通された時、アリスはユリウスをはっきり敵だと言っていた。まさかとほ思っていたがこういうことだったのか。


 そのアリスは俺を庇うようにジダル星人(ユリウスだったもの)の前に立ち塞がる。代わりに触手で捕らえられたのはレイアだった。


「レイア!」

「うぐっ!」


「ユリウス、レイアを離せ!」


「ハルト、来てはだめ!」

「面白い話をしてやろう」


 ジダル星人は俺の言葉など意に介せず、レイアを縛りつけたように抱えて少しずつ後退っていく。しかしそこで語られたのは、俺にはとても信じられない内容だった。

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