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いずれ銀河は俺のもの  作者: 白田 まろん
別れの章〜仲間だと思っていたのに〜
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第12話

 フェルトン閣下と共に戻ってきたアロイシウス殿下から、俺たちの処遇に関してアリスが言った通りにすると伝えられた。もしかしたら不敬罪を問われて処刑なんてことも考えていたので、内心ホッとしたのは言うまでもないだろう。


「単刀直入に言う。トマス・ムルデンが殺された」

「おお! それはよかった! これで宙賊共も大人しくなるでしょうね」


 言いながら胸をなで下ろす仕草をしたのはユリウスだ。普段の彼から考えると短絡過ぎる発言である。


 何故なら殿下はムルデン元伯爵が"殺された"と言った。つまり当初は宙賊の頭目と目された人物を殺すほどの別の存在がいるということだ。そんなことは俺にだって分かる。


 案の定、大公殿下とフェルトン閣下も眉をひそめていた。


「ユリウス殿、聞いてもいいかな?」

「なんなりと、殿下」


「君はなぜムルデンが殺されたら宙賊が大人しくなると考えたのだ?」

「はい。ムルデン元伯爵がムルデン星系より輸送船団付近にワープアウトしてきたからです」


「うん? ムルデン星系から? それが本当なら調査団を派遣せねばならんが、どこからの情報だね?」

「アリスイリスからです」


 待て。確かにアリスイリスは宙賊のワープアウトを俺たちに伝えてきた。しかしどこから来たかは言ってなかったはずだ。それとも俺と同様にユリウスだけに聞こえるように伝えたのだろうか。艦長(キャプテン)の俺を差し置いて?


 そう思ってアリスを見たが、相変わらず無表情のままで答えを探ることは出来なかった。


「なるほど、得心した。しかし我々の考えとは少々異なるようだ」

「と仰いますと?」


「まあいい。それよりも疲れただろう? 予定通り三日後にはライブを開く。部屋を用意させるからそれまでゆっくり休んでくれ。ライブの場で君たちの功績を称えよう」


 予定ではその翌日には地球に向かって旅立つ。わりと強行スケジュールだが、そこで皇帝陛下に謁見し正式にアリスイリスの扱いを決めるらしい。


 大公殿下からはこちらの要求を通すために、アリスイリスを領軍の()()に置くつもりだと聞かされた。それでも皇帝陛下がアリスイリスの所有を諦める可能性はかなり低いとのこと。


 まあ表向きは大公領軍に属しても、指揮命令系統には組み込まれないというなら現時点では最善の策だと思う。そこまで考えてくれるなんて、一体アリスはどんなシミュレーションデータを見せたのだろうか。


 銀河アースガルド帝国ナンバーツーの大公殿下に無茶とも言える条件を呑ませたのだから、おそらくはえげつない内容だったに違いない。


『心外です。ありのままを見せただけですよ』


 さっそく抗議の意志が伝わってきた。アリスは俺を見て膨れっ面をしているがなんか可愛い。いけね、こんなこと考えたら怒られると思ったんだけど。


『あ、ありがとうございます……』

 あれ、本当に照れてるのか? まさかね。



◆◇◆◇



 アロイシウス殿下のライブが始まった。ボーカルはもちろん大公殿下で、ギターはヴァル・フェルトン伯爵閣下だ。他にドラムスとベースの奏者がおり、全ての楽器は当時のものを再現しているらしい。


 俺たちは士官学校の入学時に見ているが、士官学校の卒業生以外は初めて目にするものばかりのはずである。入学時の俺たちがそうだったのだから。


 その観客だが、銀河アースガルド帝国の至るところから集まっている。やってきたのはおよそ2000隻以上に上る軍用艦だ。もちろんナルコベースに入港するに当たり武装は解除されていた。


 ライブ開催が告知されてからわずか三日足らずしかなかったはずなのに、ドームには空席がほとんど見られない。


 彼らの目的はまあ、大公殿下に媚びを売ることだろう。そのために高額なナルコベースの停泊料や滞在費を支払い、ライブチケットを購入しているようだ。最も高額な席から売れていくというから貴族の見栄も大したものだと思う。当然彼らの護衛や付き人以外に平民はいない。あ、俺たちがいるか。


 ちなみにアリスを除く俺たち三人はライブ中に舞台上に呼ばれるので、中央の最前列に席を確保されていた。物凄い音量で鼓膜がどうにかなりそうだよ。


「あの歌の歌詞は意味がよく分からないわね」


 三回くらい聞き直してようやくレイアの言っていることが伝わった。歌とはレッドツなんとかというグループの『天国への○段』という曲だ。


 物悲しいイントロと歌い出しでスタートし最後は力強い調子になるが、本当に歌詞の意味が分からないのである。後で殿下に聞いたところ、作者はこの歌詞に特に意味がないと言ったと伝えられているそうだ。それでもグループを代表する曲の一つらしい。


 それと昆虫のビートルと音楽のビートを組み合わせたという造語がグループ名の最後のシングル、『あるがままに』という曲には作られた背景を聞いて少し感動した。この曲の作者がメンバーの脱退のことで悩んでいた時に、亡くなった母親が夢枕に立って"あるがままに"と言ってくれたそうだ。


 ところで俺たちは6歳までに帝国公用語の他、今は存在しない国も含めて主要な地球の国の言葉といくつかの他星人の言語を学ぶ。


 とは言っても胎児の時に脳内に埋め込まれる、目に見えないほど小さなチップに睡眠中に書き込まれるだけなので、気がついたら使えるようになっていたという感じだ。


 ライブで演奏される曲はほとんどが英語と呼ばれる言語だが、特に翻訳は必要ない。それだけに意味がない歌詞などには困惑するのである。


 数曲の続けざまの演奏からメンバー紹介が行われた後、アリスを除く俺たち三人はステージに呼ばれた。彼女を壇上に上げなかったのは、士官学校に籍を置かない彼女の出自を説明しにくいからだそうだ。


 最悪はあの超()級戦艦の存在を明かさなければならず、確かに説明は難しいと思う。現在アリスイリスは火星の上空で姿と質量を隠蔽して待機していた。


「紹介しよう。この三人は間もなく帝国士官学校を卒業する者たちだ。知っている者がほとんどだとは思うが、士官学校を卒業するために課題が与えられる。廃棄コロニーの探索だ!」


 殿下の言葉は特に何の変哲もない事実を語ったものだったが、直前の演奏で盛り上がっていた観客たちが意味の分からない歓声を上げる。単に騒ぎたいだけかよ。あるいはこれも殿下に対するおべっかなのかも知れない。


「その彼らが成し遂げた偉業を皆にも知ってもらいたい! なんと彼らは宙賊の大艦隊を根こそぎ()()し、我が輸送船団を窮地から救ったのである!」


 観客の歓声がさらに高まる。諸侯の多くは宙賊に悩まされた経験があるはずなので、これは無理からぬことだろう。だが次の瞬間、それさえも上回る歓声が会場に響き渡ることとなる。


「驚くのはまだ早い! なんと彼らは処刑されたはずのトマス・ムルデンを捕縛したのだ!」


 ムルデン元伯爵は、帝国内では知らぬ者がいないほど逆賊として有名だった。それが生きていて捕らえられたなどと言われても俄には信じがたいはずだが、ライブ会場の雰囲気と相まって誰一人疑う者はいない。まして大公殿下の言葉となれば、疑うだけで不敬に当たるのだから当然のことだろう。


「よって私はこの三人に大公位マーズ章を贈る!」

「大公位マーズ章だって!?」

「大公領最高の勲章じゃないか!」


「あの三人を取り込むのだ! 最悪一人だけでも構わん!」

「至急本星に連絡だ!」


 何やら聞き捨てならない声も聞こえてきたが、しかしそれもすぐに静まり返ることになる。ステージに思わぬ人物が現れたからだ。


「それはいい、兄上!」


 突然舞台袖から出てきたのは、眼光鋭くハンパないオーラを纏った男性だった。ナチュラルなアップバングのショートスタイルの金髪で、口髭と顎髭がきっちりと整えられている。


 金で刺繍された紋章が濃い緑色のマントに映え、頭上には6機の直径20cmほどのドローンが浮き、帝国一と言われる武装集団に護られたその男性。


「ろ、ローガリク!?」

「兄上、ライブ会場とは言えここは公の場。呼び捨てはいかがなものかと」


「し、失礼した。皇帝陛下」

「うむ。ではその者たちの功績に()も報いようではないか。三人が士官学校を卒業した暁には帝国伯爵位に叙するとしよう」


 アロイシウス殿下の顔は青ざめ、会場には強い冷気が吹き込んだように声を発する者はいなかった。

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