23. 待ちに待った瞬間 -塩ラーメンと共に-
***
――そして、30分後。
私たちの前には3つの丼が並び、そこに入っていたのは……
「はぁー……ラーメンとか最高……」
エイジさんが唸る。
――そう、私はエイジさんとミネアさんに袋ラーメンを振舞おうとしている。
この前レタス鍋の〆で麺を使い切っていたので、レオニーダさんに先週再現しておいてもらって本当に良かった。
透き通ったスープの中には卵色の麺が入っていて、その上には炒めたもやしと刻んだねぎを載せている。
それだけでは寂しいのでひとつまみのわかめと、半熟に茹でたあとつゆに漬け込んでおいた味玉もトッピングした。
「アカリちゃん、もう食べていい?」
うずうずしているエイジさんに、私はにんまりと微笑んでみせる。
「いいえ、まだです」
そう、お楽しみはこれからだ。
先週レオニーダさんに再現してもらった食材の出番がいよいよ訪れる。
私は冷蔵庫からボウルを取り出した。
そこに入っていたのは、鮮やかな黄色い粒の数々。
――これこれ、これが私は好きなのである。
スプーンでざくっとすくって丼の一角に載せると、エイジさんが「あーいいね……」と声を洩らす。
ミネアさんが不思議そうな顔でこちらを見た。
「何ですか? この黄色い食材は」
「これはコーンといいます。私、塩ラーメンにはコーン入れるのが好きで」
そう、だからあの日スーパーでコーン缶を買わなかったことを後悔していたのだ。
家に帰れば常備されているけれど、その家が現状とんでもなく遠い。
そんなわけでレオニーダさんに先日コーンのイラストを見せ、再現してもらった。
「エイジさん、バター載せますか?」
「勿論!」
食い気味の返事を受けて、私は冷蔵庫から小さいタッパーを取り出す。
中にはバター、こちらの世界のものだ。
なので、私が便宜上そう呼んでいるだけで、本当は違う正式名称があるのかも知れない。
ナイフでひとかけ、丼のセンターに置いたそばからじわじわ溶け出す白い塊。
エイジさんが「たまらねぇな」と呟いた。
「本当に素人料理ですが」
「いやいやいやこういうのがいいんだよ。いただきまーす!」
嬉しそうに手を合わせるエイジさんの隣で、ミネアさんも「……い、いただきます?」と首を傾げる。
そうだった、こっちの世界にはそういう習慣がないんだった。
そんなことを気にする素振りもなく、エイジさんが丼に口を付けてスープを啜る。
――ずずっ
「はぁ……」
――ずずず
「うまい……」
――ずずずず、ず
「最高……」
……麺、食べないのかな。
ちょっと思ったけど、幸せそうな顔してるからいいか。
そんなエイジさんを横目に、ミネアさんも恐る恐るスープを一匙。
ふうふう、と一生懸命冷ましてから口に運んだあと、少しだけ驚いたように目をぱちぱちした。
「……おいしい」
ぽつりと呟かれた一言に、ほっと胸を撫で下ろす。
まだスープだけだけど、喜んでもらえてよかった。
やはりさっと作れておいしい袋ラーメンは人類の偉大な発明品だ。
その間にエイジさんは勢い良く麺を啜っている。
そんな様子を見ていたら、私もおなかが空いてきてしまった。
手を合わせていただきますをしてから、私もスープを一口飲む。
――うん、あっさりした中にも少しコクがあって、おいしい。
大好きなコーンを一粒つまんで口に入れる。
ぷちりと噛んだところでほのかな甘みが広がり、思わず微笑んだ。
そして麺ともやしをたぐる。
もちもちした麺としゃきしゃきしたもやしの食感が楽しくて、またすぐに次が食べたくなった。
その気持ちを押し留めつつ、半分に切って載せた味玉をぱくり。
うん、半熟とろり加減がたまらない。
袋ラーメンのアレンジはこのプチ贅沢な感じが好きだ。
ふと顔を上げるとエイジさんはスープに浮いた数粒のコーンを名残惜しそうにすくっていた。
その隣でミネアさんはフォークで器用に麺を食べている。
そんな風に、私たちはそれぞれ至福の時間を楽しんだ。
「ごちそうさまでした……」
エイジさんが満ち足りた表情でそう言って、ミネアさんも「えっと、『ごちそうさまでした』」と続ける。
私もおなかいっぱい、満たされた。
「お味、大丈夫でした?」
「最高だったわ……アカリちゃん本当ありがとな」
「ラーメン、おいしかったです」
エイジさんにもミネアさんにも喜んでもらえたようで、改めてほっとする。
もう一度お茶を出した方がいいかと思ったところで、ミネアさんがエイジさんの顔を見て「エイジ、そろそろ」と言った。
エイジさんが「えっ、もう?」と嫌そうな顔をする。
「せっかくここまで来たんだから、まだよくないか?」
「今日の分の仕事が残っているでしょう。それに、長居したら迷惑です」
「仕方ねぇな……」
ため息を吐いてエイジさんが立ち上がり、そして「あ」と動きを止めた。
「アカリちゃん、また来てもいい?」
「別にいいですよ」
今日話した限り悪い人じゃなさそうだし、もしかしたらこちらの世界で過ごすヒントをもらえるかも知れない。
これまでほぼレオニーダさんしか話し相手がいなかった私にとって、エイジさんの存在は正直ありがたいと思った。
すると、こちらをじっと見ていたミネアさんが口を開く。
「それなら今度はエイジの家にアカリさんが来られたらいいのでは。今回みたいな突撃訪問は失礼でしょうーー魔術団長に知られたら何を言われるか」
……ん?
魔術団長って、レオニーダさんのこと?
その言葉を受けて、エイジさんが「確かに……」と苦々しげな顔になった。
「じゃあアカリちゃん、気が向いたら連絡ちょうだい。勿論マンツーにならないようミネアも呼ぶから」
「……あ、はい」
そう言って家を出ていく背中を見送ったあと、ふと我に返る。
ーー私、どうやって二人に連絡を取ればいいんだろう……。




