22. 勇者と勇者の邂逅
自らを勇者と名乗るエイジさんは街中で生活しているらしい。
「俺は勇者だって周りにバレてるし、隠す必要ねぇからな。住むなら飲み屋に近い所がいいって言ったら王国がすぐ手配してくれたんだ」
お茶をずずっと一口飲んでエイジさんは言った。
私が見るからに歳下だからか、先程までの敬語は姿を消している。
それどころか「アカリちゃんって呼んでいい?」と一気に距離を詰められ、ちょっとびっくりしている。
一緒にミネアさんが来ていなければ、家に入れずにお引き取り願っていたかも知れない。
「そうなんですね、で――今日は何故ここに?」
訊きたいことはたくさんあるけれど、ひとまず一番気になることを訊いてみた。
すると、エイジさんは不敵な笑みを浮かべてみせる。
「実はアカリちゃんにひとつお願いがあって」
「お願い?」
「そう。とある筋から聞いたんだけど、アカリちゃんがこっちの世界に来た時、元の世界の食べものを持っていたとか――」
「あぁ、はい。持ってました」
「しかもそれ、定期的に供給されるシステムになってるって?」
……定期的に供給って。
なんか宅配サービスみたい。
脳内に一瞬レオニーダさんが宅配業者の格好をしているイメージが浮かび、笑いそうになる。
意外に似合うかも、なんて。
それにしても、そんな情報どこからエイジさんに伝わったのだろう。
特段隠すものでもないけれど、探るような問いかけも気になり私は一瞬口を噤む。
すると、そんな私の様子に気付いたエイジさんが「悪ぃ、変な訊き方したわ」と続けた。
「俺が言うのもなんだが、勇者が来るって一大イベントだから城中で色々な情報が流れるんだよ。しかもアカリちゃんの場合、魔王を倒したあとに登場するっていう超イレギュラーケースだし」
「そうなんですか――というか、城中? エイジさんは街中で生活しているんですよね」
「あぁ、家はな。俺、職場が王城なんだよ」
私の問いにエイジさんはさらりと答える。
思いがけない答えに「え」と声を出してしまった。
「アカリちゃんはどういう扱いになってるかわからないけど、勇者とはいえ働かなきゃ生活できねぇからな。魔王を倒したあともそのまま城で雇ってもらってるんだ」
「……あの、ちなみに魔王討伐の時はどういう役割だったんですか?」
「あぁ、単なる後方支援だよ。王国の軍備増強のために他国から武器を調達する係」
話を聞いてみると、どうやらエイジさんは元の世界でバイヤーの仕事をしていたらしい。
エイジさんから見れば調達コストに無駄が多かったり、外注先によって原料の品質にばらつきがあったりと問題点が山積みだったそうだ。
「あっちの世界にいた時はストレスもやばかったしいつ辞めてやろうかと思ってたけど、まさかこんな所で役に立つとはな。お蔭さまで仕事にもありつけたし、ラッキーだったわ」
「確かにエイジが来たことで王国としては非常に助かりました。我々騎士団の武器強化だけでなく、その他の物資調達についても改善できましたし」
あっはっはと明るく笑うエイジさんの隣で、ミネアさんがこくりとお茶を一口飲む。
なるほど、ミネアさんは騎士団の人だったんだ。
確かにぴしっとしていて格好いい。
そんなことを考えていると「まぁそんなことはどうでもよくて」とエイジさんが真剣な表情でこちらを見る。
「本題に入ろう。俺が今日ここに来た目的はただひとつ――」
一体どんなことを言われるのだろうか。
私は固唾を呑んで次の言葉を待った。
エイジさんは重々しい沈黙の後、その口を開く。
「――それは、あっちの世界のメシを食うことだ」
「……はい?」
想定外の台詞に、思わずまぬけな声が出てしまった。
「こっちの世界に来て半年以上……食事だってまずくないし不満は特段ないんだが、アカリちゃんの噂を聞いたら我慢できなくなっちまって」
「――あ、あの……エイジさん?」
「頼む! 何でもいいからあっちの世界のメシを食わせてくれ!!」
エイジさんがいきなり立ち上がり、頭を下げる。
その隣でミネアさんは変わらない表情のまま、マグカップをコトリと置いた。
室内に微妙な空気が流れる。
私は内心頭を抱えた。
――だって、正直私はそんなに料理が上手いわけではないのだ。
レオニーダさんは喜んで食べてくれるものの、元々同じ世界の住人であるエイジさんが相手では、その期待に応えられる気がしない。
……でも、エイジさんの気持ちはよくわかる。
私もこちらの世界で初めて焼き鮭弁当を食べた時、ほっとしたもの。
なので、できればクオリティが担保されている焼き鮭弁当をお持ち帰り頂きたかったけれど――生憎今は品切れだ。
――仕方ない、私は静かに決意した。
「あの……本当に簡単なものしかできませんけど、それでよければ……」




