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見習い絵師と魔術団長のまったりおうちごはん  作者: 未来屋 環


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19/20

19. 誰かと食べるということ -レタス鍋とともに-

「「いただきます」」


 ふたりの声が合わさることに、最近はくすぐったさを感じなくなってきた。

 私たちは鮮やかな色をしたレタス鍋を前に向かい合っている。


「すみません、最初に私の方でよそいますね」

「あ、あぁ――すまない、どうやって食べるべきか悩んでいた」


 ……もしかして、誰かと一緒に鍋をつつく風習自体、こちらの世界にはないのかも知れない。

 戸惑(とまど)わせてしまったなら申し訳ないなぁと思いつつ、レオニーダさんから器を受け取る。


 考えてみれば、誰かとこうしてお鍋を食べるなんていつ振りだろう。

 職場の飲み会に顔を出さない私にとっても、なんだか貴重な経験に思えてきた。

 大体ひとり鍋だったから。


 そんな感慨に浸りながら、具材を取り箸でかき分けつつちゃっちゃと盛り付けた。

 お肉にきのこたち、お豆腐は崩れないようにおたまでそぅっと。

 最後に主役のレタスをどっさり重ねて。


「はい、どうぞ」

「……ありがとう」


 レオニーダさんがぼそりと(つぶや)いた。

 そういえば、おじやの時も「ありがとう」と言ってくれたっけ。

 自分の食べる分をお鍋からすくう中、心がじわじわと温まる。


 つぎ終わったところで、まだレオニーダさんが食べていないことに気付いた。

 もしかして待ってくれていたのだろうか。

 律儀なひとだ、本当に。


「レオニーダさん、よろしければお先に」

「……わかった」


 レオニーダさんがレタスをつまんでぱくりと口に入れる。

 もぐもぐと動く口を見ながら、食感はへたってないだろうかと少しだけドキドキした。

 自分も試してみようとレタスを取り、口の中へ。

 意を決して噛んでみればしゃくしゃくと爽やかな音がした。


 ――うん、やっぱりレタス鍋はこのシャキシャキ感だな。


「シャキシャキしていてうまい」


 思わず私はレオニーダさんの顔を見る。

 まさか私の思考とレオニーダさんの感想がシンクロするとは。


 レオニーダさん、今度は肉をレタスで巻いて口に入れた。

 うん、それも絶対おいしいやつです。

 案の定、満足気な表情になっている。

 それを(なが)めつつ、私は豆腐を口に運んだ。

 あつあつふるふるで味も染みていておいしい。


「……これを使えばいいか?」


 気付けば既に器は空になっていて、レオニーダさんは自分で取り箸を持っていた。

 「そうです」と告げるとレオニーダさんは慎重に具材を器に移し替えていく。

 自分でおかわりするくらい気に入ってくれたのなら嬉しい。


 あらかた食べ終えたところで、腹七分目くらい。

 念のためレオニーダさんにも確認する。


「まだもう少し食べられます?」

「あぁ、大丈夫だが……」


 その回答を受けて私はキッチンから追加の具材を持ってきた。

 残っていたきのこを少しとあらかじめ刻んでおいたねぎ、そしてラーメン。


 コンロに火を点けてぐつぐつしてきたところで、きのこと袋麺を入れる。

 麺をほぐしつつ火が通ってきたらねぎをちらし――


「あ、忘れてた」


 慌てて冷蔵庫から卵を取ってきて、割りほぐして回し入れて。

 そして固まり過ぎる前に火を止めた。


「どうぞ、締めのラーメンです」

「……ラーメン?」

「はい、お鍋のあとはこうして麺やごはんを入れるとおいしいんです。具材からおだしもたっぷり出てますし」


 そして、それぞれの器に取り分けたところで、はたと気付く。

 レオニーダさんは果たして麺の食べ方を知っているのだろうか?

 ……うん、念のためお伝えしておこう。


「レオニーダさん、麺はこうして(すす)って食べるとおいしいです」


 私はいつもより控えめな量をつるる、と食べてみせた。

 すると、それに(なら)ってレオニーダさんもつるる、と食べる。


「……うん、確かに」


 もぐもぐしながらレオニーダさんは満足そうな表情だ。

 お好きな卵も入れたのが良かったのかも知れない。

 そんなレオニーダさんを見ながら、私もまた満たされた気持ちでつるる、と締めを味わった。



「ふー、ごちそうさまでした」

「ごちそうさま」


 すっかり満腹だ。

 でもほとんどレタスだからヘルシーなはず。

 ちょっと家の周りをウォーキングくらいはした方がいいかも知れないけれど。


「今日の食事もうまかった」

「それは良かったです」


 からっぽになったお鍋をキッチンに運びながら私は続ける。


「お鍋は色々な具材を食べられるからいいんです。今回は材料の兼ね合いもあるのでレタス鍋にしましたけど」


 頭の中に色々なお鍋が思い浮かぶ。

 すき焼き、おでん、寒い季節はキムチ鍋なんかもいい。

 ――まぁ、さすがにそれらを作るには具材が限られ過ぎてしまっているのだけれど。


 そしてお鍋を置いてテーブルに戻ってきた私に、レオニーダさんが口を開く。


「……他の具材のものもおいしいのか」

「はい、おいしいですよ。卵をつけて食べるすき焼きなんかもありますし」


 レオニーダさんが考える仕種(しぐさ)をした。

 ……もしかして、食べたいのだろうか。

 確かに卵好きとして、すき焼きは外せないだろう。

 レオニーダさんが生卵を食べられるかはわからないけれど。


 ただここには牛肉がない。

 すき焼きなら春菊やしらたきなんかも必要だろう。

 レオニーダさんに食べさせてあげたいという気持ちはあるものの――うーん、こちらの世界に似たような食材がないか探してみようか……。

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― 新着の感想 ―
レタス鍋の出汁ってどんなんがいいんだろう? と思ってググったらいろいろ出てきてかえって迷います(笑)。本作ではどのような出汁をお使いだったのでしょうか。 いずれにしてもうちでは冬場はあんまりレタス食べ…
まさに好きな人に食べてもらうものを作る楽しみですね(#^.^#)
今回も微笑ましくてかわいかったです! おお、ついに異世界の食材に手を出す? 楽しみです。
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