6 別に私は公然わいせつ罪にならないので
思っている以上に死さんには自由がない、のかもしれない。
自分にくっついていないといけないし、服?は脱いだら消える。意識しないと永久に太り続ける。
あれ、全身タイツの代わりになるものを与えれば、死さんは痴女を卒業できるのではないだろうか。
「死さんや」
『なんですか』
「欲しい服とかない?」
『その分アイスを買ってください』
花より団子か。いや服は実利なのでは。
『別に私は公然わいせつ罪にならないので』
「せめて秘部を隠そうよ」
『別に外部から観測されませんし、あなたがわたしを見ても立たないじゃないですか。だからこのままでもいいと思うんですけど』
「いやさ、人間さ、隠されているから興奮するんじゃないかな」
『逆なのでは性的興奮を覚えさせないために、襲われないために隠すのでは』
「いやアワビみたいなグロテスクなものを見ても立たないよ」
『グロい?』
「マスク美人って分かる?」
『なるほど人間は想像力の奴隷なんですね。隠されているからこそ勝手に脳が辻褄を合わせるように』
「占い師や踊り子のヴェールなんか超エロいだろ?」
『うん、ええ、まあ、はい』
「だから人間の性的な興奮って隠させて相手に想像させるからこそ成り立つんだ」
『でもそれの歴史は浅いんじゃないんですか?』
「うーん、この国にはストリップの神話があるくらいだしな。神話に抜きに考えてもローマくらいまで遡りそう」
『うへえ……けれどそれなら私が全身タイツのままでいた方が性的興奮を覚えなくていいんじゃないですか?』
「そこはまあ良識的に?」
『はあ出た出た良識、そんなものが在るんだったら……まあ、水着とかなんでもあるんでしたら着てあげますよ。脱ぐときには消えると思いますけれど』
「うーん、元カノが置いていった水着とかあったはず」
『同期ですか?』
「そうだね」
出てきたのは金色のビキニと黒い布の塊。
『本当にそのふたつしかないんですか?』
「まあ、同棲していなかったし」
『そうですか、というかその黒いの西川〇教のじゃないですか?』
「そうだね、どこから仕入れてきたのその情報」
『あなたの記憶ですけれど、これどうしたんですか』
「なんか以前売っていたんだよね、コスプレ用で」
『消えたらもったいないのでそれは却下で』
「となると金ビキニ」
『普通、彼女のパンツの一枚や二枚くらい落ちている物でしょう?』
「洗濯していても他人が使ったもの、履きたい?」
『ごめんなさい』
「許した」
『で、金ビキニはどうして買ったのですか』
「確か連勤明けにド〇キかH〇Mとかどこかの服屋で見つけて、ふたりして爆笑して買ったんじゃないかな」
『のろけですか?』
「誰だって連勤すれば過ちくらい犯すものだと思うけど、現在進行形だし」
『まあ、一応着てみますよ』
そう言って死さんは黒い全身タイツの上からそれを着用した。
まず初めにエロい。
すんごいエロい。
黒と金の相性を馬鹿にしていた。
光沢のある金色の水着を、これでもかと言いたくなるくらいにタイツの黒が補強している。
もしこれが車や時計だったらただただ高級感がすごいなとだけでで終わりそうだ。
けれども今、金色を放っているのはビキニである。
またビキニというものが死さんの身体のラインを補強して、視覚から分かりやすくしていて、またその分かりやすさに金という色が一役買っていた。
これがエロスの到達点か。
私の身体に東京スカイツリーが建造されているのを、死さんは観測してしまったようで。
彼女は痴女へと戻ってしまった。
彼女が脱いだ金のビキニは黒い粒子となって虚空へと消えて行ってしまった。
次に見つけた時もまた買おう。




