3 貴方を殺して私も死にます
昨晩もぐっすり眠ることが出来た。
それはもちろん今も抱き着いている彼女のおかげでは全くなく、飽きるほど見ていた映画のおかげだ。
すれ違った美少女が周りの力を借りて憧れの先輩と仲直りする内容の映画。
劇場では11回。買ってからは5年間毎日見ながら寝落ちしているので計1825回くらい。
習慣の力ってスゲー。
『昨晩は8分で眠りについたじゃないですか、それは見てないに等しいのでは』
それは、うん、まあ。
「で昨日は結局何を見たんだ」
寝る前に、他の映画に変えるなら眠った後にしてくれとお願いしたのだ。
『ショーシャン〇の空に、プラダを着〇悪魔、ゴッド〇ファザー、グリー〇ブック、パディ〇トン、S〇NG』
「全部有名どころだ」
『有名どころなのにどうして貴方は観ていなかったんですか』
「1時間以上の映画きつくない?」
『膀胱がですか?』
「物語が」
『現代病ですね』
「ぐぬぬ、否定は出来ない」
ただ映画の結末を知った上で最初から見ると視点が変わる感じの映画、あれが好みではない。
『ネタバレを見てから見ればいいのでは』
「それだとネタバレをした人の視点で見る事になるから、ネタバレをされるのは映画を観てきた未来の自分であって欲しい」
『そうなると私あなたの視点で映画を観る事になるじゃないですか』
「まあ有名どころは生きている内に耳に入ってくるからね」
『とりあえず記憶消しませんか?』
「たかが映画で」
『これから幾億年と続いていくのでたかがじゃないです』
「100年くらいで殺して欲しいな、それに未来の人類が映画を作り続けている保証はなくない?」
『では私が撮りましょう』
「何を」
『貴方の奇行』
「サイレント映画にするなら面白そうだね」
『ちなみにサイレント映画を観た事は?』
「無いよ、知識としてあるだけ」
『嘘はついていませんね、花丸をあげましょう』
わーい。
「何か食べたいものはある?」
『アイシーが食べたいです』
「アイシー?」
『アイシーを知らないのですか……、人生損していますね』
「お金出さないよ?」
『アイシーを食べられないと言うなら貴方を殺して私も死にます』
「うわあ、死が死ぬんだ。で実際街中に亡者で溢れちゃう?」
『ああ、ちゃんと認識していたんですね』
「いや寝たら頭が整理されたといいますか」
30%くらいシーデス・カーネと言った西欧人とかの可能性もある。
『ないですね。因みに私はあなただけの死で、あなたは私だけの生なので、街中にゾンビは溢れませんよ。残念でしたね』
今晩は悪夢を見るかもしれない……。
「でアイシーとは」
『ググレカスと言いたいところですが、寝起きなので免除しておきましょう。ならスラーピーならどうですか?』
「スラーピー?」
『くっs、こいつは、噓偽りがないことだけが伝わってきてイライラします』
「タマゴ焼こうか?」
『甘いのがいいです』
「ならホットケーキにしようか」
『厚いのでお願いします、厚いので』
「生憎と型はない」
『ガーン』
「しかし、冷蔵庫に空のまま残っていた紙パックを切ってアルミホイルを巻いてわっかにすると、即席型が出来る」
『さては貴方天才だったのですね』
凄い目を輝かせてる、星になってる。
『けれどホットケーキミックスは』
「あるよ、粉あるよ」
『素敵!!』
「たこ焼きの粉もある」
『それはいいです』