1 私が下りたら貴方も死にますよ
よく12連勤までは違法ではないというが、10連勤の時点で大分しんどい。
まあ他のブラックな会社よりかは給料は出ていると思われるが、お金さえ払えば馬車馬のように働かせていいと思ってないだろうか。
まあこんな会社でも給料天引きされまくっていた中途採用の烏丸くん24歳は喜んで19連勤目をキメていた。
大丈夫だろうか。
まあ寝れる、食べれる、運動できる環境はそれっているので彼は大丈夫だろう。
自宅の最寄り駅で下り夜ご飯を買いにコンビニへと足を進めていると、一気に肩が重たくなった。
バランスを崩して思わずアスファルトに手をついてしまうほど。
膝もじんじんする。
幸いこの道を歩いているのは自分一人で誰にも見られていなかった。
なんというか恥ずかしさはあるよね。
体制を立て直して歩き始めると幻覚が見えた。
肩から腕が生えている。
ポケ〇ンのカイリ〇ーってこんな感じなのだろうか。
それに何かヒヤシンスのようなハチミツの香水のような甘い匂いがする。
重くなった身体を引きずるようにコンビニへとたどり着くと、出入り口のガラス戸に反射した自分の後ろに女性の顔があった。
何かに取りつかれてしまったのだろうか。
何かといえば何かというか何というか、疲れているのか頭が回らない。
晩御飯を買おう、こういう時は新商品だ。
スパム寿司セットに紫芋のメロンパン、ハワイコラボのマラサダ、ネギ塩豚カルビ弁当、パリじゃんサンド、募金が出来るレモネードとこれくらいでいいだろうか。
『あとアイスもお願いします』
幽霊とかって喋りかけてくるんだっけ。
3歳年上の上司にラブコール。
「先輩幽霊って話しかけてくるんですね」
「何て言っているんだ?」
「アイスも買えと」
「アイスくらい買ってやれ」
先輩がそう言うとプッと音がして電話通信が切れた。
幽霊さん(仮)の好みが分からないので適当にカゴヘ入れていく。
クッキーバニラにアサーイボウル、チョコバナナにパイン、NORMALバナァナぁに宇治金時、モンブランにバリラモナカ。
うんこれくらいでいいだろう。
『それもお願いします』
と幽霊さんが指さしたのはワッフルコーン。ベタだ。この幽霊200年前にアイスが食べられないで死んだフランスの人だったりしない?
『ありがとうございます。それと幽霊ではないです』
「先輩幽霊じゃないみたいです」
「何て言っているんだ?」
「何なんです?」
『死ですかね』
「シデスカネと」
「助詞じゃね? あーし肉体丈夫だし、もっと働けるし、みたいな」
「先輩ギャルだったんですね」
「今どきは皆心にギャルが住み着いているものよ」
プッと音がしてギャル先輩との通話が切れた。
「3543円になりやーす」
たっか、スーパーに行っておくべきだったか?
『2リットルのものがあるんですよね』
1000円くらいするやつね。それで満足するなら月3万で済むのか。良心的。
『流石に飽きますよ』
だよねー。
帰宅してからすることは手洗いうがい。
2020年から意識的にやっていたせいで何も考えずに出来る。
固形石鹼を泡立て手を洗いうがいをする。
そして洗面台の鏡を注視するとシデスカネさんと目が合った。
プラチナというよりも金と銀の間と言った感じのホワイトゴールドのやわらかそうな髪。
赤というよりもピンクに見えるまんまるお目目。
服装はコートにも見える大き目のデニムジャケットに、肌の明るさが透けて見える全身タイツ。
……え、痴女じゃん。それと長めのブーツ。
「先輩先輩、鏡で幽霊確認したんですけれど」
「え、幽霊って鏡に映るの?」
「裸コートもとい全身タイツコートだったんですよ」
「おー、有給使って病院いってきー?」
わーい休みだ。ありがとう痴女さん。
『だから死ですけれど、あと痴女じゃないですよ』
「いや全身タイツコートは痴女ですよ、にゅうぼうとにゅうとうの形が露になっているので隠した方がいいですよ」
『別に基本後ろですし、感触を味わうくらいならいくらでも構いませんよ』
「うーーーーん、そろっと降りてくれません? おもい」
『結構考えましたね、それに女の子に重いって失礼ですよ。あと私が下りたら貴方も死にますよ』
「…………マジですか?」
『マジです』