第6話 : ペアになった午後
午後の授業、現代文。
いつもなら、先生が淡々と板書して、生徒は静かにノートを取るだけ。
だけど今日は、少し違った。
「じゃあ、今日は二人一組で、短い詩を作ってみようか」
先生の言葉に、教室がざわっと揺れた。
「まじかー、めんどくさ……」
「誰と組むー?」
「先生、3人でもいいですか?」
そんな声が飛び交うなか、私は小さく息をのんだ。
そして、その視線の先に——藤井くんがいた。
どこか迷っているような、でも動こうとしない彼の姿。
……気づいたら、私は席を立っていた。
「……あの、藤井くん。一緒に、組まない?」
彼は少し驚いたような顔をして、
それから、静かにうなずいた。
「……うん」
たったそれだけの会話なのに、
心臓がドキンと音を立てたのが、自分でもわかった。
*
「じゃあ、テーマは“季節”でいこうか」
私が言うと、彼はペンをくるくると回しながら、軽く頷いた。
「春、夏、秋、冬……どれが好き?」
「うーん……春、かな。なんか、匂いがやさしいし」
そう言った私の言葉に、藤井くんはふっと笑った。
「……つばさっぽい」
「えっ、なにそれ?」
「いや、なんとなく。春っぽい感じするから」
言われた瞬間、顔が熱くなった。
でも、変に照れるのが嫌で、私は軽く笑い返した。
「藤井くんは? どの季節?」
「……秋かな」
「へぇ、落ち着いてる感じ?」
「……あと、夕方が好きだから」
その一言で、私は放課後の彼の姿を思い出した。
窓際で絵を描く横顔、柔らかな表情。
あの時間に、彼の中の「秋」が詰まってる気がした。
ふたりで考えた詩は、たった三行だった。
> 春の風、
ふたりの間を、
静かにすりぬける。
「……いいじゃん、これ」
私がそう言うと、藤井くんはペンを置いて、ほんの少し笑った。
「悪くない」
悪くない。
それだけの言葉が、
なんだかすごく、あたたかかった。
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今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
教室の中で「誰とペアになるか」って、
実はけっこうドキドキする瞬間だったりしますよね。
気になる相手と偶然一緒になると、
嬉しいような、恥ずかしいような、
でもどこかで「この時間が終わらなければいいのに」と思ったりして。
短い詩を作るというシンプルな課題の中に、
ふたりの心がほんの少し重なるような時間を込めてみました。
次回からは、ふたりの距離が、
さらに半歩ずつ近づいていく予定です。
また次の午後、放課後でお会いしましょう。