表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第6話 : ペアになった午後


午後の授業、現代文。

いつもなら、先生が淡々と板書して、生徒は静かにノートを取るだけ。

だけど今日は、少し違った。


「じゃあ、今日は二人一組で、短い詩を作ってみようか」

先生の言葉に、教室がざわっと揺れた。


「まじかー、めんどくさ……」

「誰と組むー?」

「先生、3人でもいいですか?」


そんな声が飛び交うなか、私は小さく息をのんだ。

そして、その視線の先に——藤井くんがいた。


どこか迷っているような、でも動こうとしない彼の姿。


……気づいたら、私は席を立っていた。


「……あの、藤井くん。一緒に、組まない?」


彼は少し驚いたような顔をして、

それから、静かにうなずいた。


「……うん」


たったそれだけの会話なのに、

心臓がドキンと音を立てたのが、自分でもわかった。



「じゃあ、テーマは“季節”でいこうか」

私が言うと、彼はペンをくるくると回しながら、軽く頷いた。


「春、夏、秋、冬……どれが好き?」


「うーん……春、かな。なんか、匂いがやさしいし」


そう言った私の言葉に、藤井くんはふっと笑った。


「……つばさっぽい」


「えっ、なにそれ?」


「いや、なんとなく。春っぽい感じするから」


言われた瞬間、顔が熱くなった。

でも、変に照れるのが嫌で、私は軽く笑い返した。


「藤井くんは? どの季節?」


「……秋かな」

「へぇ、落ち着いてる感じ?」


「……あと、夕方が好きだから」


その一言で、私は放課後の彼の姿を思い出した。

窓際で絵を描く横顔、柔らかな表情。

あの時間に、彼の中の「秋」が詰まってる気がした。


ふたりで考えた詩は、たった三行だった。


> 春の風、

ふたりの間を、

静かにすりぬける。




「……いいじゃん、これ」


私がそう言うと、藤井くんはペンを置いて、ほんの少し笑った。


「悪くない」


悪くない。

それだけの言葉が、

なんだかすごく、あたたかかった。



---


今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


教室の中で「誰とペアになるか」って、

実はけっこうドキドキする瞬間だったりしますよね。


気になる相手と偶然一緒になると、

嬉しいような、恥ずかしいような、

でもどこかで「この時間が終わらなければいいのに」と思ったりして。


短い詩を作るというシンプルな課題の中に、

ふたりの心がほんの少し重なるような時間を込めてみました。


次回からは、ふたりの距離が、

さらに半歩ずつ近づいていく予定です。


また次の午後、放課後でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ