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2-2 ホームルーム

僕らの学校(アルカディア学園)では、科目ごとにそれぞれの進度に合わせた講義を受講する。ある意味、進学塾や大学の講義に近い形式だ。体育、音楽、美術などはほとんどのクラスメイトが集うのだが、配慮が必要な生徒には特別講義が行われていたりする。


エデン連邦共和国では義務教育は成人する18歳までなので、いくら学習進度が大学レベル以上に達していたとしても、未成年は学校に通っている。それに、ここで大学の学位――学士から博士までとれてしまうという噂も聞いたことがある。そういう先輩がいるのかは分からないが、まあ、ダリウスならやってしまいそうだ。


クラスメイト全員が揃うのは、朝のホームルームや、学校行事くらいだ。

夏休みが終わってすぐの朝のホームルームだった。担任のリー先生がパンパンと手を叩き、威勢よく言った。


「さて、みなさん! 今年の学園祭が近づいています。今回は“多様性”をテーマに出し物を考えてみてはどうでしょう? 教育省からも提案があってね……」


その瞬間、クラスがざわめく。あちこちから「げ、また“多様性”か」「めんどくさ…」という小声が聞こえる。

リー先生は苦笑いしながら続ける。


「まあまあ、みなさん、うちは他の学校と違って、事情が違う生徒が集まってるでしょう? そこを逆にアピールするのが、この学校らしいともいえるの。実際、政府でも“遺伝子改変をどこまで許容すべきか”が議論になってるわけだし、私たちも一緒に考えてみたらどうでしょう?」


クラスの中から、何人かが手を挙げる。そこで意見交換が始まるが、すぐに“多様性って何だ?”という論調に変わる。


「病気や障碍を抱えてる子は仕方ないけどさ、ケモ耳とか意図的な改変は、正直やりすぎじゃない?」


「いや、本人が望んでるならいいんじゃないの? ただ、親の意向でやられたのはかわいそう…」


「ていうか、親の経済力でいろいろカスタマイズできちゃうわけで、平等でもなんでもないし」


僕は黙りこんでいる。そもそも僕は“理想的な人間標本”として称賛されている立場で、この議論に加わるのは気が引けるからだ。


一通り意見が出終わると、リー先生は「では周りの皆さんと議論を深めてみましょう」といい、あちらこちらで会話が始まり、教室は一気に騒がしくなる。自然と僕に話題が向いた、何人かのクラスメイトから話しかけられる。


「アキテル、人間標本のお前は何か困ったりしないの? 」と誰かが尋ねる。


「うーん……“人間標本”のスキャンとか、レポートを提出しなきゃいけないのは面倒……かな、寝てる間のスキャンとか、結構いやだし。」


正直に答えたつもりだったが、悪手だったようだ。アキテルの目前にいた生徒は相槌を打っていたが、鋭い声が飛び、クラスメイトたちの目が一気に集まった。

「えっ、じゃあ、アキテルはもし標本調査に参加していなかったら、困ることはないの? さすが理想的な遺伝子……」


ざわめきが広がり、声が飛び交う。何かしら「配慮が必要」な生徒が集まったこの学び舎で、確かにアキテルは配慮の性質を異にしていた。


「世界一幸せ者ってことじゃん。いいよなあ、羨ましい」

「じゃあ皆がアキテルみたいに生まれたら万事解決ってこと? “多様性”とか無駄なんじゃね?」

「アキテルのクローン社会ってこと?道行く人、みんなアキテルかよ」

「えーやだーそれはさすがにキモイ……」

「よぉ、世界一の幸せ者!」


冷やかしか本気か分からない声に、僕は思わず言葉を失う。


僕が、世界一幸せ?僕以上に幸せな人間はいないってことか?じゃあ、僕が何か足りないように感じているコレは一体何なんだ?僕は、今以上に満たされることはないのか?


呆然としていると、普段は会話に混ざらないダリウスが割って入った。

「くだらねえこと言うなよ。嫉妬ばかりで何も生まねえだろ。嫉妬を生んでいる自分の問題に目を向けろよ。アキテルを羨んでも人生が好転するわけじゃねぇぞ?」


全くもって正論なのだが、クラスメイトは一様に「なんだダリウスか」と白けた顔をする。13かそこらの若者たちには耳の痛い正論であったし、さらに普段から尖った態度の彼ゆえ、素直に受け止められることはなかった。


「まぁ、ダリウスだから言えるんだよな」

「何不自由ないエリート議員の天才息子だもんね」


そうこうしているうちにホームルームが終わり、皆散り散りに自身の講義へ向かっていった。


僕はしこりのような違和感を抱えたまま、立ち尽くしていた。



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