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雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
五章
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#62 最後の協奏曲――②

 確実に進む電子世界の崩壊。その影響が、開始数分とたたずに表れだした。

 現実世界を、その規模において遥かに上回る混乱を見せていた電子世界から、人の姿が一斉に消えた。ある瞬間を基点に、すべての人間が同時に瞬間移動したかのように。だが、この表現はあながち間違いでもない。電子世界の異常に伴い、電子世界を構成するすべての崩壊寸前のサーバーが、内部の人体データを現実世界へと強制転移したのだ。そして、それらが終了した直後、例外なくサーバーが――つまりは電子世界そのものが崩壊した。僅か五分間の出来事だった。

 しかし――










 「…………どうやら、間に合わなかったようです」

 上空の様子を眺めながら、セラが結果を呟く。

 同じように空へと視線を向けている綾は、しかしその言葉に何も返せなかった。

 それどころか、如何なる言葉も出てこなかった。

 絶句――綾の現状はその一言。そして世界の現状は――絶望。

 綾の視線の先で、上空を影が次々と覆い隠していく。

 異変が生じているのは空域だけではない。地上も海中も、同様に"この世界には存在し得ないモノ"が絶え間なく現れ続けている。

 「……ネットワーク………ウイルス」

 ようやく出てきた声は、掠れ震えていた。

 「これは……想像以上だな」

 ラーゼリッタを操作しながら、沙希がそんな感想を漏らす。

 「いや、当然か。これが、全"世界"で同時に起きているんだ……完璧に事態を想像するなど最早不可能……か」

 「これが……?」

 まるで現実味のない光景だった。

 "死"がなく"魔術"が行使できた世界だったからこそ対処できていた存在だ。それを相手に、現実世界で何かができるわけがない。そう、現状魔術を使える綾ですら。

 「だが、幸か不幸か、"五つ目"にバグがあったみたいだ」 

 「どういうことですか?」

 「現実世界の境界も崩壊している。しかも、電子世界とは別の形でな」

 沙希が言ったことを、綾はとっさに理解できなかった。綾だけではない、セラを追うように降下してきていたエルカ、アリス、カールの三人もだ。

 「電子世界の場合、崩壊させたのは正確には"結合部分"だ。つまり、境界の狭間にあった世界を繋いでいた橋のようなものを破壊した。一方で現実世界内部のそれはちょっと違う。文字通り境界が崩壊したことで、四つの世界が完全に結合した」

 綾は、混乱した頭でなんとか整理を試みる。要するに、四つの世界――Rekalta・Earth・NAVIA・Alcaが一つになってしまったということらしい。そんなゲームの中の話じゃあるまいしと疑心を抱く綾だが、目の前で起きているのはそれと差異などほとんどない現実だ。

 「そして、"三つ目"によって、すべてのネットワーク・ウイルスがここに集まりつつある」

 「…………は?」

 綾は思わず間抜けな返事を返す。

 「"三つ目"は、綾の身体構造そのものを変質させる…………という、現実感皆無のバカげた自律プログラムなんだが、その作業がもうすぐ終わるだろう」

 それとネットワーク・ウイルス集結に何の関係があると思う一方で、なんじゃそりゃというのがまず最初に抱いた感想だ。

 どんな技術を使おうと、所詮はプログラムでありつまりはデジタルデータでしかないものに、そんなことができるわけがない。

 「最も、今に始まったことでもないんだがな……元をたどれば、バックアップデータのことになるわけだが」

 綾にとって、バックアップデータのことで思い当たるのは一つだけだ。すなわち、綾だけバックアップデータが作れなかったことだ。

 「疑問に思わなかったか?」

 沙希が、問いを投げてくる。

 「そりゃ普通に思ったけど……あれこれやっても原因がわからなかったのよ」

 「ま、それが当然だな。そういう類の代物だったんだから、当たり前だ。……原因(こたえ)を言えば――」

 間を僅かに置いた後、沙希はとんでもないことを言った。


 「生身の人間(アナログデータ)としてログインするよう、綾の人体構成プログラムそのものをいじった、てところか。あの事件の本当の原因を熟考、そこから今回のこれを推察した上で、あの事件に乗じて、な。無論、やったのはレイトだが」


 直後、綾の意味不明を示す絶叫が、ネットワーク・ウイルスの咆哮に負けじと響いた。


 

 

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