#47 アスフィナス――①
文化祭は、二日に渡って行われる。そして、今日はその一日目。
「絶対におかしい」
コスプレ喫茶と化したGS(普通科総合)1Cの一角で、綾は一人呟いた。その手には、今日と明日着ることになる装備品があった。文句を言っても聞き入れてもらえないのを知っているので、仕方なくそれらを身に付けていく。
漆黒のロングドレス、それに相対する純白の機械翼、両の腰にはやや口径の大きいツインサブマシンガン(偽)、オッドアイ、大きくカールした艶のある長いツインテール――メディアミックスを現在進行形で展開する大型作品、そのメインヒロインそのものだった。
またドレス……綾はそんなことを思ってため息をつく。
今の時刻は9時45分。文化祭開始まで、あと15分だ。既に準備は整っており、教室に改めコスプレ喫茶"アルメ・ド・ワール"にいる生徒たちはのんびりと談笑などをしながら待機している。
綾は、なんとはなしに窓の外に目をやる。今はまだ解放されていないゲートの前に、文化祭開始を待つたくさんの一般客が集まっていた。学生が大半だが、やや年齢の幅がある。下は小学生から上は大学生まで、中には目的をもって来ている幼稚園児――の親などもいるのだろう。初等部から大学まで一斉に文化祭を行うのだから、これは当然の光景と言えるのだが。
綾はそこでふと、無意識とはいえ滝浦秀の姿を探している自分に気付いた。あの密集体の中から見つけ出すことなど、たとえ来ていたとしても不可能なのに。
「秀…………」
胸に手をあてながら、小さく呟く。
――なんで、こんな気持ちに……。
息が詰まったような感覚が、今の綾の胸にはあった。
「あそこに、恋する乙女がいらっしゃいますね」
「乙女というより姫ですね。愛しきものを待つ姫」
「今日の詩織さんはロマンチストですね」
「違いますよ、凪さん。今の彼女を見ていると、自然とそういうイメージが湧いてくるだけです」
コスプレ喫茶"アルメ・ド・ワール"の入口から、顔だけを出して中を覗く実に怪しい二人の少女が、広く品のある廊下にいた。凪と詩織である。二人はなぜか硬い口調で声も低く、ドレスを着た少女について語っていた。
「果たして王子さまは現れるのでしょうか?」
「今の時代にはまったく似合わない表現だと思うんだけど……王子さまて……。……コホン、どうでしょう。文化祭に来るだけでは、彼女の前に現れたことにはなりませんからね」
二人が見つめる先にいる少女――綾姫は、相変わらず窓の外を見てぼうっとしている。この三人を傍から見てると、コントか何かをやっているようにしか見えない。
「確かに……。ここに、彼女のシフトに合わせてこなければ、オモシロイベ…………彼女のために来たことにはなりませんね」
「そうです。そして私は、オモシロイベ…………彼女のためにほんの少しだけ手を貸したいと思っているのですが?」
詩織は、凪に提案をしてみる。
「賛成です。では、そのための作戦を練りましょう。必要であれば根回しも」
そうして二人は早速、行動を開始した。すべてはオモシロイベントのため。
♪
私立アンジエスタ学園の文化祭――"アンジエスタ・ブレイクフェスティバル"は、殺傷能力を極限まで削り、確実な安全が確保された環境下での地対空ミサイルの爆発音とともに始まった。初っ端から日常が崩壊したように感じるが、これは例年のことなので問題視されることはない。なぜ毎年行えるのかというと、この学校だからとしか言えないだろう。
そして、それに続くように、キャンパスの中央に特設された巨大ステージ上で、大学のサークルによる演奏が早くも始まった。
校舎の内外を問わず、生徒が動き出し始める。
模擬店の営業を開始した生徒たちの一部は、それぞれの店の宣伝を始める。その中には当然、SG1Cの生徒もいる――無論コスプレをして。
展示系は特にやることもないので、のんびりと。
アンジエスタ学園の文化祭は、大いに熱を持った状態でスタートした。
動き出したのは、なにも学園の生徒だけではない。
文化祭の影から襲撃する側も、音もなく動き出す。
やほい(-o-)/
中間試験間近のノロマ作者、神崎です。
週一……ペースとしては遅いだろうなー。
さてさて。
ようやく文化祭が始まりました。
60部目にしてようやく、三つ目のフラグメントが出てくる事件の前奏、楽しい楽しい(???)文化祭が始まりましたよ。
それにしても……完結話はいったい何部目になるやら。しかもこのペースで書いてたら……少なくとも、年内完結は無理ですね。
では、気温も下がってきましたし、体調にはお気をつけて。作者のように、二時間半睡眠は控えましょうね。
それでは~ (-.-)ノシ