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雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
序章
6/76

#6 勉強会と初仕事――①

高槻詩織――Shiori Tkatsuki


コード:《焦光の炎獄(ライトニング・フレイムライズ)》


ライセンス:1st 音色:ピアノ


能力:複現


〈華焔〉所属


私立アンジエスタ学園 高等部 1-C

 詩織とリオナが今いるのは、TN.001254。

 見渡す限りの荒野である。

 赤茶けた大地を、真っ赤な夕日が照らしていた。

 「リオナ・・・さん」

 「リオナでいいですよ」

 「えと、じゃあ、リオナ」

 「何でしょう?」

 詩織は、ウインドウを開きプランを確認しているリオナに声をかけた。

 「ここもターミナルなんだよね?」

 「はい、そうですよ。えーとですね、この世界には二重類のターミナルがあるんです。一つは、さっきまでいた、センパイが管理している〈華焔〉のターミナルのような、拠点とよばれているものです」

 確認が終わったのか、リオナはウインドウを閉じ、視線を詩織のほうにむける。

 「そしてもう一つが、ここのようなフィールドと呼ばれているものです。今回センパイたちが向かったのも、こことは別の場所ですがフィールドです」

 なるほど、と詩織が頷くとリオナは、さてと、と話を切り替えた。

 「まずは、基礎の基礎。炎を出すところから始めましょう」

 「炎を出す?」

 詩織は、オウム返しにリオナに訊く。

 「はい、そうです。頭で理解はできていると思いますが、魔術は感覚なので。方法を知っているだけじゃダメなんですよ」

 「なるほど」

 「じゃあ、まずは私から。ただ炎を出すだけなら、特に起電術音(スペル)を唱える必要はありません」

 そう説明をしながら、リオナは上に向けた手のひらから、ぼっという音ともに小さくも大きくもない炎を出した。

 色は黄金色。

 とても綺麗な炎だった。

 「では、次は詩織さんが。細かな感覚はやりながら掴むしかありませんから」

 「う、うん」

 詩織は、リオナと同じように右の手のひらを上に向け、集中する。

 炎が出るイメージ、手のひらから出る炎のイメージをする。

 そして――、

 ゴウッ!

 それは、右手を包み燃え盛る紅蓮の炎。

 「わっ・・・・・!」

 詩織が、この程度の驚きで済んでいるのは熱くないからだ。

 術師本人にダメージがあったのでは、とてもじゃないが魔術とは呼べない。

 夕日に負けず劣らず赤く燃え上がる炎を見ながら、リオナは詩織にこう言った。

 「炎の火力を小さくするんじゃなくて、炎を圧縮するイメージをしてみてください」

 そんなのムリッ!と思いつつも、詩織は必死に頭をひねる。

 そうして、数分後。

 「わぁ・・・」

 詩織の炎は、リオナのそれと大差ないくらいにまで圧縮(・・)に成功していた。









 「そういえばさ」

 TN.000053、三つの色の違う恒星が大地を焼く広大な砂漠の、巨大な砂丘と砂丘の間にある平地を歩く綾が、隣を同じように歩く未奈に、唐突にそう声をかけた。

 「ふと思ったんだけど、なんで未奈は会話する時まで敬語なの?名前だって"さん"づけだし」

 「えっと・・・クセみたいなものなんです。昔からそうで・・・呼び捨てにできるのは幼馴染くらいで・・・・・」

 未奈は、あはは、と苦笑いを浮かべる。

 「そっか・・・。それが呼びやすいならいいんだけど・・・・・私はさ、友達なんだし、もっとこう軽くというか、敬語なんか使わなくてもいいのにって思ったのよ」

 綾は、歩を進めながら、手振りを交えて思った事をそのまま口にする。

 無論、周囲への警戒は怠ってはいない。

 「だから、無理にとは言わないし、すぐにとも言わないけど、私たちと話すときぐらいもっと力抜いてみたら?」

 「じ、じゃあ・・・・呼び捨ては無理かもしれないですけど・・・"ちゃん"づけなら・・・・・」

 「うん。試しに呼んでみてよ、私の名前」

 「あ・・・綾ちゃん」

 うん。綾がそう返そうとした時だった。

 ドガンッ!

 突如砂中から襲ってきたのは、巨大な砂蛇だった。

 両の眼はルビーのように妖しく光り、歪むように開かれている口腔には見るからに強力な毒液を垂らす4本の牙があった。

 体皮には、鱗とともに無数の棘が並び、赤黒い様相をさらに邪悪なものへと変えている。

 「綾ちゃん・・・これは・・・・・」

 「これは、"グノヴェルガ"。"リストY"の上位に登録されている、砂炎の毒蛇」

 未奈がグノヴェルガと相対するのは、今回が初めてだった。

 「また、未奈には不利な相手、か」

 「え・・・・・・?じゃあ・・・・・・」

 「こいつも、炎を扱うネットワークウイルスってこと。・・・・・来るわよ!」

 言うと同時に、綾は磁力で自身と未奈を弾く。

 直後、二人がいた場所が消失した。

 「「電子魔術エレクトロニック・マジック、起動!」」

 二人同時に叫ぶ。

 そして、すぐさまその場を離れる。

 「まずは、あいつをどうにかして砂の中から引きずり出さないと。未奈、援護して」

 「うん!」

 綾は、グノヴェルガの側面へ回り込むように、磁力を使い高速で移動する。

 だが、グノヴェルガの動きは機敏かつ狡猾だった。

 綾の接近に気付くと、すぐさま砂の中へと潜ってしまう。

 そして、足元から襲ってくる。

 同時に、少し離れた場所にいる未奈に、炎渦を放つ。

 「ストラシア」

 高速で形成された円形の氷の防御壁がそれを防ぐ。

 だが、受け切った後に残った防御壁のサイズは、元の3分の1ほどになっていた。

 「リレイザ」

 綾が隙を突くように雷撃を放つが、グノヴェルガはそれを難なくかわす。




 広大な砂漠の真ん中で、今戦いが始まった。



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