#6 勉強会と初仕事――①
高槻詩織――Shiori Tkatsuki
コード:《焦光の炎獄(ライトニング・フレイムライズ)》
ライセンス:1st 音色:ピアノ
能力:複現
〈華焔〉所属
私立アンジエスタ学園 高等部 1-C
詩織とリオナが今いるのは、TN.001254。
見渡す限りの荒野である。
赤茶けた大地を、真っ赤な夕日が照らしていた。
「リオナ・・・さん」
「リオナでいいですよ」
「えと、じゃあ、リオナ」
「何でしょう?」
詩織は、ウインドウを開きプランを確認しているリオナに声をかけた。
「ここもターミナルなんだよね?」
「はい、そうですよ。えーとですね、この世界には二重類のターミナルがあるんです。一つは、さっきまでいた、センパイが管理している〈華焔〉のターミナルのような、拠点とよばれているものです」
確認が終わったのか、リオナはウインドウを閉じ、視線を詩織のほうにむける。
「そしてもう一つが、ここのようなフィールドと呼ばれているものです。今回センパイたちが向かったのも、こことは別の場所ですがフィールドです」
なるほど、と詩織が頷くとリオナは、さてと、と話を切り替えた。
「まずは、基礎の基礎。炎を出すところから始めましょう」
「炎を出す?」
詩織は、オウム返しにリオナに訊く。
「はい、そうです。頭で理解はできていると思いますが、魔術は感覚なので。方法を知っているだけじゃダメなんですよ」
「なるほど」
「じゃあ、まずは私から。ただ炎を出すだけなら、特に起電術音を唱える必要はありません」
そう説明をしながら、リオナは上に向けた手のひらから、ぼっという音ともに小さくも大きくもない炎を出した。
色は黄金色。
とても綺麗な炎だった。
「では、次は詩織さんが。細かな感覚はやりながら掴むしかありませんから」
「う、うん」
詩織は、リオナと同じように右の手のひらを上に向け、集中する。
炎が出るイメージ、手のひらから出る炎のイメージをする。
そして――、
ゴウッ!
それは、右手を包み燃え盛る紅蓮の炎。
「わっ・・・・・!」
詩織が、この程度の驚きで済んでいるのは熱くないからだ。
術師本人にダメージがあったのでは、とてもじゃないが魔術とは呼べない。
夕日に負けず劣らず赤く燃え上がる炎を見ながら、リオナは詩織にこう言った。
「炎の火力を小さくするんじゃなくて、炎を圧縮するイメージをしてみてください」
そんなのムリッ!と思いつつも、詩織は必死に頭をひねる。
そうして、数分後。
「わぁ・・・」
詩織の炎は、リオナのそれと大差ないくらいにまで圧縮に成功していた。
♪
「そういえばさ」
TN.000053、三つの色の違う恒星が大地を焼く広大な砂漠の、巨大な砂丘と砂丘の間にある平地を歩く綾が、隣を同じように歩く未奈に、唐突にそう声をかけた。
「ふと思ったんだけど、なんで未奈は会話する時まで敬語なの?名前だって"さん"づけだし」
「えっと・・・クセみたいなものなんです。昔からそうで・・・呼び捨てにできるのは幼馴染くらいで・・・・・」
未奈は、あはは、と苦笑いを浮かべる。
「そっか・・・。それが呼びやすいならいいんだけど・・・・・私はさ、友達なんだし、もっとこう軽くというか、敬語なんか使わなくてもいいのにって思ったのよ」
綾は、歩を進めながら、手振りを交えて思った事をそのまま口にする。
無論、周囲への警戒は怠ってはいない。
「だから、無理にとは言わないし、すぐにとも言わないけど、私たちと話すときぐらいもっと力抜いてみたら?」
「じ、じゃあ・・・・呼び捨ては無理かもしれないですけど・・・"ちゃん"づけなら・・・・・」
「うん。試しに呼んでみてよ、私の名前」
「あ・・・綾ちゃん」
うん。綾がそう返そうとした時だった。
ドガンッ!
突如砂中から襲ってきたのは、巨大な砂蛇だった。
両の眼はルビーのように妖しく光り、歪むように開かれている口腔には見るからに強力な毒液を垂らす4本の牙があった。
体皮には、鱗とともに無数の棘が並び、赤黒い様相をさらに邪悪なものへと変えている。
「綾ちゃん・・・これは・・・・・」
「これは、"グノヴェルガ"。"リストY"の上位に登録されている、砂炎の毒蛇」
未奈がグノヴェルガと相対するのは、今回が初めてだった。
「また、未奈には不利な相手、か」
「え・・・・・・?じゃあ・・・・・・」
「こいつも、炎を扱うネットワークウイルスってこと。・・・・・来るわよ!」
言うと同時に、綾は磁力で自身と未奈を弾く。
直後、二人がいた場所が消失した。
「「電子魔術、起動!」」
二人同時に叫ぶ。
そして、すぐさまその場を離れる。
「まずは、あいつをどうにかして砂の中から引きずり出さないと。未奈、援護して」
「うん!」
綾は、グノヴェルガの側面へ回り込むように、磁力を使い高速で移動する。
だが、グノヴェルガの動きは機敏かつ狡猾だった。
綾の接近に気付くと、すぐさま砂の中へと潜ってしまう。
そして、足元から襲ってくる。
同時に、少し離れた場所にいる未奈に、炎渦を放つ。
「ストラシア」
高速で形成された円形の氷の防御壁がそれを防ぐ。
だが、受け切った後に残った防御壁のサイズは、元の3分の1ほどになっていた。
「リレイザ」
綾が隙を突くように雷撃を放つが、グノヴェルガはそれを難なくかわす。
広大な砂漠の真ん中で、今戦いが始まった。