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雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
三章
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#45 Autres

 自分たちの姿を見たら、詩織たちは絶対笑うだろうな――綾はベッドの上でそんなことをふと思った。

 あの後――と言うと綾だけには少し語弊があるのだが――綾と秀は私立アンジエスタ学園医学部が運営する付属病院へと運ばれた、らしい。らしい、というのは当然、その間綾の意識がなかったためだ。綾が目を覚ましたのは事件のあった翌日の朝――すなわち今朝なのだから、意識を最初に失ってからそれまでの記憶はない。だが、今いるのが自分の通う学校の病院だということはすぐに分かったし、今の自分の格好を見ればある程度は推測できるというものだ。

 隣のベッドで寝息を立てている秀と綾は、揃って包帯を全身に巻かれており、その上から見慣れないパジャマを着ていた。病院が用意したものだろう。肌触りなどから分かる通り、まぁ当然と言えば当然なのだが、このパジャマも値が張るものだ。

 そんなことより、と綾は思考を切り替える。観光サーバー"イニング"がどうなったのか、綾はもちろん知らない。サーバー自体はともかくとして、巨大多目的ドーム"アージュリー"は恐らく――いや、確実に全壊しただろう。なので、サーバーの一時的完全閉鎖は免れない、綾はそう考えている。そして、最も気がかりなのが他ならないレヴィーネの安否だ。護衛対象だから、とかいう無粋な理由は抜きにして、純粋に綾はレヴィーネのことを心配していた。

 「ん…………?」

 頭の中であれこれ考えていると、廊下から話し声が聞こえてきた。声音から、どうやら詩織たちらしい。

 「あ、綾起きてる」

 「おっ、ホントだ。ナースさんには言ったの?」

 詩織の事実表明に続いて、なぜか一緒にいるレヴィーネが訊いてきたので、綾は「まだだけど…」と返す。

 二人の後ろには、未奈にリオナ、エルカに祐太もいた。

 「あの、お姉……センパイ、その……ケガの具合は?」

 「んー……大丈夫、って言いたいところだけど、長くて一週間くらいは入院しないとダメかもね。たぶん、コイツも」

 そう、さすがに今回ばかりは二人とも入院が必要だった。綾も秀も、強力な雷撃によって皮膚細胞が大きく壊れていたためだ。その治療のため、医学が進んだ現代でも様子見を含め一週間くらいは入院しなければならない。

 「……ちょっと、リオナと二人で話がしたいんだけど……いいかな?」

 「あー、はいはい。わたしたちはロビーにいるから」

 なにか察したらしい詩織が、皆を伴って部屋から出ていく。それを見て、綾は内心詩織にお礼を言う。後で改めて礼を言わなければならない。

 「あの、話って……」

 「大したことじゃないんだけど、ちょっと気になって。リオナにとって私は結局どっちなのかな、って」

 「え……と…………」

 問われたリオナは、目を附せ口籠ってしまう。

 「別に責めてるとか、そういうことじゃないのよ」

 綾は、窓の外へとゆっくり視線を向けながら続ける。

 「私のことをどっちで呼んでくれてもいいんだけど……ね。フラフラしてるのは私も同じだし。ただ、リオナにとって私はどういう存在なのかな、ってふと思った、それだけんだけどね」

 「センパイは命の恩人です!鎖を解いてくれた人です」

 「本当にそれだけ?」

 「…………私は……センパイの妹になりたいです。センパイが好きで、センパイが大好きで、一緒にいたいといつも思います」

 綾は、視線をリオナへと戻す。それに合わせて、下ろしている深青の髪が揺れる。

 綾は、リオナの瞳をじっと見つめる。僅かに潤むリオナ瞳は、言ったことが嘘ではないと語っているようだった。

 「お姉ちゃんと……呼びたいです」

 「じゃあ、ウチに来る?」

 「え……?」

 「姉さんや親には私から言っておくから。たぶん了承してくれると思うし。リオナにはもう両親祖父母もいないから…………」

 「え………っと……………?」

 リオナは話についてこれていないらしく、口をポカンと開けたまま固まっている。

 「私の義妹になりたいんでしょ?」

 「あ…………はいっ」

 綾が言っていることを理解したリオナは、満面の笑みを浮かべ綾に抱きついた。

 「――――――――ッ!!」

 綾に、雷撃の如き激痛が走る。それはもう、言葉どころか悲鳴すら出てこないような激痛が。綾は、失神していないのが奇跡だとその時思った。同時に、なぜこんな時に限って意識が飛ばないのか、とも。














 数日後、異常とも言える速度で全ての手続きが終了し、リオナは正式に栗原家の人間となった。

 そして、そのことがリオナに伝えられたその日から、リオナは引っ越し作業を始め、綾が退院した現在、綾の家で二人で暮らしている。

 ちなみに、一緒に入院していた秀だが、こちらも無事に完治した。というより、秀の場合は綾が言うほどケガはひどくなく、綾より二日ほど早く退院している。そして、その後の二日だが、見舞いに来てはリオナと火花を散らしていた。二人の関係は相変わらずだということだ。

 そうして過ぎ去っていった夏休みを終え、それぞれがそれぞれの新学期を迎えた。しっかりと課題をやっていた綾たちは、のんびりと新学期を迎える。一方で、課題のことなど頭からすっ飛んでいた秀は、綾に懇願することから始まり、夏休み最後の二日を使って全部片付け、疲れが残るまま新学期を迎えた。

 新学期と同時に迎えることになる、食欲あるいは読書の秋、始まるのは何も学校だけではない。事件もまた、時期を同じくして、静かに勃発するのである。

リオナに関することで、またぶっ飛んだ話を書いてしまった(-_-;)

ども、作者です。



今度は義妹です。ホントの妹になっちゃいます。作者も予想外(←オイ)の展開。

そしてすいません、今回もいるのに未発言キャラが何人か。お馴染といえばそうですが。というか、秀なんて起きてすらいないですからね。



さて、第二編はこれにて終了です。

今後は、ひとつかふたつか、まぁわかりませんがクッションとなる短編を挟んで、第三編に行こうかなぁとか考えてます。

第三編は、エルカ絡みのことです。



というわけで(-o-)/

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