#43 Summer Live in The Dark――⑦
「おいッ!綾ッ!…………桐谷敦ッ!!」
秀は、ボロボロの綾の半身をその腕に抱えながら、敵を鋭く睨みつける。視界に入れた敵の名を荒々しく叫ぶ。
直後には、掌の内に氷剣を形成して走り出――そうとしたところを、上着の裾を引っ張られる。
「ダメ…………」
振り返ると、綾が裾を掴みながら、震える声でそう言った。その声は、ひどく弱々しい。
近づいてくる二人分の足音が聞こえてくるが、今の秀の意識はそちらには向いていない。
「"死"を背負うのは…………私だけで………いいから……」
秀を支えにしてゆっくりと立ち上がりながら、綾は諭すかのように言葉を絞り出していく。
「な……何、言って………」
「あいつは…………私一人で大丈夫……だから……」
「何言ってんだよ!全然大丈夫じゃねーじゃねぇか!身体はボロボロだし、フラフラだし……」
今の綾が立ってるのもやっとなのは、見れば誰でもすぐに分かる。戦う以前の話だ。
そして同時に、綾がこんな状態になったのも理解できる――綾の傷を見れば尚更だ。綾の傷の大半は火傷だ。しかも、赤を通り越して黒く焦げているところさえあるほどだ。
桐谷敦――《鋼炎》。《機鋼》と《炎獄》の複合魔術基盤であるこれは、榴弾を形成する。榴弾とはすなわち着弾時に爆発する弾丸であり、例えばこれをマシンガンや機関砲でバラ撒いたらどうなるか、想像に難くはない。
綾は《雷撃》で、防御には大別すれば二つのものを用いる。一つ目は形状固定で形成した雷盾だ。防御力は割とある方だが、視界の制約とそれによる攻撃不可という欠点がある。そしてもう一つが、高磁圧だ。これは、全身から放つ強力な磁力で防御を為すもので、当然磁力なので視界も確保できる。だが、防御力が若干低い。
今回綾は、恐らく後者を利用したのだろう。現在進行形でネットワークウイルスと戦闘をしている二人に銃口を向けさせないためには、そうする他になかったに違いない。攻撃の手を止めるわけにはいかないからだ。
秀は、改めて桐谷敦を見る。両手にある大型のマシンガンは、その銃口を下に向けていた。嘲笑を浮かべたまま撃ってこないのは、挑発かあるいは余裕からか。
「綾……お前が何と言おうと、俺は戦う。お前だけに、背負わせたりはしない。そういうのは、二人で背負えばいい」
「秀…………」
「リオナと詩織、綾と一緒に後方支援、頼めるか?」
秀は、不安そうな顔をしている二人の少女に問う。
「あ……はい、わかりました」
「わかった」
秀はその返事を聞き、綾を預けると、桐谷へと今度は全身を向ける。
「さて、と――ランデスタ」
『よーやく出番がきたか。レグナスのヤツは結構出てきてるくせに、なんで俺はこんなに出番がないのかねぇ』
秀にのみ聞こえるその軽い口調の声は、宿りし氷の三大龍神の一角ランデスタのものだ。
「なんのことだ?そんなことより、状況はわかってるんだろうな?」
『俺が訊かれてわからねぇと答えたことがあったか?』
「ないな。それじゃあ、いくぞ――被神」
瞬間、周囲の大気が凍りつく。地が、まるで巨大な龍が咆哮を放ったかのように鳴動する。秀を極度の冷気が包む。
「セルギナ・グラゼリア」
秀の両手のうちに黒き両手直剣が形成される。
その背には、被神によって八対十六本の剣を備えた氷の黒翼が形成される。
秀は、翼から生まれる飛翔力をもって一気に桐谷に迫る。
桐谷は両手のマシンガンから榴弾をバラ撒く。それらが秀に着弾するが、今や龍そのものとなった秀には、たかが榴弾程度ではその前進を止めることはできない。爆炎の中を突き進む。
「はぁぁぁあああッ!!」
秀は大上段から渾身の一撃を打ちこむ。桐谷が防御に使ったマシンガンを易々と切り裂き、そのまま桐谷をも斬る。だが、感じた手ごたえは金属を切った時のそれだった。兵装か同化か、いずれにしろもう一段防御を備えていたということだ。
斬撃は防げてもその衝撃までは殺せず、桐谷は若干後ろへとたたらを踏む。
そこへ、間髪いれずにリオナが放ったであろう多数の熱線が襲う。それによって、桐谷は完全に後方へと吹っ飛ばされる。
「ふ………ふははははっ!」
そんな狂笑とともに、桐谷はユラリと立ち上がる。
「ようやくおもしろくなってきたか!貫いてみろ!この鎧を!」
そんなことを撒き散らしながら、桐谷は新たに形成したバルカン砲のトリガーを引く。
秀は、同時に形成された十二発の多弾頭ミサイルを掻い潜りながら、あるいはすれ違いざまに斬りながら、桐谷との距離を縮めていく。
秀は、背の翼から剣を六本上空へと打ち上げる。
「ソードアーツ、ケルザータ・イッゼ・ラスカ」
打ち上げた六本の剣それぞれから、地上の桐谷へと無数の氷柱を放つ。さらに桐谷や地面に衝突して砕けた破片それぞれからも無数に氷柱が放たれる。
「ぐ……ぉおおっ……!」
その流儀の真骨頂ともいうべき連鎖攻撃に、桐谷が唸る。
「らぁぁあああッ!!」
その氷の竜巻の中心へと、秀は速度をそのままに剣の切っ先を突き立てた。
渦巻く黒き氷に、赤色の液体が混じる。
秀は、攻撃の手を止めた。そして、秀がふと肩から力を抜いた時だ。
ぐらりと傾いた桐谷の体が、途中で制止する。そして、左腕に持った自動拳銃を、秀から見て右へと向ける。
「なっ……コイツまだ……!」
致命傷を負ったにも関わらず、桐谷はまだ動いていた。そしてその銃口の先を追えば、そこには綾がいた。
秀が動くより早く、桐谷はトリガーを引く。放たれた銃弾は、しかし別の弾丸によって中途で爆発する。そのまま秀の目の前にいる桐谷の心臓を撃ち抜いた弾丸の色は、深い青。
秀は、この弾丸を知っていた。綾の上位魔術のひとつ、形状固定によって圧縮弾丸化された雷を高磁圧で撃ち出す――俗に言う超電磁砲だ。
砕かれた桐谷の心臓部分から、かつて見たのと同じ紫の球体がふわふわと出てきたかと思ったら、最後の一撃で意識を失った綾のもとへと飛んでいき、綾の中へと入って消えた。
ども\(-o-)/作者です。
もうすぐポケモンが発売です。大学生だけど。めちゃくちゃ楽しみにしているのです。
それとは別に、けいおん!!が無事に最終回を迎えました。今回も番外編があるようなので、まだ完全に終わりではないですが。
さて、本作の話に移りましょう。
今回、秀が大活躍だったのもありましたが、ようやく出せたものがあります。レグナスを非難していたランデスタや被神という能力もそうですが…………
なんといっても、レールガン。
この作品を書きたいと思ったのは、超電磁砲を見たからで、主人公の綾を《雷撃》にしたのも、レールガンを出したかったからです。
もちろん、パクってはいませんよ。細かいところが違うので、パクリではありません。そもそも、美琴のは超能力で、綾のは魔術だから、根本で違うし(言い訳)。
そ、それじゃ、この辺で(-.-)ノシ