#5 〈華焔〉/ターミナル
栗原綾――Aya Kurihara
コード:《華焔の雷撃(バースト・ボルテッカー)》
通称:アオアゲハ
格位:護姫(プリンセス)・第三格位(ドライ)
ライセンス:4th
音色:ギター
能力:形状固定,被神
私立アンジエスタ学園高等部 1-C
「ターミナル?」
翌日の朝、SHR前。詩織が、綾から聞きなれない単語を聞いたのはそんな時だった。
「そ。聞いたことない?」
詩織は、首を横に振る。
「端末のことなんだけどね。RPGでいうギルドみたいな感じ。えーと・・・『組織未満の集団の拠点及び集団そのもの』だったかな・・・とにかく、そんな感じのものがあるのよ」
「へぇ・・・」
詩織は、一応返事を返すものの、いまいちピンとこないでいた。
というのも、そもそもゲームというものをやったことのない詩織には、ギルドって何?という感じだった。
「まぁ、とにかく、今日の放課後付き合ってね。仕事もあるから」
「仕事?」
「早速依頼が入ってきているのよ。ネットワークウイルスの討伐依頼」
「え?でも、まだ、私・・・・・・」
一度も魔術を使ったことないんだけど・・・。
「綾さん、詩織さん、おはようございます」
詩織がそう言おうとした時だった。
未奈が、笑顔で挨拶をしてきた。
「おはよ」
綾が返す。
「あ、あはよう」
詩織も返す。
「あー、それで、魔術のことだけど、それなら大丈夫。今日なら、暇だろうし、講師呼べると思うから」
綾は詩織にそう言った。
そう言って、未奈に改めて説明をする。
その説明が終わると同時に、チャイムが鳴る。この、バカ広い学校に鳴り響く。
「センパ~イ」
「あ、来た来た」
放課後の電子世界、綾の登録SN.015、通称"メトロポリス"。
電子世界における巨大都市の一つだ。
そのメトロポリスの超高層ビル群からはずれた北東区、モニュメントがあちらこちらに見られる自然公園の噴水広場で、快活の良い声が空気を震わす。
自然公園というだけあって、公園には多くの木々が葉を揺らしており、空気は澄んでいて、メトロポリスでは名所の一つに数えられている。
「すいません!お待たせしました、リオナです」
「ううん、こっちこそ今日はゴメンね、急に講師役頼んじゃって」
「いえいえ。センパイの頼みごとを断る理由がリオナにはありませんから」
眩しいくらいの笑顔でリオナはそう言う。その表情から、その言葉は本心からのものなのだとわかる。
「綾さんが言っていた講師って・・・」
未奈の言葉、視線に込められているのは、“憧れ”。
「あ、自己紹介がまだでした。えっと、初めまして。護姫・第四格位、リオナ・アルディッツェです。リオナと呼んでください」
金の瞳、金のウェーブのかかったセミロングの髪をした、まだ僅かに幼さを残す少女は、未奈と詩織にペコリと軽く頭を下げた後そう言った。
「これから、〈華焔〉のターミナルに行くんだけど・・・」
「はいっ!ぜひともお供させていただきます」
「よし。それじゃ、行こ」
四人は、〈華焔〉のターミナルへと転送した。
〈華焔〉のターミナルは、レトロな喫茶店のような造りをしていた。
床や天井、柱などすべてが木製でできており、カウンターまである。
だが、デザインはかなり近代的で、現代を生きる人間にぴったりだといえる。
カウンター席は4つ、他にテーブルが3つあり、1つのテーブルに4つの椅子が配置されていた。
カウンターの上にはメニューがおいてあり、コーヒーから始まりソフトドリンクまで名前が連なっていた。だが、このメニュー表には値段が書いていなかった。
「そういえば、センパイのターミナルに来るのって初めてなんですよね」
「あ~、そういえばそうかもね。あはは・・・・・渋いよね、やっぱり」
綾は、未奈と詩織の〈華焔〉――正式名称、第三格位特別編成部隊〈華焔〉への登録作業をしながら、苦笑をもらす。
「そんなことないですよ。とっても落ち着きます」
「うん」
落ち着く、そう言ったリオナの表情は、心から癒されている、と誰でも分かるようなものだった。
綾は、ここまで表情に表せられるのは、かなり珍しいだろうと思った。そして、嬉しい、とも。
「さてと。それじゃあ、本題に入るわよ」
登録作業を終わらせた綾は、そう話を切り替えた。
綾はそう言うと、テーブル席の一つに座り、ウィンドウを1つ展開する。
そこには、"護姫任務依頼書"と書かれていた。
そして、内容の欄には、『ネットワークウイルス"メルガディア"の討伐』の文字。
「これが、今回の依頼。これを、私と未奈の二人で遂行するわ。その間、詩織はというと・・・」
「詩織さんは、私と一緒に魔術の基礎を学びましょう」
綾の言葉をリオナが継ぐ。
「え?」
「要するに、マンツーマンの勉強会です。私も《炎獄》なので、センパイからお願いされたんです。なので、センパイのためにも頑張ります!」
リオナは、気合いを入れるように両の拳をぐっと握った。
「な・・・なんで、私だけ・・・」
勉強があまり得意ではない――それでも、平均からかなり上を行く学力を持っているのだが――詩織は、早くも弱音をこぼす。
「みんなやったことです。何事も基礎が大事なんです。それに、自分で電子魔導楽譜を組めるようにならなきゃ、本当に魔術を習得したことにはなりませんから」
実際はその限りでもないのだが。
汎用電子魔導楽譜というものが、それのひとつだ。汎用電子魔導楽譜とは、文字通り属性さえ合えば誰でも使える楽譜のことだ。
しかし、今回のリオナは講師役というのもあってか、少々・・・いや、かなり厳しい。
――ホント、はりきってるなぁ・・・。
内心、そんなことを思う綾。
「それじゃあ、センパイ。私たちはお先に。頑張ってくださいね、センパイ」
「あ、うん。リオナと詩織もね」
リオナは、詩織の腕を離すまいとしっかりと握りながら転送していった。
「さて、それじゃあ、私たちも行くわよ」
「あ、はい」
綾と未奈も、リオナと詩織とは違う転送先へと転送した。
九重未奈――Mina Kokonoe
コード:《桜城の氷剣(エルナ・アイスレイド)》
第三格位特別編成部隊〈華焔〉所属
ライセンス:2nd
音色:クラリネット
能力:兵装
私立アンジエスタ学園高等部 1-C 特殊編入生