番外編/とある騎士と小さな王女――③
結局どうなったのかというと、レニアの首根っこを掴んで引きずって、レニアが食い逃げした店まで行き、俺がパフェ5つ分の料金を支払うことで落着した。
ちなみに、巨大パフェは日本円で1つ1200円するので、合計で6000円を支払った。
店を出て、俺が盛大に溜息をついていると、
「レニア様、探しましたぞ」
執事服を着た初老の男が、若干肩で息をしながらやって来た。
「スロナスか」
スロナスと呼ばれた、絶対一人称は"じい"だろうと思わせる容姿をしたその人は、俺の方を見るや表情を驚きのそれへと変える。
「む。そちらにおられるのはもしや……」
「騎士・第三格位、滝浦秀だ」
「やはり……この度は、私目が見失ったばっかりにご迷惑をおかけしました」
俺は、まったくだ、と言いたいのをなんとか抑えて、
「あー、気にしなくても大丈夫です。ちょっとトラブルに巻き込まれましたが、それも解決したので」
と返した。笑みを浮かべながら言ったつもりだが、ちゃんと形になっていたかは分からない。
「そうですか……ちょっとお手をいいですか?」
「あ、ああ」
「失礼します」
スロナスはおもむろに俺の右手を取ると、その上に自分の右手を重ねた。
シャリンという音ともに、初老は手を離す。
「な……!」
「ほんの少しばかりのお礼です。それでは、私たちはこの辺で失礼させていただきます」
「ちょ……おい!」
去っていく後ろ姿に声をかけるが、振り向いて笑顔で手を振るだけで、二人が止まることはなかった。
俺は、ラーゼリッタのデスクットプを展開する。
上部に、『入金がありました』という文字が流れている。
俺は、その文字に指先を軽くあてた。
別ウィンドウが展開し、電子マネーの利用履歴が表示される。
ウィンドウの最上部に、現在の所持金が表示されていて、その下に二つのタブがある。
ウィンドウの左側、入金タブの下に連なる一覧の最上部に、今日の日付と500000の数字。
表示設定を"円"にしてあるので、これは『今日、日本円にして50万円の入金があった』ことを示している。
開いた口が、しばらく閉じなかった。
そうなったのはやはり、俺が"普通の人"でしかないからか?
共学なのに超お嬢様学校の私立アンジエスタ学園に通っている生徒ならば、こうはならないのだろうか?
俺は、なんとか口を閉じて、空を見上げ、改めて思った。
――世界は、どんなに拡大しても結局理不尽のままだ。
俺の視界にある空を割くように、一羽の鳥が飛んでいく。
「帰るか……」
俺は、どっと押し寄せてきた疲労感を抱えながら、電子世界を後にした。
――さて、この金をどうするか。
50万という、一度に渡されるものでは最高額の『給料』の使い道を考えながら、俺は予定よりもだいぶ遅れて帰宅した。