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雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
序章
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#4 転校生と親友と新術師――③

 詩織がライセンスの取得を行っているのと同時刻。

 「あの・・・・・沙希さんは綾さんのお姉さんなんですよね?」

 受付の前にある長椅子の一つに座った未奈は、同じように隣に座るサキに問いかけた。

 「そうだけど、それが?」

 「えっと・・・・・綾さんが“隊”を作らないって本当なんですか?」

 「あぁ・・・・・その話か」

 質問を耳にした沙希は、う~む、と考え込むように唸る。

 「本人の確認なしでこういうのを喋るのはどうかとも思うのだが、まぁ綾の友達みたいだし話してもいいか。とりあえず、結論からいえばその話は本当。もちろん、理由もある。詳しくは話せないが・・・。

綾は、この世界で探し物をしているんだ」

 「探し物・・・ですか」

 「そう、探し物だ。それでだ、綾はその探索を依頼と同時に行っている。無論、探索は綾の私事だが、これに関して術師管理局や上層機関は黙認している。というのも、依頼の遂行に全く支障が出ていない上に、アカリが依頼を完璧にこなしているからだ。・・・すべて、一人で、な」

 一人。

 この言葉は、未奈の胸に重く響いた。

 護姫(プリンセス)という機関を別の名で表すとすれば、警備会社が一番近い。ちなみに、騎士ナイトは警察だ。

 そこからわかるとおり、護姫とはサーバーやターミナル、人などを守るのが主な仕事と言える。だが、実際のところは警護よりむしろ討伐・処罰のほうが遥かに多い。故に、危険な依頼も多く、単独での遂行が難しいものがあるのも事実だ。

 その、単独での遂行が難しいものの一つが、騎士との相互共通依頼として発注される違法ターミナル・違法術師の処罰だ。この電子世界において、戦況が著しく変化する可能性が最もある対人戦が、最も困難な戦闘だとされているからだ。

 「すべてを一人でこなし、決して隊を作らない綾は、私の目から見ても無理をしていると分かる。だが、そうする理由が綾にはある。――私事に他人を巻き込みたくない、というのがそれだ。綾の隊に入りたいってヤツの中に、そんなのを気にするのがいるとも思えないんだがな」

 「・・・・・・・・・・・」

 理由を、真意を聞いた未奈はその時、綾の隊に入りたいと思った。

 綾を助けたいと思った。

 もう自分は、綾の他人ではないから。すくなくとも自分では、そう思っているから。

 未奈がそう決意したときだった。

 「終わったよ~」

 という、綾の声が廊下に響いたのは。

 「お疲れ」

 沙希が、詩織に労いの言葉をかける。

 「あのっ!綾さん!お願いがあります」

 未奈は立ち上がり、真っ直ぐにアカリを見、頭を下げ告げた。

 「私を隊に入れてくださいっ!」

 「えっ・・・・・?あ・・・・・ちょっと、未奈、顔上げて!」

 未奈が顔を上げると、憂いを帯びた綾の顔が視界に入ってきた。

 「その・・・・・私は・・・・・」

 「聞きました。綾さんが隊を作らない理由」

 「え・・・・・・・・!?」

 それを聞いた綾は、視線を沙希の方へ投げた。

 沙希は、何も言わない。

 「私は、もう他人じゃないです。友達です・・・・・まだ知りあって間もないですけど、私はそのつもりです。綾さんはどうですか?」

 「私は・・・・・未奈は大切な友達だよ。時間は関係ない。だけど・・・・・友達だからこそ、なおさら入隊許可はできない。私はもう・・・・・これ以上大切な人を・・・・・・・」

 綾の表情の影が濃さを増す。

 「だけど、友達だからこそできることもあります。私は、綾さんを助けたいんです。それに、それ(・・)は綾さんもお互い様だと思います。この先も一人で無理を重ねて、その結果綾さんが・・・。私は、そんなこと想像もしたくありません!」

 「未奈・・・・・・」

 「私もだよ、綾」

 「詩織・・・・・・」

 「その・・・理由とかは知らないけど、お互いに助け合えるのが友達でしょ?」

 友達――。

 その言葉は、綾の胸に深く、温もりをもってしみ渡った。それは、蒼い瞳から液体になって溢れ出る。

 「うん・・・・・・!」

 気づけば綾は、未奈と詩織の胸の中で泣いていた。涙は止めどなく流れ、そこから今までずっと無理と我慢を重ねていたことが分かる。

 未奈はふと考えた。

 興味本位で綾――アオアゲハについて調べたのがずいぶん前だからうろ覚えの記憶だが、綾が護姫になったのは今から一年ほど前になるはずだ。いや、綾がその大切な人をなくしたのがいつかわからないので、もしかしたらそれよりもっと前から、綾はこの世界ではずっと孤独だったのかもしれない。

 一年以上も孤独。

 『現実世界』にも『電子世界』にも、多くはないが友達がいる未奈には、想像が及ばない部分があるが、それでもそれがとても辛いことだというのは分かる。

 そして、それにずっと耐えていた綾だからこそ、一人でずっと頑張ってきた綾だからこそ、あんなにも強いのかもしれない。

 「え、えーと・・・・・その、ごめん。もう、大丈夫だから。それで、未奈の入隊だけど、許可する。その、これからよろしく。あと、詩織だけど・・・・・」

 「私も入るよ。いいでしょ?」

 そう言う詩織の瞳には、有無を言わさぬ光が宿っていた。綾にとっては、その光がなくとも、答えを変えるつもりはないのだが。

 「うん。改めて・・・・・よろしく。それと、その詩織のコードだけど・・・・・ミナには教えておくね。もう、同じ〈華焔〉のメンバーだから。えーと・・・・・」

 「《焦光の炎獄(ライトニング・フレイムライズ)》」

 詩織が、自らのコードを口にする。

 「わぁ、カッコいいです。・・・・・よし、バッチリ覚えました。あ、そういえば、詩織さんにはまだ私のコード、教えていませんでしたね。私のコードは《桜城の氷剣》です」

 「・・・・・じ、じゃあ、今日はもう帰ろうか。登録とかは明日やるから」

 「そういえば・・・・・沙希さんは?」

 未奈は、辺りをキョロキョロと見渡すが、沙希の姿はなかった。

 「いないってことは、帰ったみたいね」

 綾が、落ち着いた声で答える。

 「ま、いつものことだし。心配いらないわよ」

 そう言いながら、綾は受付で事務作業をしているユイナに声をかけた。

 「それじゃあ、私たち帰りますね。その・・・・・なんかすいません、いろいろ騒がしくて」

 「ん?あぁ、いや、別に気にしなくていいよ。仕事の邪魔にはならなかったから」

 「あはは・・・・・えーと、それじゃ」

 「ん、気をつけて帰りなよ」

 「はい」

 三人は、術師管理局を、そして電子魔術公館をあとにして、それぞれの家路についた。


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