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雷蝶の奏曲  作者: 重鳴ひいろ
三章
39/76

番外編/とある騎士と小さな王女――①

 騎士(ナイト)というのは、護姫(プリンセス)と比べて人間と接する機会が遥かに多い。

 となれば自然と、"変なヤツ"に遭遇する機会も多くなる。

 4月中旬のとある日。俺はその"変なヤツ"に出逢ってしまった。

 別に初めてのことではないから、頭を抱えこそすれ、驚いたりはしなかった。

 だが、今回ばかりは神を呪った。

 なんでこんなヤツに出逢ってしまったのか。

 そんなことを思うのに、時間はかからなかった。











 俺――滝浦秀が今いるのは、SN(server number).0037。通称、"アンティークタウン"と呼ばれている、観光サーバーの一つだ。

 その名の通り、アンティークな建物や建造物――もちろんすべて3DCGデータなわけだが――が立ち並ぶこのサーバーは、規模としてはそんなに大きくなく、犯罪率もかなり低い。

 そんな所に俺がいるのは、ごく単純な理由からだ。要は、受領した依頼を片づけるために来たってわけだ。しかも、そう難しくない、むしろ簡単の部類に入るやつだ。

 だから、今日は早く終われる――そのはずだった。

 だが、そうはならないのが現実で。問題はいつだって、突然飛び込んでくる。

 「――ん?」

 どだだだだだだっ!!

 「ぐおっ!」

 「ぬおっ!」

 やっと終わった、そう思った瞬間だった。

 そう、体と気持ちを緩めた瞬間、何かが懐に突っ込んできたのだ。

 ここは、アンティークタウンの中央広場――当然、多くの人間がいるわけで。つまりは、そんな場所で騎士が(・・・)脇腹抑えてごろごろのたうち回れば、自然と視線が集中する。

 「くぉぉお……っ!――誰だ、このレニア様の行く手を阻む馬鹿者はッ!」

 「その前にかける言葉はねぇのか!」

 俺はぶつかってきた何かが傲岸不遜に言い放った言葉に、怒りを乗せて言い返す。

 「見つけたぞ!」

 「むっ……もう追いついてきたか。こっちだ」

 「な…おいっ!」

 ぶつかってきた何か――否、ちっこい少女は、俺の手を掴むと全速力で脇道へと入る。

 少女は何かから逃げているらしく、結果的に(というか強制的に)俺まで逃げることに。

 まったくもって意味が分からない。

 というか、コイツはどんだけ握力あるんだよ。掴まれ引っ張られてる右手がすでに痛いんだが。

 少女は、狭い道を右に左に曲がりまくり、時には階段を下りたり上ったりしながら全力疾走を続ける。

 もちろん俺のことを気にしている様子はなく、俺は体のあちこちを壁やら柱やらにぶつけ、痣を増やし続けていった。

 そうして、結局少女が停止したのは、走り出してから15分ほど経過した頃だった。なんつー体力だ。

 「はぁ……はぁ……時に……貴様……」

 「はぁ……はぁ……何だ?」

 「なぜ貴様が一緒にいる?貴様のような知り合いはいないのだが……ストーカーか!?」

 俺は十分に呼吸を整えてから、少女の耳元で大声で言ってやった。

 「お前がここまで引っ張ってきたんだろーがッ!!」

 「――――ッ!……貴様、やっていいことと悪いことがあることぐらい分かるだろう!耳が壊れるかと思ったわ!馬鹿者が!」

 「こっちは体が壊れるかと思ったぞ。それに安心しろ、ここは電子世界だ。違法術師じゃないんなら、壊れても元に戻る」

 「……まぁ、よい。心が宇宙の如く広いレニア様が、貴様の所業を許してやる。感謝するがよい」

 「あのさぁ、さっきから偉そーなことばっか言ってるけど、お前は何なの?何で追われてたわけ?」

 「貴様………このレニア様を知らないと?無知は大罪だぞ、滝原秀(・・・)よ」

 「な……なんで俺の名前――」

 「貴様、自分が有名人だという自覚はあるのか?まぁ、よい。そんなことより、無知な貴様に教えてやる。感謝するがよい」

 そうして、なんだかよくわからないちっこい少女――秀の腰辺りまでしか身長がない――は、俺の返事も待たずに勝手に語り出した。

 裏道の裏の奥の奥、この妙に開けた、木製の長椅子まである空間で。

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