番外編/とある騎士と小さな王女――①
騎士というのは、護姫と比べて人間と接する機会が遥かに多い。
となれば自然と、"変なヤツ"に遭遇する機会も多くなる。
4月中旬のとある日。俺はその"変なヤツ"に出逢ってしまった。
別に初めてのことではないから、頭を抱えこそすれ、驚いたりはしなかった。
だが、今回ばかりは神を呪った。
なんでこんなヤツに出逢ってしまったのか。
そんなことを思うのに、時間はかからなかった。
♪
俺――滝浦秀が今いるのは、SN(server number).0037。通称、"アンティークタウン"と呼ばれている、観光サーバーの一つだ。
その名の通り、アンティークな建物や建造物――もちろんすべて3DCGデータなわけだが――が立ち並ぶこのサーバーは、規模としてはそんなに大きくなく、犯罪率もかなり低い。
そんな所に俺がいるのは、ごく単純な理由からだ。要は、受領した依頼を片づけるために来たってわけだ。しかも、そう難しくない、むしろ簡単の部類に入るやつだ。
だから、今日は早く終われる――そのはずだった。
だが、そうはならないのが現実で。問題はいつだって、突然飛び込んでくる。
「――ん?」
どだだだだだだっ!!
「ぐおっ!」
「ぬおっ!」
やっと終わった、そう思った瞬間だった。
そう、体と気持ちを緩めた瞬間、何かが懐に突っ込んできたのだ。
ここは、アンティークタウンの中央広場――当然、多くの人間がいるわけで。つまりは、そんな場所で騎士が脇腹抑えてごろごろのたうち回れば、自然と視線が集中する。
「くぉぉお……っ!――誰だ、このレニア様の行く手を阻む馬鹿者はッ!」
「その前にかける言葉はねぇのか!」
俺はぶつかってきた何かが傲岸不遜に言い放った言葉に、怒りを乗せて言い返す。
「見つけたぞ!」
「むっ……もう追いついてきたか。こっちだ」
「な…おいっ!」
ぶつかってきた何か――否、ちっこい少女は、俺の手を掴むと全速力で脇道へと入る。
少女は何かから逃げているらしく、結果的に(というか強制的に)俺まで逃げることに。
まったくもって意味が分からない。
というか、コイツはどんだけ握力あるんだよ。掴まれ引っ張られてる右手がすでに痛いんだが。
少女は、狭い道を右に左に曲がりまくり、時には階段を下りたり上ったりしながら全力疾走を続ける。
もちろん俺のことを気にしている様子はなく、俺は体のあちこちを壁やら柱やらにぶつけ、痣を増やし続けていった。
そうして、結局少女が停止したのは、走り出してから15分ほど経過した頃だった。なんつー体力だ。
「はぁ……はぁ……時に……貴様……」
「はぁ……はぁ……何だ?」
「なぜ貴様が一緒にいる?貴様のような知り合いはいないのだが……ストーカーか!?」
俺は十分に呼吸を整えてから、少女の耳元で大声で言ってやった。
「お前がここまで引っ張ってきたんだろーがッ!!」
「――――ッ!……貴様、やっていいことと悪いことがあることぐらい分かるだろう!耳が壊れるかと思ったわ!馬鹿者が!」
「こっちは体が壊れるかと思ったぞ。それに安心しろ、ここは電子世界だ。違法術師じゃないんなら、壊れても元に戻る」
「……まぁ、よい。心が宇宙の如く広いレニア様が、貴様の所業を許してやる。感謝するがよい」
「あのさぁ、さっきから偉そーなことばっか言ってるけど、お前は何なの?何で追われてたわけ?」
「貴様………このレニア様を知らないと?無知は大罪だぞ、滝原秀よ」
「な……なんで俺の名前――」
「貴様、自分が有名人だという自覚はあるのか?まぁ、よい。そんなことより、無知な貴様に教えてやる。感謝するがよい」
そうして、なんだかよくわからないちっこい少女――秀の腰辺りまでしか身長がない――は、俺の返事も待たずに勝手に語り出した。
裏道の裏の奥の奥、この妙に開けた、木製の長椅子まである空間で。