#30 <華焔> vs ベルガッセ――⑬
やほい(^O^)/
神崎です。
まずは謝辞から。
皆さん……30話、書きすぎてしまってゴメンナサイ。
結構長いです。読む際は頑張って。時間のある時に読みましょう。
さて、この話でとりあえず、第1章にあたる部分が終了します。
やっとです。
長かった。13て……。ベルガッセ戦長くやりすぎましたかねー。
さて、今後の展開ですが……。
「綾が……殺された……?」
雷蝶の翅は折れ、彼女の奏曲は断たれた。
――最後の一音を残して。
「これは……!?」
電子世界が灰くなり、混沌とした渦が巻き始める。
その時世界は、いかなる音を響かせるのか――。
というわけでですねー。
一度やってみたかった嘘予告。嘘だからね?本気にしないでよ?
…………さて、立ち去った人と笑止した人、呆れた人、驚いた人(いるのかなぁ)、その他、円グラフにしたらどんな結果になるんだろう。
ごめんなさい。どうしてもやってみたかったのです。
頭の中に浮かんでしまったのです。
だからどうか、見限らないで。
さて、本当の予告をしましょう――次話のではないです(^_^;)。
時は5月の末から6月の初め。
学生ならば避けては通れない、現実世界の現実。
バカと天才が確立するあのイベントです。
というわけで、前書きまで長くなってしまいましたが、この辺で。
じゃ。
「バゼル……」
秀が、綾の隣で人影――赤い双眸をした、左腕に刺青を刻んだ少年――の名を呟く。
綾はもちろん、リオナもその名をもちろん知っていた。
ギルド"ベルガッセ"メンバーで、ギルドの総意と称し他ギルド合計7つを単独で襲撃した。
電子世界でのことなので死者はいないが、多数の負傷者が出たのは事実だ。
当然、ギルドマスターとともに電子世界における最高裁判所"電子統管評議会"に呼ばれ、その真偽を計られた。
そして、バゼルはその事実を認め、事の大きさを鑑みて今度はステイルが、その管理責任を問われた。
結果的に、ギルドそのものが違法扱いとなり、メンバー全員が違法術師として処罰対象となることが正式に騎士・護姫に発表された。
つまり、今綾たちの前に現れたバゼルは、ギルドを違法ギルドへと貶めた張本人ということになる。
「皆さん、下がっていてください」
リオナが、全員を一人ずつ見渡しながら、普段よりやや硬い声音でそう言った。
そうして、一歩前に出ると、バゼルと同時に呟く。
「「電子魔術、起動」」
リオナは、バゼルよりも数瞬速く、起電術音を唱える。
「テュエス・レビレ・アンフェルテ」
その後はすべてが一瞬だった。
バゼルの周囲に現れた、5つの円環術譜が、さらに"復現"によってそれぞれ別の向きで5組展開する。そうしてバゼルを取り囲んだ、合計25の円環術譜から25本の熱線が同時に放たれた。
バゼルは防御魔術を展開することも、攻撃魔術で打ち破ることも、ましてや回避することも叶わず、その身体を粉々に砕かれた。
と、ここで予想だにしなかったことが起きた。
さっきまでバゼルがいた場所から、1つの光球が綾の元へと飛んできた。
綾には、その光の質感や雰囲気から、それが何か直感的に理解した。
「これが………フラグメント………?」
綾は、その紫色した光に指先で触れる。
「…………」
暖かった。その光は、綾にとってとても懐かしい温もりを持っていた。
綾が触れていたのも一瞬、光は綾の中へと入った後、すぅと消えた。
辺りに、静寂が満ちる。見渡せば、廃れた街はその大部分が崩壊していて、原形をとどめている物はごく僅かだった。
「センパイ」
水を張ったような静寂を破ったのは、リオナだった。
「バックアップデータがないって、どういうことですか?」
その声には、はぐらかす事を許さない、確かな力があった――綾を真正面から見つめる、リオナの両の瞳にも。
「――『ウイルス・ブレイク』を知ってる?」
「あ……私は、知ってます」
リオナは、その時のことを瞬間的に思い出したのか、少し顔を俯けながら、そう答えた。だが、詩織だけが首を傾げていた。
「全ての術師のバックアープデータがある巨大サーバーに強力なコンピュータウイルスが侵入して、バックアップデータを全破壊した。同時に、電子世界のあちこちのターミナルやサーバーでネットワークウイルスが大量に出現して、ログインしていたほぼ全ての術師が襲われた。それが『ウイルス・ブレイク』」
バックアップデータを破壊されたため、多数の死傷者が続出し、多くのターミナルが崩壊した。
ネットワークが寸断され、隣接するターミナルへすら移動できなかった。
そしてこの事件の最中で、綾はフラグメントとなった楽譜を手渡され、手渡した"大切な人"は死亡した。
さらにその綾も、バックアップデータを失った。正確には、綾だけバックアップデータを復元することも、新たに生成することもできなかった。
綾は、この事件を機に、電子世界のバグ的存在になったのだ。
綾が事件の概要を語り終えた時、沈黙が空間を満たしていた。
「さてと……戦闘も終わったし、帰りますか」
綾は、場の雰囲気を崩すように、軽い口調でそう促す。
「その前に――」
だが、その提案に制止をかける者がいた。秀だ。
「えーと……」
「坂井祐太」
祐太に視線を向けたまま固まる秀に、綾が名前を教える。
「坂井祐太、お前は今後どうするんだ?」
「俺は……」
祐太は違法術師だ。それは、全ての原因たるバゼルを処罰したところで、変わることはない。
だが、騎士や護姫なら、その立場を変えることができる。
電子統管評議会と並列組織にある騎士や護姫には、それだけの力が立場上ある。
「居場所がないんだったら、俺の隊に来いよ」
「……俺は違法術師だぞ。そんなこと……」
「できるんだよ。俺は騎士だから」
祐太は、視線を未奈の方へと向けた。
未奈は、何も言わずに一回頷く。
「……決めた。入ります、秀さんの隊に」
「あれ?俺名前言ったっけ?」
「秀さんは有名人ですから」
「あー……なるほどな。そーゆーのあんまり自覚なくて。まぁとにかく、今後よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「それと、敬語は禁止な」
「え?」
「――って言いたいところなんだけど、あいつら揃ってタメ口で話そうとしないから、まぁ好きにしろよ。俺自身はどっちでもいいから、周りの空気察して、話し方は自分で考えろ」
秀は、頭をガシガシと掻きながら明後日の方向を見る。その脳裏には、隊のメンバーの顔が浮かんでいた。
「あ、はい」
「手続きとか処理とか、そういう面倒なことは俺がやっとくから、お前は隊に溶け込む努力でもしておけばいいから。……さてと、話は終わり!帰るか」
6人は、秀のその言葉に従って電子世界を後にした。
指定した座標軸は私立アンジエスタ学園正門前。
「それじゃあ、俺たちはここで」
「中で一緒に手当受けていけばいいのに」
それじゃ、と言いかけた秀に、綾がそう提案する。
「あのなぁ、いくら共学っていっても、生徒全員が女子の学校だぞ?入ったら、どんなトラブルに見舞われるか……そういうことだから、俺たちは近くの病院に行くよ。じゃあな」
「うん。………………秀!」
綾は、西日に照らされながら去っていく背中を呼び止める。
「何だ?」
「今日は、ありがとね」
そう言った綾の顔には輝くような笑みが浮かんでいて、夕日の朱の光が綾を普段よりも綺麗に魅せていて、秀は頬が熱を持つのを感じながら、顔を逸らす。
「お、おう」
秀は、後ろ手にそう答える。
その隣で、右肩を押さえている祐太が、腹まで押さえていた。
その数秒後、その顔は青く染まる。
一方綾たちは、キャンパス内にある大学付属病院――大学の学部のひとつである医学部が主となって運営している――に赴き、手当をしてもらい帰路についた。
こうして、ベルガッセ戦はその幕を閉じた。
だが、今回綾が手にしたのは、5つあるフラグメントのうちの1つ目である。
物語はまだ、その序章を終えたに過ぎない。